医療的ケア児 第2回 「医療的ケア」とは何か
2016年06月22日(水)
- 投稿者:web担当
- カテゴリ:Connect-“多様性”の現場から
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▼ 医療的ケアは日常的な生活援助行為
▼ 代表的な医療的ケアの具体例
▼ “医療的ケア“という言葉は教育現場から生まれた
前回のブログ : 第1回 見過ごされてきた子どもたち
医療的ケアは日常的な生活援助行為 |
そもそも「医療的ケア」と、ふつうの「医療行為」とは何が違うのでしょうか。
「医療行為」についての明確な定義はありませんが、一般的には「医師の医学的判断および技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、または危害を及ぼすおそれのある行為」とされています。そして、その医療行為には、「医師自らが行わなければならない行為(絶対的医行為)」である診断、薬の処方、手術などと、「医師の指示に従って医師以外の医療従事者が行う行為(相対的医行為)」である看護師による注射や点滴、レントゲン技師によるレントゲン撮影などの両方があります。いずれにしても、資格をもった医師や医療者にしか許されない行為になります。
これに対して、「医療的ケア」とは、「日常生活に必要とされる医療的な生活援助行為」とされています。代表的なのは、痰の吸引や経管栄養の注入です。狭い気道に唾液や痰が詰まれば、呼吸困難となって死んでしまいますし、栄養摂取は日々欠かせないものです。これらも医学的判断は必要ですが、医師や看護師にしか許されないとなると、子どもが在宅で暮らすのは不可能となります。そこで、医師の指導のもと家族が行うことが在宅医療の前提となっています。
代表的な医療的ケアの具体例 |
■呼吸管理に関する医療的ケア |
○人工呼吸器
神経や筋肉の問題など、さまざまな理由で、自発呼吸が困難になった場合に人工的に肺に空気を送り込むのが人工呼吸器です。顔につけるのは、鼻マスク、口鼻マスク、顔マスク、マウスピースとさまざまな種類があります。のどに穴を開ける気管切開などに比べて、家族はケアがしやすいと言われています。
○気管切開呼吸困難を救う目的で、のどの気管に穴をあけて、カニューレというやわらかな中空の管を差し込み、新たな気道を作成し、呼吸が楽にできるようにするものです。気管切開をした上で、人工呼吸器を使う場合もあります。
気管切開をする理由は主に3つあります。
1.鼻や口からのどまでが、何らかの理由でふさがれたり、狭くなってしまっている。
2.唾液や痰や食物などの気管にたまった残留物を楽に除去する。
3.呼吸不全に対して、酸素投与や人工呼吸を有効に行うために、上気道を避けて、直接気管から換気し、呼吸の負担を軽くする。
本人は呼吸がしやすくなり、痰に苦しむことも少なくなり、家族は痰の吸引に要する時間と労力を少なくすることができるなど、生活の質を高めるメリットは大きいのですが、手術自体にリスクがあり、発声が不可能になったり、嚥下障害が悪化したり、食べ物の味がわからなくなるなどのケースもあり、デメリットも考える必要があります。
○経鼻エアウェイ
鼻からのどまでやわらかいチューブを挿入して空気の通り道を作ります。主に睡眠時に使用することが多く、呼吸障害の改善や睡眠の安定化がはかれます。これによって、気管切開をしなくてすむケースもあります。
○痰の吸引
飲み込む力が弱い障害児は、のどに唾液や痰がたまっても飲み込むことができずに詰まらせてしまうことがあります。そうすると呼吸困難になる恐れがあるので、電動吸引機で頻繁に取り出す必要があります。吸引するためのチューブは、鼻や口から注入します。気管切開している場合は、のどの気管カニューレに注入します。
命にかかわることなので、24時間休むことはできません。深夜も含めて、多い時には一日100回にも及んだり、子どもの体調が悪いと5分おきに吸引が必要になることもあり、家族の慢性的な睡眠不足の原因のひとつとなっています。
■栄養管理に関する医療的ケア |
嚥下機能の弱くなっている子どもは、食べ物を飲み込むことができないので、食事を口から取ることができません。そこで、チューブを使って、栄養を直接胃に注ぎ込む経管栄養という方法を取ります。口から取る食事に比べて、準備に手間がかかり、器具の洗浄や消毒も必要で、呼吸管理同様に保護者には大きな負担がかかります。
○経鼻栄養
鼻からチューブを入れて、胃まで届くようにします。いったん挿入したチューブは位置がずれないように顔にテープで貼り付けます。
○胃ろう
手術によってお腹と胃に穴を開け、胃ろうカテーテルを付けて、食事の際にそこから栄養を注入します。
○口腔ネラトン法
食事のときだけに口からチューブを入れるやり方です。つねに顔にチューブを張り付けておく必要がないので、見た目の違和感は軽減されます。
○中心静脈栄養法
中心静脈という心臓近くの太い血管の中に設置したカテーテルから、輸液を点滴し、生命維持や成長に必要なエネルギー、各種栄養素を補給します。
■排泄に関する医療的ケア |
○導尿補助
膀胱に指令を出す脊髄などの神経系に障害があり、尿の排出がうまくできない子どものために、尿道からカテーテルを入れ、尿の排出を補助します。
この他にも服薬のケアやインスリン注射、人工透析、排便管理など、さまざまな医療的ケアがあります。素人でも簡単にできるものから、技術を要するものまでありますし、随時行うものや一定時間ごとに行うものもあります。
“医療的ケア“という言葉は教育現場から生まれた |
もともと「医療的ケア」という言葉が、使われ始めたのは医療現場ではなく、教育現場でした。1990年1月24日大阪の茨木養護学校の松本嘉一校長が、全国肢体不自由養護学校会で使用したのが最初だと言われています。当時、自宅では、家族以外の介護者や支援者がひそかに生活援助としての医療行為を行っている実態がありました。しかし、教員は公務員ですから法律を厳格に順守する立場にあります。法的に医療者や家族にしか許されていない医療行為を勝手に行うわけにはいきません。その一方で学校現場で子どもの安全や健康が損なわれる事態があれば、それを防ぐという教育者としての職務もあります。また、保護者がいなければ教育を受けられないというのは、子どもの教育を受ける権利の侵害にもなります。その板挟みの中で、生み出されたのが「医療的ケア」という概念です。生活援助の側面を強調し、純粋な医療行為とは分けようという考え方です。
現在では、教育の現場でも福祉の現場でも、この概念が使われていて、法改正によって簡単な研修を受けた介護者や教員にも医療的ケアの一部は許されるようになりました。しかし、医療的ケア児の生活にはまだまだ制約があり、家族の負担が十分に解消されるまでには至っていません。
※参照:『「医療的ケア」はじめの一歩』≪クリエイツかもがわ≫
『医療的ケア研修テキスト』≪クリエイツかもがわ≫
木下 真
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