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発達性協調運動障害 第3回 運動と認知発達

2016年08月22日(月)


 

赤ちゃんの運動と発達障害


Webライターの木下です。
赤ちゃんは長年、「外から受けた刺激によって学習し、成熟する」という考え方が主流で、言葉を話す以前の乳幼児は、外からの刺激に反応して初めて動き出す、受け身の存在ととらえられていました。しかし、現在の赤ちゃん研究では、赤ちゃんは胎児のときから自発的な運動を始めて、自ら周囲に働きかけながら脳を発達させていくと考えられています。

20160816_3_001.jpg現在、最新の超音波診断装置により胎児の3D映像をリアルタイムで再現することが可能になり、胎児の子宮内の様子が観察されるようになりました。すると、赤ちゃんは羊水の中にぼんやりと浮かんでいるだけではなく、指しゃぶりをしたり、手で顔を触ったり、首を回したり、羊水を飲み込んだり、笑ったり、しかめ面をしたり、あくびをしたりなど、さまざまな活動をしていることが明らかになりました。そのような動きは出生後も続き、あおむけの姿勢で手足は無秩序にうごめき、それがやがて意思でコントロールできる秩序ある動きに変化していき、寝返り、はらばい、おすわり、ハイハイ、そしてつかまり立ちへと、段階的に視野や活動範囲を広げながら、知覚と運動を結びつける脳のネットワークを構築していきます。

2001年に「日本赤ちゃん学会」が設立され、現在「赤ちゃん学」の研究者たちは、観察だけではなく、脳の血流を利用したイメージング研究、実験的な認知科学研究、神経ネットワーク形成のシミュレーションなど、最新の科学的手法で、物言わぬ赤ちゃんの認知行動を日進月歩で解明しています。

発達の原動力として「運動」があることがわかってきたことで、その運動機能に障害がある場合は、脳の認知機能への影響が予想されます。そこで発達障害の臨床研究の最前線では、乳児の行動特徴を探求することで、知覚や運動が発達障害にどのようにかかわるのかを明らかにする研究を進めています。

例えば、乳幼児期の自閉症の子どもには、反り返りの強い寝返り、ぎこちないハイハイ、つま先立ちの奇妙な歩行など、定型発達の子どもに比べて、微妙な運動発達上の違いがあることが、国内外の研究者によって明らかにされています。

発達障害の原因としては、遺伝なども関係しますので、すべてを知覚や運動の観点から説明することはできませんが、人間の発達が「自ら動くことを基本に成り立っている」ことを考えれば、発達障害の原因を探る上で、「運動」という視点は必要不可欠なものとなっています。



当事者が語る発達障害の困りごと 


発達障害が精神的なものよりも、知覚や運動など身体的なものとの関連の方が大きいというのは、発達障害当事者たちの発言からも明らかとなってきています。現在、発達障害の当事者たちが、自らの症状について解明する「当事者研究」という試みがなされていて、そこでは、発達障害は精神の障害ではなく、身体の障害としてとらえる方が、自分たちの障害の実感に近いという報告がなされています。

20160816_3_002.jpg当事者研究会のメンバーで小児科医の熊谷晋一郎さんは、「当事者にとっての問題の大半は、対人関係以前の、知覚・運動のレベルにある」と述べています。同じく同研究会のメンバ-でアスペルガー症候群の綾屋紗月さんは、『発達障害当事者研究会』という著作の中で、知覚の観点から自身の発達障害について語っています。


綾屋さんは、大量に刺激が感受されすぎて、たくさんの感覚で頭が埋め尽くされている状態を「感覚飽和」と呼んでいます。この感覚飽和によって情報処理が追いつかないときに、いわゆる自閉症者の「フリーズ」や「パニック」が引き起されると言います。

例えば、綾屋さんは、「お腹がすいた」という感覚を理解するのが難しいと言います。身体内部には、「頭が重い」「胃のあたりがへこむ」「集中力が切れた」「ボーッとする」「胸がわさわさする」「手足が冷たい」「気持ち悪い」など、空腹感だけではなく、さまざまな身体情報がすべて等価で自分の中で飽和状態になっていて、自分がお腹がすいているかどうかをすみやかに判断することができないと言います。

同じように外部からくる情報に関しても、感覚飽和は起きます。例えば、にぎやかな居酒屋やざわついたファミレスでは、たくさんの音情報が等価で一度に入ってきて、自分の必要とする音を選択できなくなり、声の大きさとかかわりなく、相手の声を聴きとれなくなると言います。


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そのような感覚和の状態では、自分の内部のできごとへの対処にかかりきりになって、他者の認識が難しかったり、他者に反応できなかったりなど、社会と良好な関係を結ぶのが難しくなります。


小児科医の中井昭夫さんは、自閉症の当事者が「感覚飽和」によって社会性が発揮できなくなっている状況と、不器用な子どもが複数の運動を協調させることができない状況とに、ある種の共通性を見出しています。「社会性」も「協調」も自己を基準に他者や周囲の環境を認識するというプロセスが必要で、両者には共通の「身体化による認知」という神経基盤が存在する可能性が示唆されていると言います。

 

※参照:『今なぜ発達行動学なのか』(小西行郎編著)、『発達障害当事者研究』(熊谷晋一郎、綾屋紗月)

木下 真

 

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