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障害者の暮らす場所 第1回 施設と地域をめぐるさまざまな意見

2016年10月20日(木)

20161020_1_000.jpg第1回 施設と地域をめぐるさまざまな意見
▼  施設も地域もそれぞれに課題が 


次回のブログ :第2回 日本で最初の知的障害者施設・滝乃川学園【前編】  

 

施設も地域もそれぞれに課題が


Webライターの木下です。
相模原障害施設殺傷事件が起きてから、すでに3か月が経とうとしています。今回の事件現場が大規模入所施設であり、容疑者が元職員だったことから、障害者が施設で暮らすことを問題視する意見がわき起こりました。

▼「地域で暮らしていれば、あのような大量殺人事件は起こりえなかった」
「施設入所は一種の隔離だ」
「施設は社会が障害者を必要としていないというメッセージを暗黙の内に発してしまう」
「当事者で施設に入ることを望んでいる人はいない」
「施設の生活は、障害者の自立する力を奪っている」
「施設にいたのでは社会が障害者を理解する機会を失う」


施設から地域へ移行する大きな流れはありますが、まだ全国では成人の知的障害者の11万人は地域ではなく、施設で暮らしています。脱施設の動きをさらに加速していく必要があるという気運が改めて広がっています。

しかし、その一方で施設関係者からは、こんな声も聞こえてきます。

▼「現在は軽中度の障害者のほとんどは地域で暮らしている。いま施設にいる多くは高齢の重度障害者で、施設がなければ居場所を失う人も多い」
「多くの施設は地域に開かれていて、職員との関係も家庭的で、一昔前のような隔離施設というイメージはない」
「現在の施設は地域の支援活動をするところも多く、地域で暮らす障害者にとっても施設は一定の役割を果たしている」
「周りとトラブルになりやすい強度行動障害のある知的障害者の中には、施設だからこそ安定した生活が送れるケースもある」


また、重症児者の保護者からは、こんな切実な声も上がっています。

▼「地域で暮らすと言っても、医療的資源はまだまだ乏しい。支援なき地域に戻ってきても、家族に過剰な介護負担が増すだけ」
「もともと地域で生活してきたが、親も高齢になり、支えきれなくなってきた。今後はむしろ施設の必要性は高まるのではないか」
「自立できる障害者と、そうではない障害者がいることを理解してほしい。重度でも自立生活はできると言っても、意思を示すことが難しく、体を動かすこともできない最重度の障害者のことが本当に意識されているのか疑問だ」


現在、ハートネットTVのカキコミ板では、施設と地域の暮らしに関する書き込みを募集していますが、あるA型作業所に通所している精神障害者の女性は、複雑な心境を吐露しています。

「健常者にとっては“隔離”かもしれませんが、当事者にしてみれば“避難”であり、施設が“安住の地”である場合もあります。社会と無理矢理交流させるのも、無理矢理離すのも、まだまだできないと思います。ただ、障害者がどのような形で自立するか、もっとたくさんの選択肢があっても良いのではないかと思います」


そのように施設の暮らし、地域の暮らしに対しては、さまざまな意見がありますが、地域で障害者が安心して暮らせる条件が整い、家族だけに過重な負担が課せられることがないならば、障害者も地域で暮らすのが理想であるという考えは誰しも共通しています。

近年、施設に地域社会との交流を深めるような変化が生じてきたり、地域で暮らすことを希望する当事者やその家族が増えてきたのも、1980年代から広がってきた障害者の自立生活運動の影響によるものであり、大きな流れは揺らぐものではないと思われます。

しかし、高齢化や重症化、医療的ケアの必要な障害者の増加など、新たな課題も生じている中で、どのように理想の社会の実現に向かっていくべきなのか。当事者の意思を大切にする豊かなケアはどうすれば実現するのか。地域の人々の理解をどうやって深めていくのか。具体的に考えていかなければならない課題は数多く残っています。

今回、現場の声を聞くために、日本初の知的障害児・者施設で、100年以上の伝統をもつ東京都国立市の社会福祉法人「滝乃川学園」と、日本の自立生活運動の最初の拠点となった東京都八王子市の「ヒューマンケア協会」を取材しました。

第2回では滝乃川学園を、第3回ではヒューマンケア協会をご紹介します。「施設で暮らす、家族と暮らす、自立して暮らす」。障害者の暮らしについて、多様な視点から考えていきたいと思います。


木下 真

▼関連番組
 『ハートネットTV』 夜8時・Eテレ[再放送:翌週 昼1時5分]
 シリーズ相模原障害者施設殺傷事件
  12/6(火) 第1回 匿名の命に人生の証を(仮)
  12/7(水) 第2回 言葉はなくともー重度知的障害者の暮らしー(仮)

▼関連ブログ
 障害者の暮らす場所 全5回
 第1回 施設と地域をめぐるさまざまな意見
 第2回 日本で最初の知的障害者施設・滝乃川学園‐前編‐
 第3回 日本で最初の知的障害者施設・滝乃川学園
‐後編‐
 第4回 日本初の自立生活運動の拠点「ヒューマンケア協会」-前編-
 第5回
日本初の自立生活運動の拠点「ヒューマンケア協会」-後編-

 相模原障害者施設殺傷事件 全6回

  第1回 追悼集会に寄せられたメッセージ 
  第2回 熊谷晋一郎さんインタビュー
  
第3回 中島隆信さんインタビュー
  第4回 竹内章郎さんインタビュー 
  第5回 高谷清さんインタビュー 
  第6回 児玉真美さんインタビュー

 ヤマケンボイス 分かち合いたい―「津久井やまゆり園」を訪ねて―
 相模原市障害者殺傷事件に関して
 
【相模原市障害者施設殺傷事件】障害者団体等の声明

コメント

息子は20歳の重度自閉症です。こういう人は市街地が安心できると本人も思ってません。でもコンビニとかに買い物に行ったりゲームセンターに行ったりするのは好きです。でもそこにすみたいわけではないです。音にも敏感で子供たちの泣き声に苦しんでいて大人や高齢者しかいない場所の方が落ち着いてます。誰が悪いわけでもないけど卒業後は支援学校のようなたくさんの先生に支えてもらうことは不可能で予定表が細かく提示されて静かな環境がやはりいいので場所に関しては隔離されていてもいいです。夜中に叫ぶこともありますし。
辛いのはそれぞれの特徴が違うので音楽が流れると踊り出す人と耳を抑える人がいたり、支援員さんの苦労は半端じゃないでしょう。
私たちはいずれ死んでいくので息子もお世話にならなければ生きていけません。今申し込むと10年待ちだそうで20歳で申し込んで30歳で入れるか?それまで親が生きていられるのか?日々不安でいっぱいです。預けていた親はこの事件に対して多分施設を責めることはしないでしょう。入れただけでも感謝ですから。なんか寂しいですね。

投稿:こうちゃんママ 2016年10月24日(月曜日) 08時24分