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障害者の暮らす場所 第2回 日本で最初の知的障害者施設・滝乃川学園-前編-

2016年10月21日(金)

20161020_2_000.jpg第2回 日本で最初の知的障害者施設・滝乃川学園前編
▼ 市民が園内を散歩する入所施設 
▼ 社会の理解を広げるのが一番の防衛策
 
 

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市民が園内を散歩する入所施設


Webライターの木下です。
第2回は東京都国立市にある社会福祉法人「滝乃川学園」をご紹介します。母体は入所施設ですが、障害者の地域移行を熱心に支援する施設としても知られています。

滝乃川学園が誕生したのは、125年前の明治24年(1891)。知的障害者を支援するという発想がまったくなかった時代に、日本で初めて誕生した知的障害者の施設です。明治期から戦前までは、日本にはまだ現在のような福祉制度などがなく、公的な支援を受けることのない民間施設でした。創立時、東京都北区滝乃川村にあったことから「滝乃川学園」と命名。自然の豊かさを求めて、国立市に移転したのは、昭和3年(1928)のことです。

現在滝乃川学園には障害児と成人の入所施設があり、障害者のグループホームや認知症対応型のグループホーム、地域支援サービスも運営しています。職員数は約200人で、利用者数は300人を超えます。

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常務理事の米川覚さん

滝乃川学園で話を聞かせてくださったのは、常務理事の米川覚さんです。勤続35年の元施設長ですが、いまは園内にある創設者の資料を展示する「石井亮一・筆子記念館」の館長をしていて、滝乃川学園の歴史資料の編纂にあたっています。

米川さんがすぐに語ってくれたのは、滝乃川学園が地域に開かれた施設であることです。入り口には門扉はなく、施設の中には遊歩道が通っていて、小川も流れていて、市民が自由に散策できます。土曜日には「森のカフェ」という喫茶室をオープンし、市民に憩いの空間を提供しています。園内にある遊具は、近くの幼稚園の子どもたちや親子連れも利用します。

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入り口には門扉はなく、誰でも自由に施設内に入っていけます


社会の理解を広げるのが一番の防衛策


相模原障害施設殺傷事件があってすぐに、米川さんたちは幹部と協議をしました。そして、たとえこのような事件があったとしても、「滝乃川学園は地域の人が誰でも自由に訪れることのできる開かれた施設であることを続けていく」とする宣言書を入所者とその家族や職員に配りました。

「事件を知って、まず思ったのは、類似の事件が起こったら困るなということですね。でも、同時にこれで全国の障害者施設が自分の殻に閉じこもっていくようになるのも嫌だなと思いました」

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毎週土曜日にオープンする「森のカフェ」

滝乃川学園は設立当初は、名前の示す通り、地域で暮らす知的な障害のある子どもたちに勉強を教えるための寄宿舎付の学校施設でした。入所施設というよりも地域にある学校のひとつとして位置づけられていました。障害者も地域の人とともにあるという考え方は、100年以上前から変わっていません。

「もちろん、事件が起きた以上は、手をこまねているわけにはいきませんから、大手の警備会社に頼んで、私たちの施設の防犯上の弱点を検証してもらって、“夜だけは防犯を強化しなくてはいけない”などの指摘受けました。しかし、施設を地域から閉ざすのはかえって危険だと思います。障害者に悪意や偏見を抱くのは、接したことがないからです。交流の機会を自ら減らせば、今回の容疑者のような人物を新たに生むことになるかもしれない。うちの児童部の子どもは地域の子どもたちとも園内で遊んでいます。そうやって子どもの頃から障害者と身近に接しているのと、大人になってから初めて障害者と接するのとでは、意識がまったく異なってくると思います。不審者を招き入れないように警備を強化するよりも、社会の理解を広げるのが一番の防衛策だと思います」

米川さん自身も、父親が知的障害児施設を運営していたことから、お盆や正月には自宅に知的障害のある子どもたちがやってきて、幼い頃からふつうに接してきたと言います。

大学も福祉関係の学部ではありませんでしたが、滝乃川学園に勤めるようになった当初から、ごく自然に入所者と接することができたと言います。

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近所の親子連れが遊具で遊んでいます

木下 真

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