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【チエノバ】荻上チキ「知識をストックするだけの学習機会を失い続けてきた」

2017年06月09日(金)

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 2017年6月1日放送
 WEB連動企画“チエノバ” 障害のある子どもと学校・反響編
 

通常学級や通級、特別支援級、特別支援学校などさまざまな子どもにあわせて用意されてきた教育。しかし、区別があることで、そのどこかに子どもを所属させようとしている矛盾がうまれているようでした。大人になると地域で暮らしたり、一般企業で働いたりする障害者がたくさんいます。大人になったら共に暮らしていくのに、子どもの時だけ障害児と健常児を分ける必要があるのでしょうか。いつからそうなってしまったのか、また今後どうしたらよくなるのか、そんな疑問をチエノバコメンテーターの荻上チキさんにきいてみました!

写真・荻上チキ

 

――さまざまな事情で適切な支援が受けられないでいる子どもたちがたくさんいるように感じました。いつから、障害児と健常児の教室を分けるようになったのでしょうか。歴史的な背景があったりするのでしょうか?


日本の障害者政策は、障害の種類によって異なってきますが、知的障害や精神疾患に関しては、人権侵害のようなことが当たり前でした。明治時代にさかのぼってみると、「私宅監置」といって、座敷牢を家の中に作ってそこに住まわせないといけない法律があったんですね。なので座敷牢を作って、そこに閉じ込めて、そのことを警察に報告し、行政が管理するという隔離主義がありました。この隔離主義は、たとえば精神疾患の人は精神科病棟へ、重度の障害者や知的障害者は施設への隔離というものに変わっていくんですね。家の中から施設に移行しても、同じくやっぱり「隔離」は「隔離」なんですね。だから今は、施設から地域へということが問われている。これが障害者運動のまず前提としてあります。

教育においても重なるところがあるんです。
障害のある児童は障害のある児童として育てようと社会から隔離して分ける教育をずっと行ってきました。卒業しても、知的障害や精神疾患だと、作業所ではたらいて工賃をもらって暮らしていくことが多いので、社会と混じる機会が少なく、ずっと社会と分断されたままなんです。だから社会は、障害に関する知識をストックするだけの学習機会を失い続けてきました。そうなったとき、若いうちから当たり前のように身近に多様な人がいる関係を作り直していかなきゃいけない、それが、公教育の元々の理念だということを再発見して、学校教育を変えようとしているのが現状です。

ただやっぱり障害者政策全般が遅れている日本の状況下で、いきなり障害者教育に力を入れようとしても、教える側の意識が変わっていない悪循環がある。だから、専門性や当事者性、それらの経験がある人が、ちゃんと地域の中で居場所を持って、そうした教育の場に携われるような仕組み作りが重要になってきますね。


――もともと「隔離」されていた障害者が施設から地域へ移行するようになり、学校教育も過渡期を迎えているということですね。では、今後どうすれば、誰もが望む教育を受けることができるのでしょうか。

すべての学校を特別支援教室みたいな形にしていくことですね。
特別支援学校と公立の学校というように分けるのではなく、それらの学校を統廃合しながら、「クラスは違うけど学校に障害児がいる」ゆくゆくは「どの教室にも障害児がいる」とか、より混ぜる教育を意識する必要がありますね。それを実現するために、一つの教室に複数の大人がいることが当たり前の環境が大切です。担任の先生が教室で一人威張っているのではなく、チームで教育する理念をもつことが当たり前になる教育のあり方が問われていると思います。

これは障害者政策だけじゃなく、その他の問題にも同様のことが言えます。
外国籍の子どもや貧困層、非行、不登校などに対する児童のケアは、個別の家庭やその児童の問題を丁寧にみていかなくてはならない状況があります。となると、1人の先生が全体を見て個別訪問をして、児童1人1人を丁寧にケアすることが現実的に難しくなってきますよね。だからチームで対応すればいいんです。先生が全体を教えて、一人はうしろで教えて、ボランティアや専門職の方が、休んでいる児童の元を訪問したり、他の児童をサポートしたりして、みんなで共有する。そういう体制を作るように、教育や教室の形を変えていくことが必要だと感じました。障害者のニーズを丁寧に聞いていくことで、実は、それって障害者だけではなくて、すべての児童にとってより良い、質の高い教育を受けられる社会に作り替えていくことが出来ると思うんですね。弱者に対して優しくしようとする福祉的な目線ではなく、今まで聞いてこなかった彼らの貴重な声を参照することによって、“より公平で安心かつ良質な教育を作れるじゃないか”という発想で取り組むことが大切だと思います。


▼関連番組 『ハートネットTV』
 2017年5月2日 シリーズ障害のある子どもと学校 第1回 医療的ケア児
 2017年5月3日 シリーズ障害のある子どもと学校 第2回 発達障害
 2017年6月1日 WEB連動企画“チエノバ” 障害のある子どもと学校・反響編

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