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熊本地震と災害関連死 第3回 病院の転院による被害の拡大

2017年05月29日(月)

画像イメージ・第3回 病院の転院による被害の拡大

 



Webライターの木下です。

病院の耐震化率が全国平均を下回っていた

 
第2回の事例でご紹介したとおり、熊本地震の震災関連死で亡くなられた方たちの中には、震災前から病院に入院をして治療を受けていた方たちもいました。そして、病院の損壊により病院の機能が低下したり、倒壊の危険から、県内外の他の病院に転院になり、そのような環境変化の負担により亡くなられた方もいます。

厚生労働省の「病院の耐震改修状況調査の結果」によると、2015年の熊本県の病院の耐震化率は62.6%(全国41位)で、全国平均の69.4%を下回っており、他県に比べて、耐震化は遅れていました。災害拠点病院や救命救急センターの耐震化率は92.9%と決して低い値ではありませんでしたが、震度6強の地震でも倒壊する危険性のある病院が残されていました。

画像・熊本地震当時、損傷をうけた病院の写真


さらに、熊本地震では、1981年に制定された新耐震基準の震度6強以上の地震に耐えられる耐震構造をもっていた建物も倒壊が確認されています。新耐震基準は複数回の揺れに対応するものではありませんでした。震度7の前震を受けた段階で持ちこたえたとしても、内部的なダメージにより強度は弱まり、本震で崩れ落ちるという現象が見られました。

耐震化率が低い上に、今回のように大きな揺れが繰り返されたことで、病院の被害が拡大した可能性も指摘されています。震災直後、入院患者を守るために県内外の病院への転院を決めた熊本県内の病院は13か所あり、総人数は約1500人に上りました。

図:入院患者を他の病院に搬送した病院

震災により多くの患者が転院を余儀なくされる

 
病院が患者を搬送することになったのは、建物の倒壊や損壊から、患者の安全を確保するというのがもっとも大きい理由でしたが、スプリンクラーの作動により病棟が水浸しになったり、裏山が崩れて土石流の危険が生じたり、ライフラインの途絶で病院の機能が果たせなくなったりなどのさまざまな要因が重なり、患者を搬送せざるを得なくなったケースもありました。

画像:患者搬送のため病院に列をなす救急車(資料提供:やよいがおか鹿毛病院)

資料提供:やよいがおか鹿毛病院  

 

転院の手配は、DMATなどの協力のもとに進められましたが、前震後に転院した病院が、本震で損壊し、再度転院を余儀なくされた患者もいました。転院後に体調が悪化し、さらに設備の整った遠方の病院に再転院をする患者もいました。転院はできても、移動先の病院に患者が詰めかけていて、十分なケアができないケースもありました。

昨年7月14日に放送した『ハートネットTV』「シリーズ熊本地震 病院を出された700人 ―被災した精神科の患者たちの今」で、益城病院が多くの患者を転院させた例を紹介しましたが、サーバーがダウンしたことから、転院先に患者の詳細な情報を送ることができなくなり、受け入れ先の病院で患者の扱いに戸惑う事態も生じたと言います。緊急事態の最中に、十分な申し送りをするだけの余裕がなく、本人も環境の変化に対応することができずに症状を悪化させるケースもあったものと考えられます。


市の防災拠点施設の被災という想定外の事態

 
今年の4月12日に放送した『ハートネットTV』「熊本地震から1年 災害関連死 170人 なぜ・・・・」の番組の中では、震災直後に310人の入院患者を搬送した熊本市民病院の事例を取り上げました。熊本市民病院は、市の防災拠点施設であるにもかかわらず、新耐震基準を満たしていない病棟があり、被害はそれらの病棟に集中しました。建て替え工事の計画は進んでいましたが、事業費の高騰を理由に工事が凍結されたままだったのです。幸い倒壊はまぬがれましたが、ロビーや病棟内の天井や外壁の一部が破損、窓ガラスが割れるなどの被害が出ました。また、排水管も損傷を受け、一部で漏水が発生しました。そして、耐震基準を満たしていないことから、安全性を担保できないとして、患者の搬送を決断することになりました。

患者の搬送は迅速に行われましたが、混乱も生じました。番組の中で、当時の総務課長は「(防災拠点施設として)患者さんを受け入れる訓練というのは常にやっておりますけれども、ああいう状況で、患者さんを転送させる訓練は、申し訳ないのですが、できていなかった」と述べています。

画像:転院のために列をなす患者(資料提供:やよいがおか鹿毛病院)

資料提供:やよいがおか鹿毛病院  

 

被災者を受け入れるのではなく、倒壊の危険のある病院から、多数の入院患者を転院させるための事態は想定外のことでした。防災拠点施設のような支援の要となる病院が機能不全に陥るという最悪の事態にも対応できるような医療提供体制のシミュレーションの必要性が、今後の課題として浮き彫りになりました。


 

木下 真

▼関連ブログ記事
 熊本地震と災害関連死(全4回/2017年)
  第1回 屋外避難へと追い詰められた被災者

  第2回 どのような人たちが災害関連死で亡くなったのか
  第3回 病院の転院による被害の拡大
  第4回 過去の教訓の活用と想定外への対応
 熊本地震(全5回/2016年)


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▼関連番組
 
『ハートネットTV』
 2017年4月12日放送 シリーズ熊本地震から1年 (1)災害関連死170人 なぜ・・・
 2017年4月13日放送 シリーズ熊本地震から1年 (2)犠牲者をこれ以上出さないた

コメント

日付が変わって、きのう(5月30日)の熊本ローカルのニュースで、熊本市と熊本県宇城市でで孤独死があったそうです。
だれにも看取られないまま亡くなるのは、親族で無くてもかなしいものです。22年前の神戸では、もう数えきれないほど繰り返してきました。
熊本では支援をなさる人も足りません。
同じ支援者の方が主に車で広範囲でまわるため、どうしても1日に訪問出来る仮のお住まいの件数には、物理的に限界があります。
また支援者の方の人数も、もともと足りません。
時間が経つにつれ、「みなし仮設」や「応急仮設住宅」にお住いの方々と、新しく入る支援者の方との人間関係をつくることは、かなり支援者の側からしても難しくなります。
どうか今のうちに、熊本県内で支援者と、支援者をお金の面など縁の下からささえる仕組みを、みなさんで考え出してほしいです。
阪神淡路大震災の教訓です。

投稿:かめさん 2017年05月31日(水曜日) 00時25分