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伊藤詩織さんが語る #MeToo

2018年03月23日(金)

伊藤詩織さんが語る#MeToo

ハートネットTVでは、3月8日、「#MeToo私はこう受け止めた」という企画を放送しました。性暴力被害の当事者にとって、#Metooの動きはどのような影響があるのか、その声に耳を傾けるという内容です。ハリウッドで#Metooの動きが始まったのとちょうど同じ頃、日本で性暴力被害を受けたとしてジャーナリストの伊藤詩織さんが本を出版、注目を浴びました。伊藤さんは、現在イギリスを拠点に、性犯罪を女性の問題としてだけではなく、社会全体の課題として捉えていくための取材活動を展開しています。さらに、3月3日には国内の仲間と「#WeToo」という新たな運動をスタートさせ、16日、ニューヨークの国連本部で記者会見を行い、広く呼びかけました。
私たちは記者会見の直前に、伊藤さんにとっての#MeTooとは何なのか、そして#WeTooに込めた思いをうかがいたく、取材を申し込みました。中年男性の私よりも同世代の女性のほうが話しやすいかもしれないと考え、今回、ハートネットTVの女性ディレクターがインタビューを行いました。

(文責・Webライター木下真)

 




言葉にすることで自分を信じる


伊 藤 :今日のインタビューはすごくうれしいです。これまでジャーナリストの大先輩たちからのインタビューが続いて、緊張することが多かったのですが、今日は同世代の方と話ができる。


詩織さんは1989年生まれで、私は1988年ですから、1歳違いですね。海外での#MeTooの動き、日本でもブロガーのはあちゅうさんなどの告発もありました。そして詩織さんの記者会見や手記の出版。共通するのは、体験した本人が声を上げると言うことだと思います。声を上げる行為は、当然ダメージやリスクもあると思うのですが、どういう意味があると感じますか。

伊 藤 :そうですね。本来であれば、誰にも話したくないことですよね。物を盗まれたことは話せるのに、このことはなかなか話せない。私も誰にも知られたくない、見られたくないというのは、すごくありました。自分に起きたことに向き合うというのは辛いけれど、でも、それを言語化することにはすごく意味がある。事実や真実を当時の記録をもとに確認すれば、責任をもって話すことができる。そして、言葉にして、事実として人に伝えるというのは自分を信じることでもあると思いました。


表現することで、自分を肯定できるということですね。

伊 藤 :そうですね。言葉にするのはとても大切だと思います。それが苦しい経験であったとしても、言葉にすることで、自分だけではなく、社会も何が起こっているのかを知ることができる。日本社会の反応を見ると、性暴力被害について話すというのは大変なことです。だから、#MeTooというのも、大きなきっかけになったのではないかと思います。 ただ、#MeTooというムーブメントがなかったとしても、「同じ思いをしている人がたくさんいる」というのは感じていました。しかし、その声はずっと埋もれていた。その一部が、今回初めて表出しましたが、本当はもっと昔から聞かなければならない声でした。

取材を通じて事件と向き合う

取材を通じて事件と向き合う


言葉にすることを大切にし、ジャーナリストとして自らに起きたことを客観視しようとされている姿には、尊敬をいだきます。一方で同じ'ひとりの女性'、また同世代の人間として心配にもなります。どうして、そこまでできるのだろうと。何が詩織さんを突き動かしているのですか。

伊 藤 :......。たぶん、起きた出来事を「当事者」として受け止めきれていないからだと思います。自分の中で第三者的な視点、ジャーナリストという仕事を通じて向き合うのが、唯一、私がいまできることなのだと思います。私はものすごく弱い人間なので、当事者としてこのことに向き合ったら、たぶんやっていけない。壊れてしまう。今回のことはものすごくショックでした。事件そのものもそうですが、その後の捜査だったり、病院の対応だったり、社会の反応だったり・・・。とにかく辛い。そして、自分と同じような体験をした女性たちが、こんな辛い思いをしていたことに気づいていなかった自分にもショックを受けました。私がそれを伝えなければ、私はそのことだけをやっていこうと思ったのです。ジャーナリストとして向き合うというのは、ある意味で自己防衛かもしれません。


海外でも性暴力の問題について積極的に取材をされているそうですね。

伊 藤 :私は性の問題はタブーにして隠すのではなく、可視化することが大切だと思っています。例えば、現地で研究されている方にうかがったのですが、オーストラリアには「Respectful Relationship」という、小学生の時から、男女が互いに尊敬し合える関係をつくるための性教育プログラムがあります。そこで重視されるのは、異性への想像力、相手を思いやる気持ちです。そういう海外の事例を紹介していくことで、日本の現状が変わり、将来の被害者を少しでも減らしていけるのではないかと思っています。

