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女性障害者 第1回 女性特有の生き難さを考える

2016年07月05日(火)

 

 「障害者へ差別」と「女性の差別」が複合する


日本では、障害者に関して、障害の種別や程度によって分けられることはあっても、性別によって区別されることはあまりありませんでした。統計でも、男女が分けられて集計されることはまれで、その人数も正確に把握されず、課題についても十分認識されずにいました。しかし、世界の女性障害者の人権回復に向けての動きに呼応する形で、近年日本国内でも「女性障害者」の現状を把握し、特有の課題を認識していこうとする動きが見られるようになりました。

女性障害者に対する差別は「障害者への差別」「女性への差別」が複合される形でもたらされ、解決の手段は複雑になりやすいと考えられています。性的な被害や虐待を受けやすいだけではなく、教育、就労、結婚など社会生活に関しても男性に比べて制約は大きく、生き難さはより深刻となります。

また、過去には、優性思想に基づく考えから、障害者に子どもを産まないよう強制的に不妊手術をすることが奨励され、そのことが「優生保護法」という法律により認められていた時代がありました。そのような措置を施された女性障害者の権利侵害をただし、尊厳を回復する運動も進められています。


  女性障害者の権利が明文化される


20160705_002.jpg「女性障害者」が意識されるきっかけとなったのは、2006年12月に国連で採択された「障害者の権利に関する条約」です。この条約の策定のプロセスでは、「私たち抜きに私たちのことは決めないで(Nothing About Us Without Us)」という精神が尊重され、当事者自身が策定に参画し、多様な障害者の課題についての認識が共有されました。その結果、一般的な障害者の権利だけではなく、女性や児童などの個別の権利についても明文化されることになりました。

障害者権利条約の前文には「(性の違いにより)複合的または加重的な形態の差別を受ける」ことや「障害のある女子が、家庭の内外で暴力、傷害もしくは虐待、放置もしくは怠慢な取扱い、不当な取扱い又は搾取を受ける一層大きな危険にしばしばさらされている」ことが指摘されています。このような認識を踏まえて、「障害のある人による人権及び基本的自由の完全な享有を促進するためのあらゆる努力に性別の視点を組み込む必要がある」とされ、権利条約には「障害のある女性」という条文が盛り込まれています。


第6条「障害のある女性」

1)締約国は、障害のある女子が複合的な差別を受けていることを認識するものとし、この点に関し、障害のある女子が全ての人権及び基本的自由を完全かつ平等に享有することを確保するための措置をとる。
2)締約国は、女子に対してこの条約に定める人権及び基本的自由を行使し、及び享有することを保障することを目的として、女子の完全な能力開発、向上及び自律的な力の育成を確保するための全ての適当な措置をとる。 

日本政府公定訳

 

日本では、障害者権利条約は2007年9月28日に署名を行い、2013年12月4日に条約の批准を承認。2014年1月20日付けで国際連合事務局に承認されています。批准までに7年もの歳月がかかったのは、障害者基本法や障害者差別解消法などを成立させ、国内法を国際水準まで引き上げるのに時間がかかったためです。

この権利条約では、障害のない人だったら当然に享受している権利を障害者にも保障するために「合理的な配慮」が重視され、「保護の客体から権利の主体へ」と各国の障害者施策を変革していくことが求められています。そして、女性障害者に関しても、その存在が意識され、固有の課題の解決がはかられ、生活の援助だけではなく、社会参加のしやすい環境づくりが進められていくことが期待されています。

木下真

 

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