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医療的ケア児 第1回 見過ごされてきた子どもたち

2016年06月21日(火)

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医療的ケア児 第1回 見過ごされてきた子どもたち
▼ 障害のある子どもの状態像が多様化
▼ 制度の谷間で保護者は疎外感
▼ NICU退院後の支えが課題


第2回ブログ : 第2回 「医療的ケア」とは何か

  

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NHK『ハートネットTV』では、2016年の4月に放送した「シリーズ 変わる障害者福祉」という番組で「医療的ケア児」について取り上げました。番組放送後の6月3日に公布された改正障害者総合支援法には、「保健、医療、福祉などが連携し、必要な措置を講じるように」と、この医療的ケア児への支援が初めて盛り込まれました。医療的対応が必要な障害のある子どもたちは、いままでもいたはずですが、なぜいま一部の子どもたちのことが医療的ケア児という言い方で注目されるようになったのでしょうか。

 

  障害のある子どもの状態像が多様化


かつては生まれたばかりの赤ちゃんはたとえ病気や障害があっても、大人のように積極的に手術や治療は行わず、本人の生きる力による回復を見守るだけでした。しかし、1970年代後半から、医療技術の飛躍的進歩とNICU(新生児集中治療室)の整備などにより、生まれたばかりの赤ちゃんであっても手術や治療が可能になり、日本では、現在「新生児で亡くなる赤ちゃんは1000人に1人未満」にまで減りました。新生児死亡率の低さは世界トップクラスです。たとえ1000キログラム以下の超低出生体重児であっても、仮死状態で生まれてきても、健やかに成長できるケースが増えてきました。しかし、そのように医療環境が整う一方で、たとえ救命には成功しても、重い障害をともなって生きる子どもも増えることになりました。

代表的なのは、重度の知的障害と肢体不自由を重複する「重症心身障害児」です。先天的だったり、出生時のトラブルで脳の機能に障害が残り、歩くことや話すことができず(いわば“寝たきり”に近い状態)、恒常的に生活介助を必要とします。きわめて重度の障害児ということで、他の障害児よりも支援の面で優遇されています。

さらに、その中には、呼吸管理、栄養管理、排泄管理が必要な子どもたちもいます。そのような高度な医療的ケアを継続的に必要とする子どもたちは、生活介助がいっそう手厚く求められることから「超重症児・準超重症児」と呼ばれています。

医療的ケアはもともと「超重症児・準超重症児」の問題として浮かび上がってきたことから、長年重症心身障害児のイメージと結びつけられてきました。しかし、近年重症心身障害児の範疇には入らなくても、医療的ケアを受けながら成長している子どもたちがいることが認識されてきました。それが「医療的ケア児」です。

高度な医療的ケアを継続的に受けていて、ほとんど重症心身障害児と変わらない状態像であっても、知的障害が軽度だったり、身体移動ができれば、重症心身障害児とは判定されないケースがあります。また、例えば、気管切開や経管栄養などの医療的ケアを受けていても、部屋の中を歩き回ったり、絵本を読んだりできるような健常児とほとんど変わらない状態像を示す子どもたちもいます。

従来の障害福祉サービスが重症心身障害者を基準としていたために、そのような「医療的ケア児」は支援から取り残されてきたことがわかってきました。障害の程度が重症心身障害者よりも比較的軽いと言っても、家族のケアは24時間欠かせず、保護者には過剰な負担が課せられます。しかし、それを支えるための態勢が十分整っていないばかりか、存在さえも認識されてこなかったのです。


  制度の谷間で保護者は疎外感

 

行政や福祉関係者の認知度さえ低いと、NHKの番組のカキコミ版には、保護者からのこんな悲痛な思いが書き込まれました。

 

