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「献血報道をみて感じるHIV関連団体、現場の声」 NPOぷれいす東京・代表 生島嗣さん

2013年12月12日(木)

WEB編集長・ピエールです。
大きなニュースになっている「輸血によるHIV感染」ですが
正しい知識を知ってもらうため、HIVの予防啓発・当事者支援を
行っている、NPOぷれいす東京の代表の生島嗣さんから
メッセージをいただきました。


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         特定非営利活動法人 ぷれいす東京 代表 生島嗣

今回の輸血によるHIV感染についての報道では、
「問題となった献血をした男性は、問診における性的行動の質問で
事実と異なる回答をしており、厚労省は検査目的で献血した可能性が
高いとみている。」としており、「事実と異なる回答」に大きな問題が
あったという印象を受ける。
もちろん、正確な申告は、大切な献血供給制度を安全に
運用するためには必要なことだが、詳細に振り返ってみると、
他にも課題や問題があることが見えてくる。
再発を防止するためにも、その点について、きちんと振り返る必要がある。
本稿では、いくつかの視点で課題について、考えていきたいと思う。
 

■人々は何故、献血にいくのだろうか?

献血をする人たちのその動機は、善意のボランティア精神に
基づくものだ。誰かの役に立ちたいという純粋な思いで、
定期的に献血をする人が僕の周囲にもいる。
街角で聞こえてくる、献血の呼びかけはとても心に響くものだ。
今現在も血液が足りないこと、病床にある誰かの命を支えるための
大切な社会システムであることを改めて実感する。
その背景には、不足しがちな献血の量を確保するために、
献血ルームでのサービスを向上し、来所者をなんとか
確保している現状があるようだ。
献血経験者たちの心情を理解するため、2006年に厚生労働省が
実施した、献血の経験がある5000人の16〜29歳の若者を
対象にしたアンケート調査の一部を抜粋する。
詳細はweb上から直接みることができる。

Q9.献血でエイズ(HIV)検査の結果はお知らせしていませんが、
そのことを知っていますか?
回答:エイズ検査の結果の通知に関しては「知っている」が
全体の64.0%、「知らせていると思った」20.8%、
「そもそも検査していることを知らなかった」15.2%

Q10.献血でエイズ、肝炎その他の感染症に感染することは
ありませんが、
そのことを知っていますか?
回答:献血によって病気に感染しないことを79.9%の人が
認知しているが、男性より女性の認知度が高い。

Q16.初めて献血した場所はどこですか?
回答:「献血バス」が37.1%で第1位、次いで「献血ルーム」の32.6%、
「高校での集団献血」22.6%の順に高い。
また、職場も5.2%であった。
また学生は「献血ルーム」という回答も多くみられた。

Q19.今までの合計献血回数は何回ですか?
回答:合計の献血回数が「1回」は28.2%、
7割以上が「2回以上」の献血を行っている。

Q21.現在献血するきっかけになっているのは、次のうちどれですか?
きっかけの大きい順に3つまで、その番号をお選びください。
回答(複数回答の合計):
「自分の血液が役に立ってほしいから」が、67.3%を占めている。
「自分の血液の検査結果 が自分の健康管理のためになる」(41.3%)、
「お菓子やジュースがもらえるから」(32.9%)などが上位になり、
特に学生の回答率が4 割前後と高い。

 「一般の若者の意識」
若年層献血意識に関する調査結果報告書:経験者編
厚生労働省 血液事業の情報ページより 参照(NHKサイトを離れます)
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/iyaku/kenketsugo/7n-03.html

献血の動機づけとしては、多くが善意による社会貢献であり、その他、
自分の健康管理になる、お菓子やジュースがもらえるからという
動機づけの回答者(献血者)もあった。
また、職場や学校などの、集団での献血、友達に誘われてという
動機もあり、その場で断るのが難しい場面も起こり得る。
日本赤十字社によると、そうした伝えにくさ(断れなかった等)を補完する
ために、3時間以内に電話で連絡すると、その献血サンプルが自動的に
除かれるというコールバックシステムが用意され、周知をしているという。

