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熊本地震と災害関連死 第4回 過去の教訓の活用と想定外への対応

2017年06月01日(木)

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本地震と災害関連死
第4回 過去の教訓の活用と想定外への対応

 ▼過去の教訓を忘れずに生かす
 ▼想定外の出来事に対応する試みを

第1回 第2回 第3回

 



Webライターの木下です。

過去の教訓を忘れずに生かす


日本列島には確認されているだけでも2000以上に及ぶ活断層が存在し、熊本地震のような震災に襲われる可能性は、日本全土どこにでもあると言われています。熊本市近辺のように130年近く、巨大地震がなかった地域でも、想定を超えた地震が発生し、大きな被害を出すことがあります。

そのために、私たちは、過去の大きな震災、阪神淡路大震災、中越地震、東日本大震災などの教訓から、インフラや産業、施設や住宅の復興策はもちろん、被災者の命を守るための防災の重要性、震災後の支援体制などについても、検討を繰り返してきました。例えば、災害拠点となる建築物の耐震基準の強化、緊急時の医療体制のネットワークづくり、地域の要配慮者の把握、福祉避難所の設置、エコノミークラス症候群への注意喚起、NPOやボランティアとの連携などのノウハウを積み上げてきました。

熊本地震でも、そのような教訓が生かされ、被災者の命が守られましたが、その一方で、熊本地震では、病院の耐震構造の強化や病院が被災した際の転院のシミュレーションや訓練がもっとなされていれば、失わずにすんだ命があったかもしれないとの指摘が医療関係者からはなされています。また、福祉避難所の存在が関係者にさえ知られておらず、有効に活用されなかったことからも、過去の教訓が生かしきれていたかどうか疑問だという声もあがっています。

さらに、外部からの応援職員や提供物資を円滑に受け入れる体制が整わないことから、混乱が生じた現場もあります。時間を経てからは、役所や施設の職員の中には、自らも被災者でありながら、通常業務と避難所の運営業務を掛け持ちせざるを得ず、疲弊していく人も出ました。初期対応だけに限らず、長期に及ぶ避難生活の支援策については、今後も検討が必要とされています。

 

想定外の出来事に対応する試みを


写真・熊本地震で道路に亀裂がはしる
過去の震災の教訓を生かした防災計画を立てていても、震災には、かならず想定外の事態も起こります。熊本地震では、度重なる地震がいつ収束するのか専門家にも予想がつかず、耐震基準を満たす建物さえも倒壊する恐れがあり、被災者にとって不安な日々が長きにわたって続きました。心から安眠できる建物が見つからないことから、車中泊に頼る被災者が多く、精神的にも肉体的にも大きな負担を負って、死期を早めた人々がいます。そのような想定外の事態にも対応することが可能であれば、より多くの命を救うことが可能になったに違いありません。

国の防災基本計画にも地域防災計画にも、今回のような長期にわたる車中泊や屋外避難への対応策は盛り込まれていません。避難者を小学校や公民館などの建造物に誘導し、屋内の避難所で安全を確保するという形で避難計画は立てられています。

今回は、車中泊への対応策として、益城町では、急きょ600人近くが避難できるテント村が設営されたり、移動可能なトレーラーハウス19台が福祉避難所として活用されるなど、これまでにない支援策が実施されました。想定外の出来事に対しては、従来の制度にこだわらず対応することが必要だとして、民間の協力のもと実現されたものです。また、国土交通省は定期航路をリタイアした大型フェリーを八代港にすみやかに派遣し、1か月にわたって2000人を超える被災者に入浴サービスや宿泊の場を提供しました。これらの試みに対して、災害支援の専門家からは「今後の被災地支援のモデルケースにすべき」という声も聞かれました。

震災に対しては、起こりうることを想定した事前の対策を用意することも必要ですが、過去の支援策にとらわれずに、柔軟な組織づくりや新たな対応策を生み出すことの重要性が示されました。震災の際には、道路網やインフラの復旧など、これまで繰り返されてきた目に見えるものの復興は急ピッチで進められますが、それとともに忘れてはならないのは、命を守るための想定外の出来事への柔軟な対応です。

直接死の3倍以上の災害関連死が発生した熊本地震。見落としている事実がまだまだあるかもしれません。過去の教訓を未来につなぐには、被災者の皆さんの声によりいっそう耳を傾けていくしかありません。そして、想定外の出来事への対応をはかるためには、震災に限らず、日ごろから支援を必要とする人々を支えるための体験を社会全体で積み重ねていくことが何よりも大切だと思われます。


木下 真

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 熊本地震と災害関連死(全4回/2017年)
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  第3回 病院の転院による被害の拡大
  第4回 過去の教訓の活用と想定外への対応
 熊本地震(全5回/2016年)


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