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ひきこもり 第3回 「我が子がひきこもったとき」(第2巻):家族の視点から

2017年09月06日(水)

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きこもり
第3回 「我が子がひきこもったとき」(第2巻):家族の視点から

本人とともに苦しむ親たち
葛藤の中で安心できる家庭を維持する
家族支援を求めることが解決の早道

第1回 第2回 第3回 第4回

 

Webライターの木下です。
この春リリースされたNHK厚生文化事業団・福祉ビデオ『ひきこもりから回復』(DVD全3巻)について紹介していくウェブ連載の第3回目です。


本人とともに苦しむ親たち


第2回では、《本人の視点》から、家族の問題について触れました。ひきこもりの本人は社会的な挫折体験だけではなく、家族に対する葛藤や罪悪感に苦悩し、ひきこもりが長期化している事情が明らかになりました。

しかし「家族の問題」がひきこもりの核心にあると言っても、それは親子関係にもともと問題があったわけではありません。福祉ビデオの監修者で精神科医の斎藤環さんは「むしろ問題のない家族がほとんどだ」と言います。当たり前に子どもを愛し、当たり前に子どもの将来を心配する普通の親だからこそ、子どもはその親に心配をかけているという罪悪感にとらわれ、親に責め立てられている気持ちになり、強いストレスを感じることになります。


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監修者:斎藤環さん(筑波大学 教授)

そして、傷ついているのは子どもだけではありません。「長年部屋にこもったままの子どもが家にいる」というだけで、親の心労は大変なもので、自責の念にもさいなまれます。当初は叱咤激励したり、事情を問いただそうとしたりしますが、やがて会話も途絶えがちになり、何年も顔を合わせることがないというケースもあります。本人だけではなく、他の家族との間にも会話が少なくなってきて、家庭がくつろぎの空間ではなくなり、ピリピリとした空気に包まれます。子どものことを知られたくないために、隣近所や社会との接点も希薄になっていきます。斎藤環さんは、《家族》が《社会》から乖離するのも、『ひきこもりシステム』が長引く要因のひとつだと言います。

家族は長年一緒に暮らしているために、相手のしぐさや表情から、無言のうちにさまざまなメッセージを受け取る関係にあります。親は当初は積極的な働きかけをして、子どもを導こうと試みますが、やがてそのような試みも子どものストレスになっていることに気づき始めます。「子どものために」という思いが、子どもを救う手立てにならないことから、なす術がなくなり、本人と同様に無力感や挫折感にさいなまれるようになります。

では、実際に子どもが長期にわたってひきこもっている親たちはどんなことを思っているのでしょうか。福祉ビデオ『ひきこもりからの回復』第2巻では、その《親たちの声》に耳を傾け、家族の視点からひきこもりについて考えます。


葛藤の中で安心できる家庭を維持する


第2巻に出演するご夫婦の長男タツキさんがひきこもるようになったのは、19歳のときでした。きっかけは大学受験でした。タツキさんは、第1次志望の大学に不合格となり、二度目の受験も上手くいかず不本意な大学に通うことになりました。そして、ある日大学に通うことができなくなります。戸惑った父親は「なぜ通えないんだ。ふつうにみんな通っているだろう」と叱りますが、詳しい事情を聞くことはできませんでした。その後、自分の部屋にひきこもるようになり、昼夜逆転の生活が続きました。

母親は部屋にこもった息子を案じ、何十回、何百回も階段の下からタツキさんの部屋を見つめる日々が続きます。「これからどうなるのだろうか。ずっと部屋に居続ける生活が続くのだろうか」と不安な気持ちに襲われますが、「辛いのは本人なのだから」と声をかけたいという気持ちを何とか押しとどめました。

夫婦は「ごくふつうの当たり前の家族であろう」と努めます。心がけたのは、できる限り家族みんなで食事をともにすることです。そして、父親は休日になると、子どもが小さい頃から好きだった海釣りに誘います。海釣りは父親の趣味でもあったので、タツキさんの心の負担も軽かったためか、誘いを断ることはありませんでした。本人が自分自身を責めていることはわかっていたので、それ以上追い込むことはせずに、無理をかけずに楽しいことを見つけられるように気を遣いました。


20170830_hiki009_nhklogo.png家族会『楽の会リーラ』のカフェでボランティアをするタツキさん。


こうした両親の粘り強い支えによって次第に心と体の状態を回復させていったタツキさん。ある日、父親が「自分の店の人手が足りなくなったので、アルバイトをしてくれないか」と頼むと意外なことに素直に応じてくれました。そして、母親が探した地元の家族会『楽の会リーラ』の支援も受けながら、少しずつ回復への道を歩み始めます(詳しくは福祉ビデオ・第2巻をご覧下さい)。


家族支援を求めることが解決の早道


斎藤環さんは「ひきこもりはほっておけば、自然に回復するものではなく、時間とともに悪化していくケースが多い」と言います。福祉ビデオ第2巻に出演した家族では、子どものひきこもりは10
年余り続きました。決して軽い例ではありません。しかし、親が自然なかかわりを絶やさずに、安心していられる空間を確保することに務めたことから、こじれることなく、回復に向かったのだと言います。

しかし、このケースでも、親の葛藤は並大抵のものではなかったことがうかがえます。子どもの将来に大きな不安を抱えた親が平静な態度を装うのは大変です。そんな親の心の負担を少しでも減らすために有効な手段となるのが『家族支援』です。母親が、自らそのような集まりに出向き、助けを求めたことも子どもの回復へとつながることになりました。

現在は全国津々浦々にひきこもりの家族会や支援団体がありますが、そのような会に参加して、同じ悩みを抱える親たちと話をしたり、ひきこもりから回復した家族の例を知ることで、親の心の傷も癒されると言います。そのことが、ひいてはひきこもっている本人の心の負担も減らすことにつながっていきます。

ひきこもりによって親子関係がこじれると、最悪の場合、家庭内暴力に至ることもあります。そのような場合でも、自分たちだけで解決しようとするのは容易なことではなく、「周囲に助けを求めることが、解決の早道である」と斎藤さんは言います。

第2巻では、Q&Aに答えるコーナーを設け、「子どもを医療につなげる方法」「家庭内暴力への対処法」などについても、精神科医の斎藤環さん、NPO法人楽の会リーラの事務局長の市川()允(おとちか)(さん、ひきこもりピアサポーターの大橋史信さん(ひきこもりの経験者)が、自らの体験に基づく貴重な意見を述べています。


20170830_hiki010_nhklogo.png『楽の会リーラ』の市川さん(左)と大橋さん(右)

 

木下 真

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  第3回 「我が子がひきこもったとき」(第2巻):家族の視点から
       
第4回 支援者の視点から

★NHK厚生文化事業団・福祉ビデオライブラリー
 『ひきこもりからの回復』DVD3巻を無償で貸し出しています(※送料のみご負担)
 ※貸出しについては「NHK厚生文化事業団」のホームページをご覧ください。

ブログで紹介した各団体の詳細はホームページよりご覧いただけます
◆「NPO法人 楽の会リーラ」のホームページ
◆「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」のホームページ
 ※ホームページから各県の家族会支部の連絡先をご覧いただけます

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