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発達性協調運動障害 第1回 不器用な子どもは発達障害の可能性が

2016年08月18日(木)

 

Webライターの木下です。
以前、発達性協調運動障害についてフェイスブックで取り上げたところ反響が大きく、「子どもの頃に体育の授業がなぜあんなに辛かったのかがやっとわかった」という書き込みをされた方がおられました。発達障害に関する情報は、さまざまな形で発信されていますが、まだ一般的にはあまり知られていない事実もあります。発達障害のある子どもたちの支援に重要な影響を与えると言われる最新トレンドについてお伝えします。

 

専門家の間でも知られていない障害


人並み外れて不器用な子ども、極端に運動の苦手な子どもが小学校のクラスに数人はいます。例えば、「服のボタンを留められない」「靴ひもがうまく結べない」「ラジオ体操やダンスで手足がばらばらに動く」「はさみやコンパスなどが上手く使えない」「つまずくものがないのに、よく転ぶ」などなど。たんに体育の授業がうまくいかないだけではなく、日常生活もトラブル続きで、先生に叱られたり、友達からいじめられたりして、本人は辛い思いをしています。

 

これまでは、過保護な育て方や運動不足、練習不足が原因だと思われたり、理由がわからないまま対応に苦慮していましたが、実は、このような子どもたちは、発達障害のひとつである「発達性協調運動障害(DCD =Developmental Coordination Disorder)」である可能性が知られるようになりました。これまでも発達障害のある子どもに不器用さが見られることは認識されていましたが、そのような症例が単独にも存在し、発達障害の子どもたちを理解し、支援していく上で重要であることが、近年専門家により指摘されています。

20160816_001.jpg欧米ではすでに研究が進んでいますが、日本で発達性協調運動障害(DCD)が広く認知されるようになったのは、2013年の第110回日本小児精神神経学会でメインテーマとして取り上げられたのがきっかけでした。そして、2016年4月10日には、学会の立ち上げに向けて、「日本DCD研究会」が発足しました。同研究会では、DCD研究の世界的権威であるロンドン大学のヘンダーソン教授により、世界的な研究の動向が紹介されるとともに、国内の研究者からはDCD研究の重要性や子どもたちへの支援の遅れなどが報告されました。


「協調」とは複数の情報や動きのコーディネート


発達性協調運動障害(DCD)の重要なキーワードである「協調」とは、どのような脳の機能なのでしょうか。これは英語では、Coordinationと言います。洋服を「コーディネートする」という外来語がありますが、そのコーディネート(coordinate)の名詞形です。

例えば、スーツもシャツも新調した。ネクタイもベルトも靴下も一流品を買った。ひとつひとつの商品に問題はない。ところが、試しに揃えて着てみると、色が合わない、趣味がチグハグで着られなかったとします。そのときはコーディネートがなっていないことになります。その比喩から類推する通り、DCDとは個々の身体機能に問題がないにもかかわらず、脳が運動をコーディネートできない障害と考えられます。

体操や球技のような複雑な運動で問題になるだけではなく、定型発達の子どもならば誰でも難なくこなせるような、「階段の上り下り」「床にボールを弾ませる」「片足でバランスを取る」といった簡単な運動においても、その不器用さは現れます。親や教師は、わざとふざけているのではないかと思うぐらいに、理解できない動きをすると言います。

以前、兵庫県立リハビリテ―ション中央病院に取材に行ったときに、ある母親は、お風呂で頭を洗うときに、どうしても洗面器の水を自分の頭に上手にかけられない子どもの様子を見て、「洗面器のはしをおでこに当ててやれば、上手くいく」と教えて、初めてそれが可能になったと話してくれました。また、エスカレーターに乗り降りの際には、タイミングをはかりかねて大騒ぎだと言います。人が見ると、何気ない行為であっても、DCDの子どもは真剣そのもの、すごい努力をしているのです。

誰もが無意識のうちにできる何気ない運動でも、それをスムーズに正確にこなすには、目で空間的な位置を確認し、自分の身体と対象との距離を測ったり、目と手足を連動して動かしたり、体のバランスを取ったり、力の入れ具合を調節したり、動くタイミングをはかったりといった、さまざまなレベルの情報を統合し、運動に結びつけなくてはなりません。DCDの子どもにはそれが難しいのです。



大人になっても残存する障害


DCDの子どもは、「ミルクを飲むときにむせやすい」「寝返りがうまくできない」「ハイハイがぎこちない」「滑舌が悪い」など、乳幼児のうちからその徴候は現れてきます。

DCDの頻度は6~10%と高く、小学校の30人学級ならクラスに2、3人はいる計算になります。注意欠如・多動性障害(AD/HD)の約30~50%、限局性学習障害(LD)の子どもの約50%に見られ、自閉症スペクトラム障害(ASD)と併存することも多くあります。そして、この障害は大人になっても、50~70%と高い頻度で残存するとされています。

20160816_002.jpgのサムネイル画像発達障害は、「場の空気が読めない」「自分のこだわりに固執する」「コミュニケーションが苦手」など、社会性の障害として認知されることが多いために、これまで本人の困りごとである知覚や運動のレベルの問題があまり意識されてきませんでした。しかし、協調運動に着目することで、当事者にとって何が問題なのかが明らかになり、発達障害の理解や支援のあり方も変わろうとしています。


参照:『チャイルド・サイエンスVol.10』「発達障害の診察室で考えていること」(中井昭夫)


木下 真

 

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