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ひきこもり 第4回 支援者の視点から

2017年09月06日(水)

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きこもり
第4回 支援者の視点から

自治体や地域のひきこもり支援
“高年齢化するひきこもり”の支援ニーズに対応する
ひきこもりの人たちと“新たな未来”を描く
まとめとして

第1回 第2回 第3回 第4回

 

Webライターの木下です。
NHK厚生文化事業団からこの春リリースされた福祉ビデオ『ひきこもりから回復』(DVD全3巻)について紹介していくウェブ連載の最終回です。

自治体や地域のひきこもり支援

 
ひきこもりの回復は、本人や家族に任せるだけではなく、周囲からの支援が必要不可欠であることが、これまでのビデオ内容を紹介するブログで明らかになったと思います。しかし、ひきこもりから一歩踏み出して、ひきこもりの経験者のための「居場所」や「交流会」へと参加しても、「就労」に至るまでには、さらに大きなハードルがあります。

ひきこもり経験者が集うような場では、同じ体験をしてきた者同士ですから、大きなストレスはありません。しかし、就労の場では、本人が厳しい評価の目にさらされることになります。いきなり企業に就職しても、再び挫折感を味合い、ひきこもり生活に戻ってしまう可能性もあります。就労や社会生活の場にも、支援や工夫が必要です。福祉ビデオの第3巻では、自治体の支援サービスや社会変革のための若い世代の試みについて紹介します。


“高年齢化するひきこもり”の支援ニーズに対応する


自治体の支援サービスの事例として紹介されるのは、秋田県藤里町です。藤里町は人口3500人の小さな町で、高齢化率は44%にも達しています。地元の社会福祉協議会が行った実態調査では131人がひきこもり生活を送っていることが明らかになりました(2011年当時)。驚くべきことに、その4割は「40代以上の人たち」でした。

かつては、ひきこもりは不登校の延長線上で理解されることが多かったために思春期の問題と考えられていました。しかし、斎藤環さんが家族会の協力のもとに行った調査によれば、現在のひきこもりの平均年齢は34歳であり、ひきこもりの“長期化”と“高齢化”が進んでいることが明らかになっています。社会経験が乏しい子どもや若者だけではなく、就労経験のある中高年でもひきこもりになることが知られるようになりました。

藤里町では、このような事態を重く受け止め、社会福祉協議会が中心になって、対応策を考え始めます。藤里町の活動がユニークなのは、ひきこもりの人たちの『心の悩みを聞く』のではなく、『情報の提供』に徹したことでした。調査を行う過程で当事者たちの声にじっくりと耳を傾けていくと、「外に出たい」「働きたい」という意思はもっていましたが、「その機会と場所がない」と苦しんでいることが分かったためです。そのようなニーズに応える活動プログラムを用意し、拠点として中間的就労施設の『こみっと』を立ち上げ、必要な情報を提供していきました。

福祉ビデオに登場する男性(40歳まで12年間ひきこもり続けていた)が反応したのは「ホームヘルパー研修」でした。研修を受ければ、訓練・生活支援金として10万円が得られるところに引かれました。

その男性はひきこもった当初、「らせん階段を登っているつもりが、どこかで落ちてしまった。また登ろうとするけど、すいぶん高いところで階段が始まっている感じだった」と言います。そして「当初らせん階段はそこら中にあって手が届く感じだったのが、気がつくと少しずつ階段が上がっていて、手が届かなくなっていった」とひきこもりの日々を振り返ります。

その男性にとって、社会福祉協議会が提供する情報はひきこもりを脱する貴重な手がかりとなりました。いまは、社会福祉協議会の仕事を手伝い、高齢者支援や町づくりの担い手として、高齢者たちから慕われる存在となっています。

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藤里町ではひきこもりの経験者たちが、高齢化の進む町の担い手として活躍している。


いま全国の地方都市では、藤里町と同じように中高年のひきこもりが大きな問題になっています。「支援のための社会資源の乏しい藤里町のような小さな町で、成果を上げることができたということは、他の町にとっても参考になる事例だ」と斎藤環さんは言います。高齢化が進む町では、40代、50代でも若い力として歓迎されます。長年ひきこもっていた人を、地域づくりの担い手として迎えることも、就労のひとつのあり方と考えられます。



ひきこもりの人たちと“新たな未来”を描く


ビデオの3巻の最後に紹介されるのは、従来のひきこもり支援とは異なる、まったく新しいアプローチです。当事者の活動を新たな社会の価値につなげていく民間プロジェクトで、ひきこもりフューチャーセッション[庵 -IORI-]のディレクターの川初真吾さんが仲間と共に立ち上げました。ひきこもりの人たちとともに新しい未来を描き、『ひきこもりが問題とならない社会』を創るのが目標です。

