いじめを乗り越え、難病と闘い、自宅警備アイドルしてまっす! 後編
2016年01月15日(金)
- 投稿者:web担当
- カテゴリ:Connect-“多様性”の現場から
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WebライターのKです。
自宅で母親の介助を受けながらのベッド生活が始まりました。不安と孤独にさいなまれる日々でした。手の自由も利かなくなったので、もう自分の思いをノートに綴ることもできなくなりました。それまで書き溜めていたノートは家族に見られないように廃棄してしまいました。唯一心を癒してくれたのは、ミュージシャンたちがネットを通じて発信する動画やブログの書き込みを眺めることでした。
そんなお気に入りのミュージシャンの一人に悠々ホルンさんがいました。ホルンさんは家庭環境の影響で心を閉ざしていた少年時代の思いを歌にして発信し、心の居場所を求める全国の10代の少女などからひそかに支持されるアーティストでした。くれあさんは、過去のいじめや難病のことなどを包み隠さず明かすメールを送りました。そして、ホルンさんから「嫌いな自分を好きになること」の大切さを学んでいきました。
悠々ホルンさんは、若者たちの代弁者として、講演活動もしています。
「ダメな自分や嫌いな自分を捨て去って、自分を生まれ変わらせるんだ」。その思いがかえって自分を苦しめていることに気づきました。いじめられた過去をみじめだと思うのではなく、いじめに耐えた自分を愛おしいと思えるようになっていきました。難病に侵された自分に絶望するのではなく、「懸命に生きようとしている自分はかっこいい」と思えるようになっていきました。自己嫌悪から少しずつ解放され、閉じた心に光が差し始めました。
ある日、くれあさんは、看護師さんに「アイドルになりたい」という夢の話をしました。すると、「アイドルは雲の上の人。あなたの手が届かない別世界にいる人たちなの。大体、車いすの歌手や病人のアイドルなんていないでしょう。バカなこと考えてないで、治療に専念しなさい」と諭されてしまいました。でも、くれあさんはあきらめようとは思いませんでした。「すべてを失った上に、夢まで取り上げられるのなんていやだ」と反発しました。
くれあさんは、ネット検索しているうちに、進行性脊髄性筋委縮症でありながら、車いすの歌手として活動する朝霧裕(あさぎり・ゆう)さんや言語障害と肢体不自由がありながらライブ活動を行っている天羽柚月(あまは・ゆずき)さんを見つけ出します。こんなかっこいいお姉さんたちが、世の中にはいるのだとうれしくなり、すぐにメールを出しました。2人は「ネットの世界から飛び出しておいで」と、ライブにゲスト出演させてくれました。そのときは本名の野口希で出演しましたが、それが櫻葉来空のデビューとなりました。
2014年2月「LIVE☆いす女子会」にゲスト出演。左から櫻葉来空さん、天羽柚月さん、朝霧裕さん
2015年3月、あこがれの「モーニング娘。‘15」のみなさんと。前列右は元総理夫人の細川佳代子さん。「あなたは発信する人」と言ってもらえました。
2015年12月、ネットで見つけたお気に入りの自主アイドルグループ「Bittersweet」を
新宿のライブハウスに招いて共演
書くことが好きなくれあさんは、ネットでの発信を毎日のように続けています。すると、音楽仲間やファンがどんどん増えて、応援メールが寄せられるようになりました。難病と闘う日々ですが、くれあさんのネットの書き込みには、そんな悲壮感は見られず、前向きなコメントとユーモラスな表現があふれています。ときには、辛い気持ちを赤裸々に綴りますが、それも同じような境遇の仲間へのエールのように思えます。
あるとき母親が部屋を整理していると、1冊のノートが出てきました。すべて廃棄したとばかり思っていた思い出のノートが1冊だけ残っていたのです。最初のページにはネット動画で見たericaというシンガーソングライターの作った歌詞が書かれていました。くれあさんは懐かしくなって、すぐにネットでその名前を検索してみました。すると、ericaさんは、10代の少女たちに圧倒的に支持される再生回数250万回というとんでもない人気歌手になっていました。
くれあさんはすぐにメールを出しました。ericaさんが路上ライブをしていた無名の頃から好きだったこと、自分は原因不明の難病でベッドでの生活しかできないこと、ericaさんが夢をかなえたことで勇気をもらったことを書き綴りました。すると、後日、「ericaさんが会いたがっている」とマネージャーから連絡が入りました。
ericaさんは自宅のそばのカラオケボックスに来てくれました。そして「友達になろう」と言ってくれました。くれあさんが書き写した「恋空」という懐かしい歌を2人で熱唱しました。くれあさんは感極まって涙が止まりませんでした。そして、ericaさんも、くれあさんの姿に涙しました。
ericaさんとカラオケボックスでのツーショット
くれあさんのノートは、過酷ないじめの日々に書かれたものでした。いい思い出はなかったはずでした。だからすべてを廃棄したつもりでした。でも、偶然残った1冊のノートが、くれあさんに新たな出会いをもたらしてくれました。ノートには辛かったことだけではなく、家族への感謝の気持ちや先輩への恋心も記していました。誰にも見せなかったノートですが、やっと友達と呼べる人に読んでもらうことができました。「時空を超えたミラクルな出会いだ!」とくれあさんは笑います。
ericaさんにもらったサイン入りのCD
くれあさんの宝物です。
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