「障害児じゃないけど健常児でもない。医療ケア児というグレーゾーンにすっぽり挟まって、まるで居ない者扱いを受けているようで、毎日泣いていました。一般の場に受け入れが難しいのはよくわかります。補助も貰えないのも、いまの国の財政等考えると仕方ないとも思います。ただ、もう少しだけ柔軟に、前向きに医療ケア児について考えて貰いたいです」(静岡県 30代 母親)



 

 

「医療的ケアが必要な子は確かに少数かもしれませんが、地域で見守れるような施策を行政に求めます。問題は逼迫しています。一日の猶予もありません。24時間365日がんばっている親が沢山います。この声はいつ届くのでしょうか」(青森県 40代 親であり支援者)



 

 

「医療的ケアを理由に、普通の子どもや障害児が当然に利用できる施設やサービスを断られることが続き、“私たち親子は、いつも除け者にされる、社会の除け者なんだ”と感じるようになりました。もっと普通に、社会の中で生きていく選択肢が欲しいです。子どもも親も、社会に参加させてほしいです」(東京都 30代 母親)



 


 

  NICU退院後の支えが課題


20160621_003.jpg※文部科学省「平成27 年度特別支援学校等の医療的ケアに関する調査」

高齢出産や不妊治療の影響で、早産で生まれNICUで長期間治療を受けてから退院する子どもは年々増えています。医療的ケアを必要とする子どもの約9割はそのような子どもたちで、障害の程度は超重度の子どもから健常児に近い子どもまで千差万別です。そして、その7割近くは在宅で暮らしています。

地域で使える障害児のための医療的資源も社会的資源も決して多くはありません。子ども病院の多くはつねに満床状態で、通所施設はフルに予約が埋まっています。どのように医療的な対応の必要なさまざまな子どもたちとその家族を支えていくのか、早急に環境を整えていく必要があります。

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木下 真

 

 

 

▼関連番組
 ▽NEXT 未来のために
    「“医療的ケア児” 見過ごされた子どもたちを救え
    本放送:6月25日(土)夕方5時30分
  再放送 28日(火)午前1時30分[月曜深夜]

 ▽『ハートネットTV』
  シリーズ 変わる障害者福祉

  「第1回 “医療的ケア児”見過ごされた子どもたち」(2016年4月5日放送)


▼連載ブログ
 
【医療的ケア児】  第1回 見過ごされてきた子どもたち

 【医療的ケア児】  第2回  「医療的ケア」とは何か
 【医療的ケア児】  第3回 課題はどこにあるのか~カキコミ板から~
 【医療的ケア児】  第4回 社会で見守り、支えるために

コメント

医療的ケア児が学校に通えない現状の一端について知ることができました。在宅でのケアも大変な上に、学習についても、保護者の方が見なければならないこと、どうにかならないものかと感じております。
私は、教員をしておりますが、医療的ケアが必要な児童が通学しています。看護師の方が、必ず付き添う形で行えています。医療的ケアが必要である以外現状にと変わりません。行政から看護師が派遣される恵まれた地域だからと言えると思います。
さて、医療的ケアと同時に障害(程度や障害のある部位にもよりますが)がある児童が必ずしも通常級に通うことがいいのかについては疑問があります。学校は、教育の場です。今という瞬間を生きるために必要なことも学ぶし、将来役立たせるために学んでいるとも言えます。その子に合った教育というものがあるため、特別支援の学校や養護学校があるのだと思います。
番組では、通常級に入れたい、社会もそうあってほしいというメッセージだと私は受けとりましたが、本当に、それで、その子が将来一人で生きていくスキルを身に付けられるのか疑問です。特別支援を受けられる学校に行くことで、その子供の可能性をもっと広げられるかもしれないのに、通常級に行くことで、ケアが回らず、身につけることができないことも多くあるのではと感じています。私の教員の実体験から感じたことです。
番組を作られる際に、教員の側の視点もぜひ入れてもらえたら、もっと社会としてみんなで考えていけるのではと思い、投稿させていただきました。

投稿:トーマス 2017年05月04日(木曜日) 07時01分