知的障害者の施設をめぐって 第10回 政策論議の場から消えていったコロニー
2017年02月20日(月)
Webライターの木下です。
第10回は地域移行へと舵を切った施設福祉の方針転換についてです。
モデル事業として始まった国立コロニーでしたが、他の施設の手本となるような運営は難しく、また、全国の地方コロニーでも同じような試行錯誤が繰り返されていました。大きな期待を集めて始まったコロニー建設事業ですが、1970年代の後半になると、コロニー批判の声が聞こえてくるようになりました。
日本のコロニーは欧米のような隔離施設にはしないということを、コロニー懇談会は訴えていましたが、現実には町の中心部に広大な敷地を得ることは難しく、施設はどうしても辺鄙な場所に建設せざるを得ませんでした。そのために地域社会から遊離し、社会参加の機会を得るのが難しくなりました。また、交通の不便さから家族との交流も途絶えがちになりました。
また、充実した施設を造っても、そこで働く専門スタッフの確保は容易ではなく、少ない人員で入所者を管理するために、形式的にスケジュールをこなす日々になりがちでした。目の前の仕事に追われるために職員同士の連携がスムーズにいかないこともありました。さらに、入所者には従順で管理しやすい行動が求められ、主体性が失われていく傾向も見られました。
障害者福祉の専門家からだけではなく、親からも施設内部の職員からも大規模施設の問題点が指摘されるようになりました。とくに、脳性麻痺の障害者を中心とする障害当事者の団体からは、政府のコロニー構想は障害者を物理的、社会的、心理的に隔離するものだという厳しい批判がなされました。
施設福祉は未完成であり、地域福祉も未整備の状態でしたが、大規模施設における終生保護の考え方は否定されていくことになります。そして国立コロニーが開設されてから、わずか10年後の1981年(昭和56)には、国際障害者年を迎えることになり、障害者福祉の考え方が施設中心型福祉から地域福祉型へと変わり、「ノーマライゼーション」の思想が世界的に共有されることになりました。その年の厚生白書では大規模施設の問題点が記述され、もはやコロニーは障害者政策において積極的な評価を受けないことを国自らが率直に認めることになりました。そして、1982年(昭和57年)に策定された「障害者対策に関する長期計画」の「施設利用サービス」の項においては、施策推進の考慮事項の一つとして「通所施設、生活施設等は、障害者の身近に小規模のものを分散的に整備する」ことが掲げられました。
重症児者(重度の肢体不自由と重度の知的障害が重複した状態にある子どもや成人)の「終生保護」への対応という目的から始まったコロニー建設でしたが、その課題への新たな代替案も示されず、その価値の検証もされないままに、コロニーは政策論議の場から退けられ、時代は地域移行の時代へと舵を切ることになりました。
その後、国立コロニー「のぞみの園」は、2003年に特殊法人から独立行政法人へと運営組織が改められ、開所以来の利用者については、地域に移行してふつうの暮らしができるように総合的な支援に取り組みことになりました。当事者や家族の意向を尊重しながら、障害特性を考慮した受け入れ先の確保に努め、手順を踏んでていねいに全国から集められた入所者を地元に戻していくことが新たな施設の役割となり、現在500人以上いた入所者の半分近くが、地域へと戻っています。
現在の入所者は247人。 将来の地域移行に備えて、職業訓練にも力を入れています。
しいたけ栽培は、のぞみの園が開園した当初から取り組んできた作業です。
木下 真
参照:「国立コロニー開設に至る道のり」(遠藤 浩)、「ふつうの暮らしを求めて-のぞみの園地域移行10年の軌跡―」(古川 慎治、湯浅 智代、梶塚 秀樹)
▼関連番組
『ハートネットTV』(Eテレ)
2017年1月26日放送 障害者殺傷事件から半年 次郎は「次郎という仕事」をしている
※アンコール放送決定! 2017年3月21日(火)夜8時/再放送:3月28日(火)昼1時5分
▼関連ブログ
知的障害者の施設をめぐって(全14回・連載中)
第 1回 教育機関として始まった施設の歴史
第 2回 民間施設の孤高の輝き
第 3回 戦後の精神薄弱児施設の増設
第 4回 成人のための施設福祉を求めて
第 5回 最後の課題となった重症心身障害児・者 1
第 6回 最後の課題となった重症心身障害児・者 2
第 7回 最後の課題となった重症心身障害児・者 3
第 8回 終生保護のための大規模施設コロニー
第 9回 大規模コロニーの多難のスタート
第10回 政策論議の場から消えていったコロニー
第11回 島田療育センター:地域支援へと広がる活動
第12回 のぞみの園:施設から地域へ
第13回 津久井やまゆり園の創設 (※随時更新予定)
障害者の暮らす場所
第2回 日本で最初の知的障害者施設・滝乃川学園‐前編‐
第3回 日本で最初の知的障害者施設・滝乃川学園‐後編‐
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