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堤 未果さんからのメッセージ 『奪われたアメリカン・ドリーム』

2013年03月15日(金)

3/18放送(3/25再放送)の
シリーズ 貧困拡大社会
 ―奪われたアメリカン・ドリーム―

にご出演の堤 未果さんに収録の感想をお聞きしました。



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《堤 未果(つつみ みか)さんプロフィール》
ジャーナリスト。
アメリカ同時多発テロに遭遇し、以後日本とアメリカ間を行き来しながら
取材・執筆活動を続け、各種メディアで活躍している。
著書に『ルポ・貧困大国アメリカ』(この夏Ⅲが刊行予定)、
『政府は必ず嘘をつく』など。



Q.番組でアメリカの貧困の現場に行かれていかがでしたか。

富裕層と貧困層の二極化がものすごいスピードで加速していると改めて感じました。
グローバル化の負の側面がそこかしこに出てきてしまっているなと。

貧困者が最貧困層に落ちるというのは今までもありましたが、ここだけは守られるだろうと思われていた正社員や公務員といった人も含めて中間層全体がまともに暮らせなくなってきている。
富が集中する上位1%vs 99%の構図が完成しつつあるのです。

ウォール街デモを覚えていますか?
あれは今後世界が向かう方向性を象徴する警告です。
この流れに国境はありません。
アメリカで今起こっている事は、世界各地で起きている事象の縮図です。
先進国では韓国や日本がその後を追っています。

日本ではアメリカの株価や政局報道が中心ですが、日本の私たちが貧困を考える時、最も見るべきは「アメリカ」の実体経済の方なのです。


Q. 今回の番組では、ただ貧困の実態を見るだけではなく、
 どうして貧困が起こったのかというプロセスを探っていければと思っていますが。


貧困の現場をいくらTVでみても、どこか他人事に感じたり、その時は心を痛めても、多くの人は忙しい日常の中で忘れてしまう。
それが他国の貧困ならなおさらです。

けれど貧困は「結果」です。
現象だけでなくその根幹にある原因を探っていくと、グローバル化やIT革命、そして1%が政治にまで影響力を拡大しつつある「コーポラティズム」という、国を超えた共通項がみえてくる。

レポートの中では「国内雇用が戻ってきた」とさかんに強調されていますが、今先進国で貧困を生む大きな原因の一つである「価格競争」の中で戻ってきただけなので、以前よりずっと条件は悪化している事をよく見て下さい。

企業に後押しされたアメリカ政府が自国民にしている事を、次にTPPなどの国際条約を通して、日本をはじめとする他国にしてくるからです。


今後日本の「貧困政策」は、グローバル化とコーポラティズムによって世界で加速するこの流れをしっかり視野に入れて作る必要があります。

単に企業=悪という従来の善悪図や、アメリカ一国の「陰謀論」という狭い見方ではなく、この新しい流れの中でどうしたら民を守り世界と対峙できるかを真剣に考えなければなりません。

多国籍企業がここまで力を持ってしまった今、単に国内産業を価格競争にさらすだけでは、強化どころか大半が淘汰されてしまう。
「価格」ではなく「質」で勝負する事が大事です。

グローバル化の中で、代わりが効かないモノや技術を提供できる中小企業、地域に密着した仕事や産業を活性化する政策が、これからますます重要になっていくでしょう。


アメリカや韓国のように少数の上層部だけ潤って国民生活は貧困が加速という状況ではいずれ国はもたなくなります。日本も同じです。

実体経済を形骸化させずに世界市場でも勝負してゆける力こそが「国益・国際競争力」だと思いますね。


Q.アメリカは社会保障が少ないともされており、言い換えれば「自己責任」の国と言われています。
 最近日本でも「自己責任」という考え方、風潮が強くなっているようにも思いますが、堤さんはセーフティーネットということについてどう思われますか?


