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「献血とHIV感染の問題について」都立駒込病院・感染症科 今村医師

2013年12月10日(火)

大きなニュースとなっている「輸血によるHIV感染」ですが、
正しい知識を知ってもらうため、今回、医療者として
この問題について寄稿いただきました。

長年HIVの診療を続けてこられた
都立駒込病院感染症科 医長 今村顕史さんからの
メッセージです。

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輸血によるHIV感染が、新聞やニュースなどで話題になっています。

この問題を考えるためには、HIV感染症の検査についての
基本を知る必要があります。
今日は、HIV感染を診断する検査について、できる限りわかりやすく
説明したいと思います。
そして、それを理解していただいた上で、今回の輸血で起こった
感染について、みなさんと一緒に考えてみることにしましょう。

【HIV感染を診断する検査】
HIV感染症を疑ったときには、一般的に「スクリーニング検査」と
「確認検査」の二段階の検査が行われています。
「スクリーニング検査」では、見落としのないことが重要なポイントに
なるため、非常に感度が高い検査が選ばれています。
その一方で感度が高すぎて、
「偽陽性(本当は陰性なのに陽性となってしまう)」が
多くなってしまうという問題があります。
そこで、この偽陽性を取り除くために、「確認検査」を行って診断を確定しています。

 


【感染がわからない期間】
一般的に行われている検査では、病原体と戦うことで
体の中でつくられる「抗体」というものを検出します。
「抗体」がつくられるまでには、ある程度の時間が必要です。
現在の「スクリーニング検査」では2~4週程度、
「確認検査」では4~8週程度かかるとされています。
したがって、この期間はHIVに感染してもHIV感染を
診断できないため、特に「ウインドウピリオド」と呼んでいます。

【献血とウイルス検査】
一般的な検査では検出不可能な期間が長いため、
その間の献血によってHIV感染血液による輸血が起こる
リスクが高くなります。
そこで、献血された血液については、ウイルス遺伝子を
直接測定する検査(NAT)が行われているのです。
しかし、この検査にも技術的な限界があり、ごくわずかな
ウイルス量では測定できないという問題が残ります。

【3つのウインドウピリオド】
みなさんは「ウインドウピリオド」の種類を、3つに分けて
考えてみるとわかりやすいと思います。

第1のウインドウピリオドは、性器などの局所でウイルスが
感染してから、ウイルスが血管内に入って検査可能となるまでの
期間です。この期間は、感染した部位、ウイルス量、
感染した局所に他の性感染などの炎症があるかなどによって
影響を受けます。

第2のウインドウピリオドは、ウイルス測定によるものです。
実際にウイルスが血管内に流れはじめても、検査で測定可能な
ウイルス量に増えるまでは検出不可能です。
この期間がNAT検査によって検出できないウインドウピリオドとなります。

第3のウインドウピリオドが、最初に説明した抗体検査で
検出できない期間となります。

今回のケースでは、NAT検査によるウインドウピリオド
(上記の第2にあたります)に献血された血液が、HIV検査で
検出できずに輸血されてしまったのです。

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【日赤における対応】
日赤では、このような検査の限界があることを前提に、
リスクを下げる努力が続けられています。

[より検査感度の高いNATを利用していく]

[1回で検査する検体数を減らし、検査精度を高める]
以前は50検体同時検査でしたが、今は20検体となっています。
検査キットの進歩とコスト削減により今後は1検体ずつの検査とする予定。

[問診によって感染の可能性があった人の献血をやめてもらう]
献血前に詳細な問診票記載が行われています。

【検査目的の献血】
以前から、検査目的で献血をしている例のあることが
指摘されていました。通常は、NAT検査で判明して、
輸血されることはありません。
しかし、ウインドウピリオドに献血された場合には、
今回のようにHIV感染を検出できずに輸血されてしまう
可能性があるのです。

【献血でのHIV感染を防ぐために】
このようなことが、できる限り起こらないようにするためには、
どうすればよいのでしょうか。
このことを考えるためには以下の2つの面からみてみる必要があります。

・献血する側への対応
・献血された血液を扱う側の対応

【献血をする側への対応】
献血する人が、検査目的の検査を行わないことがポイントとなります。

[リスクの高い人に献血しないでと訴える]
これは本人の倫理観に訴えることが中心となります。
今回の事例のように、感染のリスクが極めて高い状況で、
輸血をしてしまえば、本当に関係のない人が感染してしまうのだということを
知ってほしいと思います。

[他の検査のハードルを下げる]
献血においては、場所や方法などの環境が整えられています。
したがって、保健所や病院など、その他の検査を受けやすく
変えていくことも大切です。
最近は郵送検査を利用している人も増えています。
これまでの検査以外の方法も考えていく必要があるでしょう。

[結果は絶対に伝えない]
検査目的の献血は、「もしもHIVに感染していたら、献血することで
教えてくれるだろう。」という思いから行われます。
陽性がわかってしまっても伝えないということへの意見もあるでしょう。
しかし、これまでは伝えていたが、これからは伝えないと、
改めて宣言するくらいの対応が必要かもしれません。
ですが、一方で、善意の献血をした人で、陽性と判明した場合に
伝えないことで対応が遅れてしまうという反対意見もあります。

[法律的な問題となり得ることを理解してもらう]
本人の倫理観で全てをおさえることは難しいと思います。
海外では実際に法律的な問題となったケースがあります。
この点について指摘していたニュースもありました。


【100%はあり得ない】
輸血にも100%はありません。検査側の努力でも限界があります。
リスクが高い性行為でのウインドウピリオドは避けられても、
本人も気づかない感染では完全に防ぐことはできません。
また、会社で半強制的な状況の中で行われており、感染が心配でも
献血せざるを得なかったという例もあります。
今回のようなことは、B型肝炎ウイルス(HBV), C型肝炎ウイルス(HCV)でも
起こっています。また、未知のウイルスがいつ現れてくるかもしれません。
「100%安全はない」ということを前提に、今後も少しでもリスクを
低くするような努力を続けていく必要があるのです。
 

●ハートなブログ NPOぷれいす東京・代表 生島嗣さんのコラム

献血報道をみて感じるHIV関連団体、現場の声。
 

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