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外国人と医療通訳 第1回 言葉が通じる病院を増やしていく

2017年12月11日(月)

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国人と医療通訳
第1回 言葉が通じる病院を増やしていく

外国人の外来を受け入れた病院は8割 
コミュニティ通訳としての医療通訳 12言語を網羅するMICかながわ
第1回 第2回 
第3回 第4回 第5回

 


Webライターの木下です。

外国人の外来を受け入れた病院は8割


今年の4月に神奈川県大和市の精神科病院で、ニュージーランド出身のケリー・サベジさん(27)が、11日間の身体拘束の後に死亡するという痛ましい出来事がありました。それを受けて、『ハートネットTV』のWEB連動企画"チエノバ"では、9月7日に「精神科病院の身体拘束を考える」という番組を放送しました。また、身体拘束に関してのカキコミ板には、患者やその家族、また医療関係者からさまざまな意見が寄せられ、それらの内容をまとめてブログでも紹介いたしました。

今回のブログでは、ケリーさんの事例に関連して、身体拘束の問題ではなく、在留外国人の医療通訳の問題について取り上げます。ケリーさんは、日本の学校で英語を教えていて、日本語は理解できましたが、入院時には日本語の堪能なお兄さんが、医師の話を英語に直して、本人に伝えたと言います。ケリーさんのケースではコミュニケーションによる齟齬はなかったようですが、外国人にとって日本語はしばしば大きな壁となります。とくに患者との対話が、治療に深くかかわる精神科医療の現場では、医療通訳は重要な役割を担うことになります


201710_01_01.JPG写真提供:神奈川県

まず、精神科医療と医療通訳の問題を取り上げる前に、外国人と医療通訳の現状について考えてみましょう。

現在、日本で暮らす外国人は238万人、日本を訪れる外国人観光客は2400万人を超えています(2016年現在)。厚生労働省の2016年の調査によれば、救急告示病院など1710か所の約8割が外国人の外来患者を、約6割が入院患者を受け入れた実績があることが明らかになっています。医療機関を利用する外国人からは「言葉が通じる病院が少ない」などの声があり、医療機関からも「言葉が通じないと問診の正確性に影響し、的確な診断、治療ができない」との懸念が出ています。厚生労働省の調査によれば、病院が受け入れた外国人の65%は日本語でのコミュニケーションが難しかったにもかかわらず、医療通訳の利用経験のある病院は13%しかありませんでした。

棒グラフ:外国人受け入れの実績.jpg円グラフ:日本語でのコミュニケーションが難しい外国人患者の受け入れ/医療通訳の利用経験.jpg


医師の多くは英語を解しますが、日本で暮らす外国人は、アジアや南米の人たちが中心で、日本語も英語も通じず、うまくコミュニケーションが取れないことがあります。また、たとえ日本語や英語で日常会話が可能であっても、医療に関する説明を理解するのは容易ではありません。

そうした中、現在、外国人が多く暮らす自治体の中には、医療通訳の育成や派遣などに積極的に取り組むところが増えています。医療通訳は、外国語の通訳、海外生活経験者、日本で暮らす日本語の堪能な外国人などが、自治体や関係団体が開催する育成講座や研修を数日間受講し、医療用語などの専門知識を学び、実際を想定して行われるロールプレイや医療機関での実地研修を受けた後に、活動をスタートさせます。国家資格のようなものはありませんが、個人情報の保護や患者の権利擁護などの倫理規定についても学ぶことになり、言語能力だけではなく、社会性についても問われることになります。

まず、医療通訳の世界のモデルケースと言われている神奈川県の NPO法人多言語社会リソースかながわ(MICかながわ)を例にとりながら、医療通訳の現状についてご紹介します。


コミュニティ通訳としての医療通訳


私たちが「通訳」と言って、思い浮かべるのは、国際会議での「会議通訳」ではないでしょうか。会議通訳はビジネス上の専門家同士の間をつなぐものですが、これに対して、言葉の通じない一般の外国人と専門家の間をつなぐ生活上の通訳を「コミュニティ通訳」と呼びます。

日本では1990年に改正入管法が施行されて、それ以降外国人の数が急速に増え始めて、各地で外国人を支援するNPO法人やボランティア組織が生まれました。そこで働くスタッフは、外国人たちから「役所や職場や学校についてきてほしい」といった依頼を受けることが多かったと言います。そこで注目されたのがオーストラリアなどの通訳先進国で普及している「コミュニティ通訳」という概念でした。外国人の暮らしを支える上で欠かせないもので、医療通訳はこのコミュニティ通訳の一種です。


12言語を網羅するMICかながわ


「MICかながわ」は、その医療通訳の分野での日本での草分け的な存在です。1999年に外国人支援ボランティアと神奈川県社会福祉協議会、医療関係者らが立ち上げた「外国人医療とことばの問題を考える会」という組織がその前身で、2002年にはNPO法人「MICかながわ」へと名称を変更し、翌年の2003年には神奈川県との協働事業も開始しました。

主な事業は、「医療通訳の養成と派遣」です。2016年度の病院への派遣実績は7248件になります。設立当初に扱っていた言語は、中国語、スペイン語、ポルトガル語、韓国・朝鮮語、タガログ語の5言語でしたが、現在は12言語を扱っています。現在、登録している医療通訳者は188人。その86%は女性です。日本人だけではなく、外国人のスタッフも3割ぐらいはいます。

MICかながわの派遣対象言語
中国語、英語、スペイン語、ポルトガル語、ベトナム語、タガログ語、タイ語、韓国・朝鮮語、カンボジア語、ラオス語、ロシア語、フランス語(派遣実績数順:12言語)


診療科別で、もっとも多いのは産婦人科で26%、次いで内科が11%、それ以外は1割以下で、小児科、消化器科、整形外科、精神科と続きます。産婦人科は、妊娠から出産までの期間が長く、一人の患者が病院に通う回数が増えるために、延べ件数が多くなります。

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円グラフ・診療科別派遣実績(2016年度).PNG

「MICかながわ」は設立から15年。当初の派遣先は6病院だけでしたが、現在は県システムによる派遣先が36病院、MICかながわとの独自協定による派遣先が41病院にまで増えています。派遣先の病院にアンケートを取ったところ、85%の医師たちから「医療通訳はいないと困る」という意見が上がるほど、その有用性は認められています。しかしながら、神奈川県で医療通訳を利用する病院は、まだ4分の1程度にとどまっています。MICかながわでは、さらに啓発活動に力を入れて、医療通訳の重要性を関係者に伝えていきたいと考えています。





木下 真

 

コメント

MICかながわの医療通訳者はボランティア。
日本でいうボランティアとは実質上の無償奉仕。
そりゃ医療機関も、こんな価値あることを無償(正確には交通費相当の謝礼は払う)で行ってくれるなら良いですよね。
記事中では会議通訳の話がありましたが、こちらは通訳者へは相応の対価を払いますし職業として成立していますが、なぜ医療通訳はボランティアが前提となってしまうのでしょうか?

投稿:匿名希望 2017年12月16日(土曜日) 07時59分

わー!うれしい。
ひさびさにみたら、こんな記事が。
まさに知りたかった情報です。
とくに希少言語の事例をしりたいです。
ネパール語とか、よそはどうしてるんだと、
現場で頭を悩ませていたところだったので…

投稿:肋骨おろし 2017年12月12日(火曜日) 22時39分