生活保護は「最終地点」、そこに至る前の段階ですくいあげるしくみこそがセーフティーネットの意味、政治の役割ですね。

グローバル化世界における「貧困問題」にとって、政治と国民の関係は本当に重要です。

アメリカの異常な二極化は、国民が政治から目を離し、1%だけが好きなように政治を動かした結果でもあるからです。


政治に出来る事は沢山あります。
例えば今賃金が下がっている家計を直撃している教育費。
先進国でも教育予算が極度に低い日本は、国にとっての「教育」の意味を考え直す必要があるでしょう。

「自己責任」なのか「未来への投資」なのか。

今日本でも「学資ローン借金を抱えて」社会に出る、又は払えきれず中退する大学生が急増しています。
中退者の半分以上がフリーター化する結果国の税収は減り、悪化すれば生活保護費が膨れ上がる。

教育費の無料化、いつでも大学に戻れる制度、そしてグローバル化の中で今後強みになるだろう専門学校の強化、あるいは「現実的な」子育て支援など、インフラ整備も含め、今の時代にあった、セイフティーネットが必要ですね。


私たちの親の世代では「良い大学に入りなさい」と言われていましたが、今回のアメリカレポートのもう一つのポイントは、グローバル化の中で「学歴」の意味も大きく変わってきている事です。
これからは高等教育の中身を見直したり、親の意識改革が不可欠でしょう。

貧困の拡大を断つためにも、子供達には今までのような「知識」だけでなく、「情報を読み解く力」や「自分を差別化する力」、「自分の頭で考える力」など、いうなれば生き抜く「知恵」を与える教育が必要だと思います。



『シリーズ 貧困拡大社会 ―奪われたアメリカン・ドリーム―』

 2013年3月18日(月) 午後8時から8時29分 Eテレ
[再放送] 3月25日(月) 午後1時10分から1時39分 Eテレ

コメント

 アメリカ経済は日本社会の写し鏡少し前まではアメリカの現象はタイムラグがあり日本も起きていたが現代は同時に進行している。景気は回復したと報道されているがレーポトされた従業員の暮らし向きは厳しい。これからの少子高齢化が加速すると貧困問題も深刻化するのが恐ろしい。

投稿:ハイジ 2013年03月27日(水曜日) 21時31分

 3月18日放送分を録画していて、先ほど見ました。
 アメリカの実情に本当に驚きです。そして堤さんの提言、
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「価格」ではなく「質」で勝負する事が大事です。
グローバル化の中で、代わりが効かないモノや技術を提供できる中小企業、地域に密着した仕事や産業を活性化する政策が、これからますます重要になっていくでしょう。
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は、現在の日本の地方経済についてもあてはまることです。かつての地方の農業は、政府からの補助金により なんとか成り立っていました。そのことが、結局は日本の農業を弱体化させていたと思います。また、これまでの多くの日本の中小企業は、公共事業を受注するか、大企業の下請けの仕事に業務の主体があったと思います。いずれも、どこかの大きな存在によりかかること、長いものに巻かれろ式の経営でした。

 自ら考えて行動することを提唱されている堤さんの提言は、まるで教育者の言葉に思えますし、今後の日本人一人一人が誰もが考えて行かなくてはならない行動指針だと思います。
 現場に即したレポートを元に成り立っているこの番組は、非常に有益ですし、堤さんの提言も正鵠を得ていると思います。今後も期待しています。

投稿:愛媛_井上 2013年03月24日(日曜日) 15時17分

堤さんの番組はとてもよかったです。TPPもこういう視点から放映すると、議論の幅が広がると思います。

投稿:純也 2013年03月19日(火曜日) 11時55分

3チャンの「ハートネットTV」でアメリカの雇用環境をやっていた。「right to work」法で労働者の労組への組合費支払義務を無くし、労組を弱体化させ、労働者の労働条件を下げやすくする法律。この法律により労働者を低賃金に抑えられる州には、世界中のグローバル企業が工場を建てたがる。今や「right to work法」は全米の約半分くらいの州で採用されている。雇用を確保する代わりに雇用の質が低下するか雇用の質を維持して企業が外国や他の州に逃げるかという選択だと解説者は言っていたが、どっちも嫌な話だとボクは思った。経済が縮小しているからこういう話が出るのであって、人手不足になるくらい経済が成長・拡大すれば、雇用を確保すると同時に雇用の質も上げられる。企業も儲かって州への法人税支払いも多くなり、州の財政も立直る。結局、今現在のアメリカなら、大胆な金融緩和政策と積極的な財政政策をして経済を成長・拡大させていく政策を実施していく事が、労働者の貧困解決にも繋がる話だとこの番組を観て、ボクは改めて思った。

投稿:ママデューク 2013年03月18日(月曜日) 20時59分