■ 社会貢献+健康チェックになるからという動機 
アンケートからも分かる通り、誰かのために役立つという動機に重ねて、
健康チェックにもなると考える献血者もかなりいる。
献血時にパンフレット配布などを通して以下のように説明されている。
献血後に、血液のデータがフィードバックされ、
肝炎等の情報も知らせてくれることなどである。
また同時に、リスクに関する説明もある。
肝炎、HIV感染については、感染初期である場合には鋭敏な検査でも
検出できない期間があること。
また最悪の場合、ウイルスを相手に渡してしまう可能性があることに
ついても説明されている。

  お知らせしている検査項目
・ 血液型検査、生化学検査、血球系数検査、
・ B型、C型肝炎ウイルス検査、梅毒検査、HTLV-I検査 
検査目的の献血をお断りする理由
・ エイズウイルスや肝炎ウイルスの感染初期には、
強い感染力を持つにもかかわらず、最も鋭敏な検査方法を用いても
検出できない期間がある。
・ エイズウイルスなどの感染に不安があり、
献血時の検査により確認しようとすると、
患者さんにウイルスを感染させてしまうことになる。

日本赤十字社 初めて献血される方へ
「献血の前に読んでいただくリーフレット お願い!」参照 
http://www.jrc.or.jp/donation/l3/Vcms3_00001601.html

 (NHKサイトを離れます)

 

しかし、献血提供の多くは、自分の行動とHIV感染の関連を
あまり考えたことがない人たちだ。
どれほどの人が、パンフレットの詳細を読みこなし、
HIVとHTLV-1の違いを理解しているのだろうか。
HIV関係者の間では周知の事実だが、10代の若者では、すでに
薬害エイズ裁判についても、知らぬものが大半を占めるように
なっている。また、HIV/エイズの知識も報道が減っている現状では、
学校で習うものがすべての情報源となっていることもある。
逆に、中高年層では、ネガティブな治療が難しい時代の
ネガティブな疾病イメージをいまだに持っていることが多い。

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■輸血でおこる感染事故〜リスクはゼロでない
日本赤十字社の検査技術は世界的にも非常に高いレベルにある。
それでも、今回の事故を含めて、検査の限界により、感染から
早い時期のものはすりぬけが起きる感染症がある。
B型肝炎、C型肝炎で多く報告されており、輸血による
感染の疑いとして赤十字血液センターに報告された症例及び
献血後情報への対応症例の件数は、「輸血情報1310 136」
によれば、2012年だけでも、B型肝炎が51例報告され
(うち8例は日赤の評価で関連が否定されている)、
同じくC型肝炎も:41例(うち11例が日赤の評価で関連が
否定されている)が報告されている。

また、下記期間に、鋭敏な検査(NAT)による検査をすりぬけて、
各感染症が起きてしまったとされる頻度は以下のとおりだ。

各感染症の出現頻度(2004年8月~2013年6月)
 B型肝炎(HBV)は約1/14万
 C型肝炎(HCV)は約1/139万
 HIVは約1/356万

輸血に関連した感染症の日赤による報告
日本赤十字社
 医薬品情報ページ「輸血情報 1304ー36」 参照
http://www.jrc.or.jp/mr/ (NHKサイトを離れます)

B型肝炎(HBV)、C型肝炎(HCV)でも、検査をすり抜けた輸血が
きっかけとなり、感染が成立することが存在している。
頻度としては、HIVよりも高い割合だ。疾患により、すり抜ける
可能性のある期間の長さに差はあるろうが、
HIVでは感染後1ヶ月を経過していない場合には、
すり抜けが起る可能性がある。
今回の事態を受けて、日本赤十字社では、献血後の検査のやり方を
改善していく予定だという。
そのためには、さらに多くの費用が必要とされることになる。

HIVも、他の疾患と同じように、「検査のすり抜け」をゼロにするのは
難しいものなのである。それにも関わらず、どうして、何故、
HIVの「検査のすり抜け」だけが大きく報道されてしまったのだろう。
その背景には、HIVに関する古い疾病イメージが記者や関係者に
あったことが、冷静さを欠いた報道につながっているように思える。
こうした報道のあり様に、心をいためる、HIV陽性者や医療従事者、
支援者関係者は多く存在する。
また、これが無意識のうちに起きたことだとは思うが、
市民の古いイメージを正すどころか、むしろネガティブさを
強化してしまう結果となっているように思える。

