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アバターが通うバーチャルスクールの試み

2016年01月13日(水)

WebライターのKです。

ネット上の分身であるアバターが身代わりとなって学校に通うバーチャルスクール。そんなネットゲームのような感覚の新しいスタイルの通信制高校が誕生しました。千葉市の明聖高等学校は、通信制高校の新たなコースとして「サイバー学習国」というWebコースを新設し、今年度から生徒を募集しています。 



meisei_001_R.JPG教室では教師やクラスメートとチャットでやりとりします。


自宅で学習していても、定められた登校日に出席し、必要な単位を修得しさえすれば、卒業資格が得られる通信制高校は、集団生活を苦手とする不登校の児童生徒にとっての有力な進学先です。現在、全国の通信制高校の生徒の6割は不登校経験者です。通信制高校では、インターネット授業、CD収録授業、NHKテレビ・ラジオの高校生講座などが正規の授業として認められていて、多様な学習方法が採用されています。



meisei_002_R.JPGスマホも利用できるので、どこでもいつでも授業に参加できます。


しかし、そんな自由な形態の通信制高校にさえ通いきれずに、ドロップアウトしてしまう生徒もいます。「再度挫折したことで自己嫌悪に陥り、自宅で引きこもり状態になっているものもいます。それでも本音では勉強をやり直したいし、友達も作りたいと思っているのです。それでネットとゲームに活路を見出すことにしました」と校長の花澤悟史さんはWebコース新設の背景を語ります。そして、「子どもの頃から双方向の世界に慣れたいまの子どもたちを満足させるには、教える側の大人の感覚で作られたコンテンツだけでは限界がある」と感じ、若いスタッフとともに開発したのがアバターによるバーチャルスクールです。

 

 

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左から事務局の野崎ひかるさん、Webコース主任の下田将樹さん、校長の花澤悟史さん


システムを作るにあたっては当事者である通信制高校に通う高校生たちの意見も取り入れました。アバターのパーツは400以上。髪型、目、鼻、口などの顔パーツや服装・アクセサリーなどを選択し、自分なりの個性あるアバターを作ることができます。アバターには「喜ぶ」「泣く」「怒る」「おじぎする」などのモーションも加え、チャットに表情を与えられるようにしました。

校内には、動画授業を受ける教室だけではなく、相談ができる職員室や進路指導室、電子書籍やデジタル教科書を利用できる図書室、友達と憩える校舎前広場もあります。購買部では、学習が進むことで加算される学習ポイントを使って、アバターのパーツやモーションを購入することもできます。 



meisei_004_R.JPGバーチャル上で教師に進路の相談をすることもできます。


「このようにゲーム感覚を取り入れることに対して、ネット依存を助長させるだけではないのかという批判は当然あると思います。しかし、ネットやゲームはすでに子どもたちに定着しています。それを遊びやエンタテインメントだけに使うのではなく、もっと学習などに活用していけばいいのだと考えています」と校長の花澤さん。今回のシステムを作る際にモデルとしたものはありませんでしたが、2010年頃からアメリカで注目されるようになった「ゲーミフィケーション(=学習のゲーム化)」という考え方は参考にしました。

今年新入生を迎えて初めてのスクーリング(リアルな授業)が行われましたが、集団が苦手だという子どもたちが、ふだんチャットでやり取りしているクラスメートとアドレスを交換し合ったりと、オフ会のような盛り上がりを見せました。「もっと無気力な反応になるのでは」と心配していた学校スタッフも意外だったと驚いています。バーチャルな世界でできた人間関係がリアルな世界の人間関係にも反映されているようです。小学校5年生のときから5年間引きこもりを続けてきたという新入生は、登校日に学校にやってきた理由を「動画授業に出てくる先生に直接会いたくなったから」と語ったそうです。

 


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千葉市内にある明聖高等学校の玄関フロア
Webコースとは異なり、ふつうの全日制の高校と同じように週5日制の全日コースもあります。


現在、Webコースを受講する学生数は259人。その7割が不登校経験者や中退経験者です。残りの3割は、昔できなかった勉強をやり直したいという主婦や仕事の合間の時間を使って高校卒業の資格を取りたいという中高年の男性などです。中には、スポーツの練習に多くの時間を割きたいので、Webコースをあえて選んだという高校生もいます。

「バーチャルスクールは始まったばかりなので、まだ評価を下せる段階にはない」と校長の花澤さんは正直に語りますが、子どもたちが意欲を見せていることには手ごたえを感じています。バーチャルスクールは、リアルな学校と違ってシステムの変更が容易なだけに、生徒が参加意識をもって、学校をどんどん自分たちの使い勝手のいいものに作り替えていくことに、花澤さんは期待しています。


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