庵は2カ月に一度、偶数月の第一日曜日に都内の公民館などを借りて開かれます。開催にあたっては必ず「事前ミーティング」が開かれ、ひきこもりの経験者や当事者、家族、ひきこもりに関心にある一般の人たちが集まり、そこでの話し合いの中から活動のプログラムが決まっていきます。支援者が一方的に活動のプログラムを組むのではなく、それを企画する段階からひきこもりの当事者たちが関わっていきます。


20170830_hiki012_nhklogo.pngフューチャーセッション[庵 -IORI-]で行われた『印象力UP!講座』。

ひきこもり経験のあるふたりの女性は『印象力UP!講座』を企画して、他のひきこもり経験者たちに自分を表現する洋服の選び方をアドバイスします。ひきこもり経験のある木村直弘さんは『ひきこもり新聞』の発行を提案し、庵で出逢った仲間と共に発刊へとこぎつけました。従来の支援が、過去の傷を癒したり、苦手や欠点を克服するための支援なのに対して、ここでは本人ができること、好きなことに積極的にチャレンジしてもらいます。

ディレクターの川初さんは自分の弟がひきこもった経験から、「ひきこもりの人が何もできないネガティブな人ではないこと」がわかっていました。「他の人とは違う生き方を選択したことや、その繊細さには何らかの価値があるはずだという確信を持っている」と言います。「ひきこもりの人は、自分が支援の手を差し伸べる相手ではなく、ともに未来を創っていくパートナーだ」と考えています。自分たちの世界に復帰することを“求める”のではなく、まだ誰も描いていない余白に一緒に絵を描くために、ひきこもりの人の知恵に学び、手を取り合う場が[庵 -IORI-]です。

第3巻では、他にも、国が各自治体に設置を進める「ひきこもり地域支援センター」の中でも先進的な取り組みを行っている横浜市青少年相談センターのケースを紹介しています。


まとめとして


福祉ビデオ第3巻の最後に、斎藤環さんは「ビデオ全体を通じて、ひきこもりの人を支援するさまざまな試みを知ることができて、多様な場が出てきている印象をもった」と話します。そして、「たとえどれだけ長くひきこもっていたとしても、社会参加は無理だとあきらめることなく、そのような場とつながることで自分の中に起こる変化を大事にしてほしい」と訴えました。

また、司会の町永俊雄さん(福祉ジャーナリスト)は「このビデオで紹介されるのは一つの正解ではなく多様な答えであり、その選択ができることが重要だ」と指摘します。「ひきこもりの人の切なる思いを受け止め、ともに考えてくことで、それぞれの人生観・家族観・社会観が豊かになっていくのだと感じた」とビデオ全体を締めくくりました。

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司会 町永俊雄(福祉ジャーナリスト)

 

福祉ビデオ(DVD全3巻)の内容をブログで紹介しましたが、236分もある内容のほんの一部に過ぎません。スタジオのトークには、ブログでは紹介しきれなかった大変貴重な言葉があふれていますし、VTRの事例もスタジオ同様に回復に向かうための多くのヒントが詰まっています。NHK厚生文化事業団のサイトにアクセスして、DVDを貸し出していただき、ぜひ実際にご覧になっていただきたいと思います。

映像に登場するひきこもり経験者の皆さんを見れば、自分たちが勝手に想像する《ひきこもり像》といかに違って、「自分たちの身近にいくらでもいそうな普通の人」であることに気づかされると思います。ひきこもりの人の苦しみの多くは、社会的な偏見から生じると言われています。決してセンセーショナルにではなく、ドラマティックでもなく、リアルな実像を、映像を通して知る意義をぜひ感じてもらいたいと思います。

 

木下 真

▼関連ブログ記事
 ひきこもり(全4回)
  第1回 福祉ビデオでひきこもりの回復事例を学ぶ
  第2回 「私がひきこもった理由」(第1巻):本人の視点から考える
  第3回 「我が子がひきこもったとき」(第2巻):家族の視点から
       第4回 支援者の視点から

★NHK厚生文化事業団・福祉ビデオライブラリー
 『ひきこもりからの回復』DVD3巻を無償で貸し出しています(※送料のみご負担)
 ※貸出しについては「NHK厚生文化事業団」のホームページをご覧ください。

ブログで紹介した各団体の詳細はホームページよりご覧いただけます。
ひきこもりフューチャーセッション[庵 -IORI-(NHKサイトを離れます・別ウィンドウがひらきます)のホームページ
『ひきこもり新聞』
のホームページ

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