■ 検査の限界(ウィンドウ期)を補うための問診票について
日本赤十字社では、こうした検査の限界を補完し、
血液の安全性を高めるために、問診票による献血者の
事前のふるい分けをおこなっている。
これまでにも、何度か改訂されているようだが、2011年4月には、
さらに問診票を改訂し、責任ある献血を強く促すとともに、
HIVを想定した感染症リスク行動の設問をより具体的なものに
変更したという。
2010年にでは、「検査目的の献血」の設問に「はい」と回答した人に、
献血を断った事例が337件あり、10~20代に多く見られたという。

日本赤十字社 問診票の改訂「新しい問診票を見る」参照
http://www.jrc.or.jp/donation/l3/l4/Vcms4_00003454.html

 (NHKサイトを離れます)


ふるい分け項目の一部をご紹介する。

★過去6ヵ月以内に該当する場合は献血いただけません。
(a)不特定の異性または新たな異性との性的接触
(b)男性どうしの性的接触
(c)麻薬、覚せい剤を使用した
(d)(a)~(c)該当者との性的接触

以上の項目に、過去6ヶ月間に該当項目があるかどうかを自己申告し、
該当がなければ、献血対象になるという流れだ。
なお、 (a)~(d)は、個々にチェックをするのではなく、
このグループに該当するものがあれば回答でき、
答えやすくなるような工夫がされている。

国立感染症研究所
献血におけるHIV検査の現状と安全対策への取り組み 参照

http://www.nih.go.jp/niid/ja/aids-m/aids-iasrtpc/892-iasr-380.html

 (NHKサイトを離れます)

問診のチェックは対面で医師が行う。しかし、その際に、
どの程度、申告の内容をチェックができるのだろうか。
テレビのインタビューに、献血現場で従事する医師が
以下のように回答していた。

「献血者が書いた問診票の内容に、疑うスタンスで踏み込むのは
とても難しいと思う。」
ここでは、問診は善意の報告として受け止めることになるという。

もちろん、事実と違う申告はあるべきではない。
しかし、個人の善意に頼らざるを得ないというのは、
システムのウィークポイントでもある。
この点をどのように改善するかは、大切なポイントでもある。

■検査目的の人が献血者のなかにどの程度存在するのか
HIV感染をどの程度リアルに感じているかは、「まさか自分が」
「自分には関係ない」という人が多くをしめる。
実際に、検査を目的に献血にいく人がどのくらい
存在するのだろうか。
下記のような調査が実施されている。

 一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
HIV 感染献血者の高危険性行為に関する 調査と血液の安全性確保対策
(清水勝:HIV 感染献血者の高危険性行為に関する 調査と血液の
安全性確保対策, 日本輸血細胞治療学会誌,vol.51.No.3 :333―340, 2005)参照

この調査は2003年に実施され、献血で陽性と判明したHIV陽性者を対象に
その動機について質問している。
これによると、回答者は185 人、そのうち男性が 158 人(85%)と
圧倒的に多く、初診年別では 2001 年が45 人(24%)と最大であり、
最近 5 年間の受診者が146 人(79%)と大部分を占めた。
この調査結果によると、献血で陽性と判明した人(185人)のなかに、
男性同士の性行為で感染したという回答者が多くふくまれていた。
そのうち、検査目的と肯定した回答者(22人)の9割が男性との性行為で
感染したという人であった。

この調査からみるかぎり、全員が検査目的であったとは言えない。
しかし、検査目的であるという人も含まれており、保健所などの検査の
利用のしやすさを改善する必要がある。
特に、現在の日本でHIV感染の影響を一番受け、
感染の広がり多く報告されている層である、男性同士の性行為を行う
人たち、いわゆるMSM(Men who have Sex with Men)という人たちが、
献血ではない、検査を受けてもらうための啓発が重要であることは
明らかである。

■ 受容と供給のバランスをどう取るか、ハードルの高さの設定は?
さらに問題を複雑にしているのは、若い層の献血者の減少である。
血液の供給量を確保することは、医療の現場にとって、非常に
重要なことである。それと同時に、輸血の安全性をどのように
確保するのかが問われているのだ。

