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美大生と障害者がアートで地域を変えていく 前編

2016年01月04日(月)

WebライターのKです。

WebライターKの地元、東京都の西武線小平駅前。意味不明の「ケヤコレ」という大きな文字と派手な衣装をまとってポージングする障害者のおしゃれなポスターを見て、思わず足を止めました。すぐ隣には「異才たちのアート展2015」の文字が。障害者週間にちなんだイベント(12月1日~18日)に地元の武蔵野美術大学の学生たちが関わったのだとわかり、さっそく取材を申し込みました。

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西武線小平駅前のルネセブン商店街で偶然見かけたポスター

 

まず取材に応じていただいたのは、学生の指導に当たっている武蔵野美術大学・視覚伝達デザイン学科教授の齋藤啓子さんです。


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齋藤啓子さん(キャンパス内の作品展示室にて)


「表現するって誰にとっても楽しいでしょう。だから地域づくりに役立つのだと思うのです。芸術ってアーティストと鑑賞者のためだけにあるものではないのです」と齊藤さん。デザインの可能性を作品づくりだけではなく、人と人との間に新たなつながりを生んだり、地域にうねりを起こすような「関係のデザイン」や「意識の変革」にまで広げたいと考えています。アートやデザインを生かした地域づくりは齋藤さんの長年の大きなテーマのひとつ。5年前からは障害者週間にちなんだイベントでの共同作業を3年生の授業の単位に組み込むようになりました。

今年イベントに参画した3年生は11人。関わったのは障害者週間にちなんだ3つのイベント「異才たちのアート展2015」「けやき青年教室」「みんなでつくる音楽祭」です。

「異才たちのアート展」は障害者週間に合わせて、小平市内の作業所の障害者の作品を中央公民館の通路や駅前商店街の店頭などに展示します。

「けやき青年教室」というのは、軽度の知的障害のある青年を対象とした仲間づくりの場です。今年学生たちは創作衣装をつくるワークショップを行い、そのお披露目のファッションショーを「けやきコレクション=ケヤコレ」と名づけ、中央公民館の内部を練り歩きました。駅前に張られていた「ケヤコレ」のポスターは、そのワークショップの参加者たちの雄姿でした。

「みんなでつくる音楽祭」は音楽のジャンルも、障害の有無も、世代も超えて、「心のバリアフリー」を実現するための市民による手づくりの音楽祭です。今年は2000人が参加しました。

美大生たちは、この3つのイベントをアピールするためのポスターやカタログやパンフレットの制作を担当しました。色彩やロゴマークに一貫性をもたせることで、個々に行われていたイベントに統一感を与えました。


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学内の作品展示室に飾られた「ケヤコレ」の活動記録
衣装の素材はお米屋さんに集めてもらった分厚いコメ袋です。

 

 

イベントに先立って、学生たちは市内で知的障害者に対する意識調査を行いました。すると、「かかわるのが大変そう」「縁遠い存在」などとほとんどがマイナスイメージ。そして、学内の大学生たちの多くが作業所の存在そのものを知らないこともわかりました。今回の参画メンバーも障害者と接するのは初めての経験でした。


「自分たちは何も知らない。知らないことがマイナスイメージを生んでいる。だったら、知ればいいじゃん!」。メンバーは話し合いの末、シンプルな結論に達しました。

学生たちは市内8か所ある作業所との交流を始めます。作業所の遠足に参加したり、作業所の利用者を大学の授業に招くこともありました。「あんまり気を使わなくてもいいんだ」。「接しやすい人がいっぱいいる」。「ふつうに一緒にやっていける人たちだ」。勝手に築かれていた“心のバリア”はたちまち解消していきました。接してみればすぐに明らかになる事実を、もっと多くの人たちに知ってもらいたいと、アート展の発信力を増すためにみんなで知恵を絞りました。


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障害者のアート展に参画した視覚伝達デザイン学科の3年生 

 


「社会には多様な人たちがいることを知ったこと。それが学生たちにとっては何よりの体験であり、一番の収穫だったと思います」と指導教授の齊藤さん。「そして、そういう気づきを個人の中で終わらせないで、表現の力で地域へと広げていってほしいと思います。デザインの仕事はふつう黒子的な役割で、表立って評価されることは少ないのですが、今回学生たちは自分たちが社会に必要とされる存在だとはっきり意識できたのではないでしょうか」


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出展者に大変評判のいいアート展のカタログを見せてくれた
学生メンバーの木元恵美さん(左)と海宝法子(右)さん

 

 

学生のひとりの海宝法子さんは、「めちゃ楽しかったです!普通なら接点のない作業所の人たちと知り合えて、公民館の人、商店街の人、町のボランティアの人たちとも一緒に作業ができました。学生である自分たちにこんなに主導権をもたせてもらえると思わなかった」と振り返ります。

刺激を受けたのは学生だけではありませんでした。作業所の障害者の方たちも、美大生たちが加わるようになったことで、アート展への思い入れが強くなっていきました。以前は自分の作品が出展されているにもかかわらず、展覧会場を訪れることがないという人さえもいました。しかし、いまでは自分の作品と顔写真がカタログに掲載されるのを楽しみにしていて、展覧会にも積極的に足を運ぶようになりました。

アートは言葉よりも、より多く人にアピールしやすい情報伝達ツールです。絵画、グラフィックデザイン、イラスト、マンガ、映像など、さまざまなメディアに精通した美大生たちが加わることで、障害の有無や世代の違いを超えて、広く地域の人々の関心を集めるようになってきました。それまで内輪の関係者だけで地道に続けていた障害者のアート展が、実は「地域の大切な宝物」だったと、みんなが再認識を始めています。


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小平市中央公民館・事業担当主事の伊藤隆志さん。武蔵野美術大学で空間演出デザインを学んだ卒業生です。美大との連携によって、これまでバラバラに行われていた障害者週間の複数のイベントのトータルコーディネートができるようになったと学生たちに感謝しています。



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市民ボランティアの人たちも加わっての記念撮影



ブログ後編では、「障害者週間のつどい実行委員長」を12年間務めている「あさやけ風の作業所」で働く柳原昭三さんの思いを紹介します。

 

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