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熊本地震 第5回 誰も排除しない「インクルーシブ防災」

2016年06月15日(水)

 

20160614_01.jpgWebライターのKです。

昨年3月、仙台市で開かれた国連防災世界会議で、新たな防災の考え方に注目が集まりました。障害者や高齢者などを含む、あらゆる人の命を支える「インクルーシブ防災」という考え方です。

「インクルーシブ防災」を実現するには、私たちの社会に、障害者、難病患者、要介護の高齢者など、特別な配慮を必要とする人たちが、ともに生活していることを知らなければなりません。障害者や高齢者の中には、ふだん入所施設で暮らしていたり、自宅で介助を受けながら生活していて、地域の人とはほとんど顔を合わせることのない人たちもいます。また、聴覚障害者、内部障害者、発達障害者、アレルギーの子ども、日本語の話せない外国人のように、見た目だけでは、支援を必要とする人とはわからない人たちもいます。相互に交流し合いながら、名簿を作成したり、支援者を組織したり、避難訓練などを行うなどして、意識的に避難のあり方を考えていく必要があります。

また、震災は想定通りのことが起きるわけではありません。今回の熊本地震でも、指定されていた福祉避難所が被災で使えなくなったり、建物があっても余震が恐ろしくて中に入れなかったという事態も生じました。仕方なく、住民が自然発生的に集まった場所に成り行きで身を寄せた人も大勢いました。福祉避難所に限らず、どのような避難場所や避難所にも配慮の必要な人がいるということも心得ておく必要があります。

熊本地震 第4回 災害時に配慮が必要な人とは

2016年06月09日(木)


20160610_001.jpgWebライターのKです。

 

災害時には、地域で暮らすどんな人にどのような配慮をしていくべきなのでしょうか。
平成25年に改定された「災害対策基本法」では、「高齢者、障害者、乳幼児その他特に配慮を要する者」を「要配慮者」と定義し、「国や地方公共団体は、災害の発生や拡大を予防し、要配慮者に対する防災上必要な措置を実施しなければならない」と定めています。

具体的には、「起こった事態を理解できない認知症の高齢者」「周囲の状況が把握しづらい視覚障害者」「サイレンや音声の情報が伝わらない聴覚障害者」「移動に限界のある電動車いす利用者」「人工呼吸器などの医療的ケアを必要とする難病患者」「てんかん発作やパニックを起こしやすい知的障害者」「感覚過敏な発達障害者」「すみやかな移動が難しい妊産婦や乳児」「日本語の理解に乏しい外国人」など、さまざまなケースが考えられます。

なお、そのような要配慮者の中でも、緊急避難の際に、自ら避難することが困難であり、円滑かつ迅速に避難するために支援を要する者のことを「避難行動要支援者」とし、市町村長は、その把握に努めるとともに、生命や身体を災害から保護するために必要な措置を取ることが定められています。東日本大震災では障害者の死亡率は全住民の死亡率の2倍上りました。災害で犠牲になる人を一人でも減らすためには、避難支援者や地域の人たちが「避難行動要支援者」の情報を共有することが重要になります。

熊本地震 第3回 福祉避難所を活用する

2016年06月07日(火)


20160608_001.jpgWebライターのKです。

これまでの震災と同様に、今回の熊本地震でも、発達障害の子どものいる家族が避難所に入れず、車中泊を続けたり、車いすの男性が、足の踏み場もない避難所に入れず、危険な自宅にとどまったり、避難所での大人のおむつ替えは周囲の迷惑になるからと、介護施設の入所者が倒壊の危険のある施設に戻るなどの事態が見られました。また、要支援者を代わりに見てくれる人がいないために、世話する家族が食料や支援物資を受けとる列に並べないなどの問題も起きました。要支援者に特別に配慮した「福祉避難所」は、今回も切実に求められました。

「福祉避難所」は、阪神・淡路大震災を総括した「災害援助研究会」(厚生労働省 平成7年)で、その必要性が初めて報告されました。公式に福祉避難所が開設されたのは、平成19年の能登地震のときで、同年に発生した新潟県中越沖地震では9か所が開設されました。一定の成果が認められましたが、その後は自治体によって取り組みに差が生じ、全国的には整備が十分進まない中で、東日本大震災が起きました。この震災で高齢者を中心に多くの震災関連死が起きたことを受けて、福祉避難所の重要性が再認識され、平成25年には「災害対策基本法」が改定され、「福祉避難所の指定」「生活相談員の配置」などが義務づけられ、その要件も定められました。

熊本地震 第2回 どうやって命を守るのか

2016年06月03日(金)

 

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WebライターのKです。

震災関連死を防ぐためには、どのような工夫が必要とされるでしょうか。

今回の熊本地震の大きな特徴は、度重なる余震の多さにあります。倒壊を恐れて避難所の建物内に入らず、車中泊が多いのは、過去の新潟県中越地震のときと共通します。そして、あのときと同様に、今回もエコノミークラス症候群の患者が報告されています。

エコノミークラス症候群は、飛行機や車の中などで長時間同じ姿勢でいると、足の血液の流れが悪くなり、血栓(血の塊)ができて、それが血管を通じて肺の動脈まで運ばれ、気分が悪くなったり、最悪の場合、血管が詰まって亡くなってしまうというものです。高齢者はとくにリスクが高いとされています。

車中泊だけが原因ではなく、避難所でも体を動かさず、座ってばかりいると発症しやすくなります。また、飲み水が不足して脱水状態になったり、トレイの回数を減らすために水分補給を控えたりすることで、血液が濃縮されて、血栓ができやすくなることも知られています。東日本大震災でも、地震の発生から4か月後までに宮城県内の32か所の避難所で検診したところ、足の血管から血栓が発見された人が190人見つかったという報告があります。

 

熊本地震 第1回 高齢者を襲う「震災関連死」

2016年05月31日(火)

 

001kumamoto_.jpgWebライターのKです。


熊本県内の避難者数は、4月17日のピーク時には約18万4千人でしたが、5月18日には1万人を切るまでに減少しました。電気、水道、ガスなどのインフラが徐々に復旧し、多くの避難者が自宅に戻り、避難所となっていた学校を授業再開のために閉鎖するなど、拠点避難所への集約も行われています。しかし、地震発生から1か月を過ぎて1500回以上繰り返される余震は未だに収まっておらず、気象庁は今後も震度6弱の大きな余震が発生する可能性があるとしています。自宅の倒壊を恐れ、戻ることができず、車中泊やテント生活を続ける家族も少なくありません。

過去の震災の例に見られるように、大きな災害の後には、建物の倒壊や火災などの「直接死」を逃れた人の命が避難生活の中で失われる「震災関連死」が起こります。阪神淡路大震災の際には、避難所で「インフルエンザの集団感染」が広がり、新潟県中越地震では「エコノミークラス症候群」を発症する人が相次ぎました。そして、東日本大震災では、「長引く避難生活によるストレスや過労」で、体調を悪化させる人が続出しました。

今回の熊本地震でも、関連死の疑いのある人が、すでに20人に上っています。車中泊の影響などから、51人がエコノミークラス症候群と診断され、そのうちの一人が亡くなるなど、今後も震災関連死の増加が懸念されています(5月20日現在)