手術や救命医療の現場で大量に使われる輸血用血液製剤は、
大半を献血に頼っている。
ところが、若年層の献血離れが著しく、16~19歳の献血者は
24年間で5分の1に、20歳代に限定すると、なんと半分以下に
減っているのだという。
そのため、厚生労働省では対策を検討していると報じている。
献血は本来、無償で行うものであるという、これまでになかったような、
至れり尽くせりのサービスまで提供するのは、
背に腹は変えられないという事情によるものだという。

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■ 最後に
日本赤十字社の検査体制は、来年より個別NATを導入するなど、
より多くのコストをそこに投入して、輸血の安全性の向上に取り組むという。
しかし、検出できない期間をゼロにすることは、現在の技術では難しいと
思われる。

こうした検査の限界を補うものとして、問診票が導入されているが、
献血者の動機が健康管理のためのチェックであったり、
定期的な社会貢献としての習慣である以上、すべての条件項目に
正直に答えるという動機が揺らぐ可能性は否めない。

個人の善意に頼らざるを得ないというリスクをより低くするためには、
本人にHIV感染のリスクの認識がない場合であっても、
HIV検査への導線を改善することが求められている。

虚偽の申告に対する罰則を強化すべきという議論もある。
外国ではそうした対応をしている国も存在するという。
しかし、日本独自のボランティア精神に基づく献血の有り様には
なじまないのではという、意見もある。

HIV陽性がわかったばかりの人たちの相談を受けていると、
わかった直後の反応として、2つのタイプがあるように思う。
「やっぱり」という声と、「まさか自分が」という2つの声だ。
この事は、HIV陽性と判明する前の状態においては、すべての人が
自分の感染の可能性を認識している訳ではないということを
あらわしている。

今回の報道で、問診で事実と異なる申告をし、献血をすることが
「誰かにHIV(他の性感染症、B型肝炎なども)うつしてしまう」
という結果に至り、献血した人が加害的な立場になりうるという
イメージができるようになったのではないかと思う。
しかし、このことは、献血の安全性に不安に感じることにも
つながり、現実的な対応が求められているように思う。

再発を防止するためには、社会の環境整備も大切ではと思う。
問診票への申告は事実がきちんと、書かれるべきである。
しかし、前述のように、それを妨げるものとして、
周囲の視線を意識し、非難や排除を恐れて正直に答えることを
避けてしまうスティグマ(差別や偏見)の存在がある。
それは、社会のなかにも、個人の内面にも存在する。
同性に惹かれる傾向を持つ男性は、ある調査によれば、
男性全体の2%〜5%いるとされる。
しかし、その全員が自分の性的指向を受け入れている訳ではない。
あなたは、ゲイですか?と聞かれれば、
「いいえ、自分は異性愛者です」と答える人もいる。
性について語ることをタブー視したり、性的指向について話しにくい
社会の風土が、性について率直に、正直に語ることを
妨げている現実がある。

日本の再発防止策のためには、保健所などの検査体制の利用への
ハードルを下げることが大切だ。
諸外国では、献血前にHIV検査を実施する国もあると聞く。
献血の場と、既存の検査機関とのネットワーク化を積極的に
模索することも検討してもいいのではと思う。

特に男性とセックスをする男性だけでなく、性のタブー感や、
対面のコミュニケーションで表明することが難しい
検査動機をもつ人たちへの啓発は、NGOや地域のグループと
積極的に連携することが、コスト的にも効果の効率を考える上でも
重要である。
HIVの郵送検査などもあるが、陽性とわかった後のサポート体制の
課題や、業者ごとのサービスの質の差などが指摘されていることを
考えると、それだけでは不十分であるように思える。

今回の報道で、厚生労働省や日本赤十字社が考えてそうなったのでは
ないと思うが、結果的には、「事実とは異なる申告」というところに
焦点があたってしまった。もちろん、他の列記されたリストでも
同様のことが起こりうるのだが。
一部、メディアにて、献血した方の感染経路が報道されたこともあり、
問題の本質が議論されるというよりはむしろ、
事実と異なる申告にたいする非難に終止している印象がある。

ここは、これまでの枠組みを超えて、献血のリスク要因をいかに
低減していくのかを議論しつつ、様々なセクターが協同することが、
いままさに必要とされていると思う。

 

 

 

●ハートなブログ 東京都立駒込病院 感染症科・医長 今村顕史さんのコラム

献血とHIVの感染の問題について。