――道下さんは、伴走者とのコミュニケーションでは「マイナスなことを言わない」というのを大切にしているそうですが、それはどういったことですか。

たとえば私が4分10秒で行きたいところで、15秒とか20秒になってしまったとき、「マイナス○秒」と言うのではなくて、「半歩前に」というような表現を使ったりして、よりポジティブな発想で走れるようにしています。そういうことまで意識すれば、頭の切り替えができて、走りもよくなるんです。

――たとえば伴走者とは、「もうすぐ右に曲がるよ」というようなコースのやりとりもあるんですか。

ありますね。カーブのときは最短距離を走るのが理想的なんですが、目の見えない選手はどうしてもそこのコース取りが難しいんです。だから、そこは伴走者との声掛けでカバーしていて、たとえばカーブのどのくらい手前で声をかけてというのは練習のなかでも常に言っていますし、伴走者が2人目に交代しても「同じタイミングで指示を出して」と話しています。あとは、カーブのときはロープを短めに持つという工夫をしていて、カーブにさしかかると遠心力で私が飛ばされないように伴走者がロープをたぐりよせるんです。そういうこともしていますね。

――道下さんは競技中でも笑顔でいて、表情がとても印象的ですが、それは意識しているんですか。

そうですね。私は目が不自由になったときに笑顔でいる時間が少なくなったんです。でも、人と一緒にいるときは笑顔でいようと意識をして、笑顔の時間を増やしたんですね。それが徐々に自然体になっていって、周りの人から「いつも笑顔だね」と言われるようになりました。でも、この笑顔は、周りの人たちへの「ありがとう」という気持ちとか、「一緒にいてうれしい」という気持ちの表れなので、本当にみんなには感謝しています。

――マラソンはメンタルもすごく大切な競技ですが、笑顔でいることでのポジティブな影響というのもあったりしますか。

あると思います。私はレースを走っているときは「自由に走らせてもらっている」というイメージなので、本当に自分は幸せだなと思いながら走っているんですね。だから、笑顔がしっかりでているときは、良いタイムになっているはずです（笑）。

――現在は、勝負どころではロープを持たずに走るような練習もしているそうですが、ロープを離すタイミングはどのように決めているんですか。

それは伴走者の方に委ねています。安全である場所、私が不安を感じない場所はロープを放して走ることもありますが、足元がちょっと危険だなと思う場所だったり、カーブだったり、私が見えにくいであろうと想定できる場所は絶対にロープを離さないです。あとは、日差しが強くて、背景が白いところだと全盲に近くなるので、絶対にロープを握っています。もし怖いと思う瞬間があったら必ず練習のときに伝えています。きっと私の視界をよりリアルにイメージできている方がリオで一緒に走ることになると思いますね。

――これからリオパラリンピックまで、どういった準備をしていきますか。

先日、高橋尚子さんにお会いしたときに、体幹を鍛えるだけであと10分は早くなると言われたので、今は体幹を鍛えているところです。あとは、「意識付け」というのもしています。たとえば筋トレで太ももを上げるトレーニングでも、走っているときの意識を持って行う。腹筋のトレーニングも、走っているイメージを持って鍛える。意識を変えることで脳からの伝達が速くなるので、そういうところを今は意識しています。小さい体をいかにダイナミックに動かすかというのが私の課題なので、それにつながる練習をしていきたいですね。