周りが声を受け取る大切さ


詩織さんと同じような体験をした人は他にもいると思います。でも、#MeTooがあっても、声を上げることすらできない人もいますよね。

伊 藤 :人にはそれぞれタイミングがあるし、言う言わないは、誰にも強要されてはいけない。自分で決めることだと思います。声を上げたくても上げられない状況があるのですから、#MeTooの動きがプレッシャーになってはいけない。そして、もし声を上げようと思ったときには、どこかで自分を支えるものを見つけてから言ってほしいです。安心できる場所だったり、人だったり、お守りでも。何かあったときに、自分を安心させてくれる何かです。また、本人が声を上げたときには、周りがもっともっと耳を傾けてほしいと願っています。声を上げるというのは、受け手がいないと意味がないからです。誰にも届かないと思うのに、声を上げる人はいません。公的な場所をつくることも大切ですけれど、耳を傾けるのは個人でもできることなので、ぜひお願いしたいです。

#WeTooでプラットホームをつくる

 

 

3月3日、伊藤さんをはじめ、女性団体や企業関係者、大学教授などが参加する「#WeToo Japan」のスタート記念イベントが東京・渋谷で開かれました。100名を超える人々が集まり、「パワハラ、セクハラ、SOGIハラ、性暴力、すべての暴力を許さず、声を上げるために何ができるか」を考えました。パネルディスカッションでは、「もっと理想の男女の関係があるはずだ」と、ジェンダー平等を実現するための国内外の活動が紹介されるなど、未来へ向けての提言がなされました。

 

#WeTooスタート記念イベント

#WeTooスタート記念イベント


詩織さんたちは、3月3日に#MeTooではなく#WeTooを始められました。これを思いつかれたのは、詩織さんですか?

伊 藤 :日本では#MeTooと安心して声を上げる、助けを求めることのできる社会的環境が整っていないことを強く感じました。そこで仲間と集まり、今後どうしたら声なき声をサポートできるか話し合っていた際、当事者だけではなく、周りの人もサポートしていくということで、「Me」からわかりやすく「We」に変えたらどうだろうと提案しました。もちろん、これは文法的には間違っているのですけど、すでにカナダで同じ呼びかけをしている方もいるようです。


#MeTooではダメだと思ったのはなぜなのですか。

「#WeToo  Japan」のスタート記念イベント伊 藤 :#MeTooだと個人的な問題にされてしまうということがあります。とくに、日本の社会では自分の意見を述べたり、ディスカッションする文化がかけているので、個人が声を上げるとすぐに対立関係になってしまう。それに、声を上げる人も#MeTooだとすごく負担が大きい。だったら、#WeTooにして、ひとりではないという気持ちを込めれば、言いやすいように思ったのです。#WeTooは発足にあたっては、一人ひとりが自分のできることを自らやってほしいという願いがあるので、ゴールは設けていません。また、この問題を改善していくためにはやるべきことがあまりにも多すぎるので、まずはプラットホームとして、みんなで手を取り合って、行動しようということです。やりたいことは自然に出てくるでしょう。可能性は無限にあります。

※写真:「#WeToo Japan」のスタート記念イベント会場にて


最後に、同じメディアの仕事をしている仲間としてお聞きしますが、詩織さんはひとりのジャーナリストとして、いま何を伝えたいと思っているのですか。

伊 藤 :自分は人間が好きだからこの仕事をしているだけで、何かトピックを絞り込んで、これを伝えたいと思っているのではなくて、出逢った人から何かを得て、そこから考えるということをやってきました。伝えるという仕事は、そこに人がいるから、気持ちがあるから、ストーリーがあるからだと思います。ただ、未来の子どもたちのためというのは、いつも思います。そして、声なき声を届けたいと思います。声なき声はなかなか可視化されない。本当はもっと聞かれなくてはいけない、その声を社会へと橋渡しができるような仕事ができればと思っています。

 

【インタビュー後記(2018/03/06)】
詩織さんに直接お会いして最も印象に残ったのは、彼女もまた、「耐えられていない」ということでした。国内外で"時の人"のように注目されても、新しい活動で笑顔が増えても、日本で「#MeToo」が収束しても、彼女の中ではまだ何も終わっていない。本当の自分は今にも壊れてしまいそうだから、目の前の仕事に活動に必死に取り組むしかないのだと気づき、胸が締め付けられました。
詩織さんの存在と「#MeToo」が重なり合って起きた、声をあげるという動きの影で、差別や暴力を受けた人の、痛みを抱えた日々は続いている。それでも、この3年で「失ったものより得たものの方が多い」と語った彼女の言葉に、前を向いていく明るさを感じました。
(ハートネットTVディレクター)


▼関連番組
 『ハートネットTV』(Eテレ)
 
「#MeToo 私はこう受け止めた ―性暴力被害・当事者たちの声―」
  2018年3月8日放送・夜8時[再放送:2018年3月15日  昼1時5分]

▼性暴力被害に関する相談窓口や支援団体
 【テーマ別情報】性暴力被害

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