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【チエノバ】相馬直子×小薮基司「ケアの責任を巡る、社会的な議論が必要」

2017年08月25日(金)

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 2017年8月3日放送
 WEB連動企画“チエノバ” ダブルケア

ご出演の相馬直子さんと小薮基司さんに放送終了後、お話をうかがいました。

20170803_koyabu_nhklogo.jpg《小薮基司さんプロフィール》社会福祉士。ケアマネージャーとしてダブルケア当事者と接してきた。現在、横浜市の介護福祉施設で所長を努める。

 

―― 8月のチエノバは、育児と介護を同時に行うなど「ダブルケア」について考えました。番組に寄せられたご意見の中には、「どこに相談していいかわからない」との声がよせられていましたが、そういった悩みを受け止めてくれる場所があるのでしょうか?

 小薮 :ダブルケアの当事者の方には、各地域にある「地域包括支援センター」で、ぜひご自身のことを相談してもらいたいです。ほとんどの人が「地域包括支援センター」は、介護保険の申請をするだけの場所だと思っているんですよ。でも実は、「地域包括支援センター」は介護だけじゃなく、介護者を支援することが使命としてあるんです。しかし、なかなかそこまで対応が追いつかない現状もあるし、相談に来る人も自分自身のことを相談できると思っていないので、ダブルケアの当事者の問題というのがそのまま棚上げされてきたんです。だからぜひカミングアウトじゃないけれど、自分自身が辛い状況なんだということを相談に行ってほしいですね。


―― 「地域包括支援センター」へ相談にいった後、それぞれの現状にあった支援を受けると思うんですが、一方でダブルケア当事者にむけた制度整備はまだされていないようですね。今後、どういった対策が必要になってくると思いますか。

 相馬 :現状の制度は、高齢者、子ども、というように対象、目的別のサービスになっていますよね。それがダブルケアラーにとっては非効率な制度になっているんです。でも、もしかしたらそれは高齢者や子育て家庭にとっても融通がきかない、非効率な部分がある制度だったりもするのかなと思うんです。そこで、ダブルケア当事者の人たちの複合的なニーズの対応をすることによって、現状の制度の非効率性というのをどんどん解消していける、そんなきっかけになるのかなと思っているんです。
だからこそ産前・産後支援から子育て・介護・家事など、すべての支援事業を「家族支援」として、あるいは「ダブルケア支援」、「社会的ケア支援」というような新しいフレームで従来の制度の非効率性を解消しながら新しい時代に対応した政策の統合・連携が求められるのではないかと思っています。

 小薮 :ダブルケアだけじゃなくて、家庭の中には様々な課題がありますよね。例えば障害があるお子さんがいたり、失業の問題もそうですし、最近多いのは「8050問題」っていう、80才の母親と50才の引きこもりの息子のケースなども多重ケアの問題だと思うんです。そういった形で要介護者1人だけの問題から、もっと家庭の中には、いろいろな問題があることへの認識と支援が追いつくことが必要なんだと思います。

20170803_souma_nhklogo.jpg《相馬直子さんプロフィール》横浜国立大学大学院 准教授。「ダブルケア」研究の第一人者。「ダブルケア」という言葉の名付け親。


―― ダブルケアにかかわらず、個人によって抱えている問題がさまざまで重なり合っていることを認識してもらうことが大切ですね。ただ、相馬さんが「ダブルケア」という言葉や現状を提唱されたのは5年前ですよね。しかし、ダブルケアについての対策が遅れているのは、なぜなのでしょうか?

 相馬 :子どもは誰がみるべきか。生物学的にせよ、社会的にせよ親がまず第一義的なケアの責任者であるという共通了解がありますよね。その一方で介護は誰がすべきか、誰がそのケアの第一義的な責任者なのかという共通了解はないんですよね。ヨーロッパは高齢者ケアの第一義的な責任者を社会だとしています。日本の場合は、高齢者介護の分野で介護保険制度が介護の社会化という理念のもとに導入されました。そこで嫁が親の介護をする責任から解放されましたが、娘や息子が親の介護をする責任が明確になってしまいました。

 小薮 :介護保険を利用するためにはそれを指揮する人、キーパーソンや主介護者が必要なんです。その役割は自動的にどういうわけか「嫁」や「娘」といった、いわゆる「女性」に自然と押し寄せてきています。それってすごい責任なんですよ。何をしていても電話がかかってくるし、職場にも「お母さんが熱を出したんです」と電話がかかってきてしまう。介護保険ができたことによって、それが役割として明確で当たり前になってしまっています。そんな状況で介護を全部アウトソーシングすると後ろめたい気持ちがでてくるような社会風潮が根強い気がしますね。

 相馬 :サービスは社会化されましたが、小薮さんがおっしゃったケアの責任者、キーパーソンという部分は社会化されざる領域として残っていると思います。ケアの責任を巡る、まず社会的な議論が必要になってくると思います。改めて、このダブルケア、多重責任という新しいケアワークの発見、新しい視点からの議論をする時期にあるんじゃないかなというふうに思いますね。



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