ドラマ 火の魚

スタッフから

脚本家

渡辺 あや

1970年 兵庫県生まれ。島根県在住。
大学卒業後、ドイツで5年間を過ごす。
2003年に映画「ジョゼと虎と魚たち」で脚本家としてデビュー。 その後、主に映画の脚本家として活躍。
独特の感性で、心の機微を描き出す若手実力派として、高い評価を得る。
テレビドラマの脚本は、本作品が初めて。 
【主な作品】
映画「ジョゼと虎と魚たち」(2003年) 
映画「メゾン・ド・ヒミコ」(2005年)
映画「天然コケッコー」  (2007年) など

渡辺さんのメッセージ

ボクサーでもなければレスラーでもなく、
街を歩いていていきなり喧嘩をふっかけられたとかの経験もない私ですが、
ふと気付くと「なんか今、決闘してる!」と思うことが時々あります。

格闘家のみなさんもおそらくはそうであるように、
そのとき私も特に相手がきらいというわけではなく、
むしろ相手のなんらかの力量を深く信頼したとき、
あるいは相手から信頼されたときに、
両者をぐるりと囲むロープがあらわれ
いつのまにかそこがリングへと変貌しているのです。

種目が何であれ相手が誰であれ一緒にリングにあがった以上は、
「受けてたつこと」
「負けないでいること」
というのが結局のところ、相手に尽くせる最高の礼なのかもしれない。
最高の礼を相手に尽くすことができるとき、
自分もまた最高に幸福な時間の中にいるように思います。

年も立場も違う男女の「格闘技」のつもりで、この物語を書きました。
村田と折見の間にばちばちと散る火花はしかし火花だけあって、
ふたりを最後まであかるく照らし、あつく熱し続けます。
そして同じものが、このドラマを一緒につくった
すべての仲間同士の間にもまたたいていたのだと思います。

闇をも照らすまぶしい刹那(せつな)を、この「試合」に見つけていただけたら、
こんなにうれしいことはありません。

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制作統括 行成 博巳

「今回の番組で、伝えたかったテーマは何ですか?」 プロデューサーを務めている私は、こうした質問をよく受けます。 でもそのたびに、「うーん」と考え込んでしまうことが多いのです。

番組を作る時、私は、視聴者の皆さんに“感じて”もらう「余白」を多く作り、 皆さんの手で、未完成の物語を完成させてもらいたいと考えてきました。 遠い恋の記憶、父母への感謝、いのちの輝き。 そんなごく普通の、“切ない感情”が、 自然と湧き上ってくるような番組・ドラマを作りたいと思っています。

『火の魚』は、53分の短いドラマです。 出演者も少なく、物語にダイナミックな展開はありません。 情感を大事にしたため、分かりにくい部分がたくさんある作品です。 変化の波に揺れるこの時代に、あえて虚構の世界で、 地味に静かに、人間の内面(変わらないもの)を描いてみようと考えました。

このドラマが制作者の手を離れて、視聴者の皆さんのドラマになる。 それが、プロデューサーとしての、一番の願いです。

演出 黒崎 博

2年前の夏、僕は初めて広島の平和記念式典に参列した。1万人余の参列者がパイプ椅子に座り、黙とうを捧げるのを後ろの方から見ていた。老人の後頭部ばかりが海のように広がっていた。その中に、わずかだが若い女性が混じっているのが見えた。そのうなじは夏の日差しに白く光って、とても目立った。僕は、しばらく目を奪われたままだった。

ここでは老人と若者が同じ思いで、黙って座っている。たがいに言葉を交わすこともなく、ただ座っているのだが、世代は違っても同じように「死」を思い、「生」を生きている。人間はみな「死」に向かって「生」を生きているのだ、というようなことを思った。

『火の魚』は7年前から温めていた企画で、室生犀星の短い小説に登場する金魚はとてもエロチックで魅力的だった。そこには何より、「命」という強いテーマが含まれているように思えて、今、表現したい世界と強く重なった。渡辺あやさんは、そのテーマをあくまで簡潔に、切れ味のある脚本に仕上げてくれた。

緊張感にあふれた撮影現場だった。

主人公を演じた原田芳雄さん、そして尾野真千子さんたち出演者は、自分の人生を重ね合わせるように役を演じてくれた。彼らが今までどのように時を過ごしてきたか、その結果が演技に表れているようで、それをかぶりついて撮るのが演出の仕事だった。

広島の小さな島からお届けする「命」の物語。不思議なドラマになったことは間違いない。短編小説を読むように、楽しんでいただけると幸いである。