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難病の診断が適切にできるネットワークを構築したい 後編

2015年11月17日(火)

WebライターのKです。

11月7日に東京浅草橋で開催された「難病・慢性疾患フォーラム2015」で出会ったもうひとりの難病患者の香取久之さんをご紹介します。香取さんはNPO法人「希少難病ネットつながる」の理事長で、フォーラムには聴衆として参加していました。


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香取久之さん


香取さんの病気は、「アイザックス症候群」。しかし、これは確定診断ではなく「疑い」です。症状からは、明らかに「アイザックス症候群」という診断になるそうですが、世界的にもきわめてまれな難病のために診断基準が明確ではなく、医学データー的に診断を確定することが難しいため、「疑い」の段階にとどめられています。さらに、香取さんの症状は複雑で、「アイザックス症候群」として報告されていない症状もあることから、筋痛性脳脊髄炎(慢性疲労症候群)など4つの難病の「疑い」も追加されています。

 

香取さんの病気は、全身の筋肉がぴくついたり、けいれんしたり、硬直したりする状態になり、ねんざや打ち身のような鈍い痛み、風邪をひいたときの関節痛のようなだるい痛み、足裏からの差し込むような痛み、皮膚をやけどしたようなピリピリしびれる痛みなど、さまざまな種類の痛みや極度の疲労感に24時間365日全身をさいなまれ続ける、きわめてやっかいな病気です。取材の最中も、急に閉じた左手が開かなくなって、「きた!こうなるんです!」と言って、顔をゆがめながら、右手で指をはがすように開いていました。
 
初めて香取さんが病気を発症したのは、17歳のときでした。ある日腰に激痛が走り、体中の筋肉がけいれんするなどの異常な感覚が生じました。家族に相談しましたが、建設会社で働く厳格な父親には、「気合が足りない!」と一言あびせられ、相手にもしてもらえませんでした。そして、いくつもの病院を受診しても、医者たちは首を傾げるばかりで、検査では異常は発見されず、「気のせいでは」と言われ、しつこく食い下がると、精神科に回されることもありました。

第三者が症状を聞く限りは、「とてもふつうの生活を送るのは難しいのでは」と思いますが、香取さんは大学卒業後、長年大手製薬会社で働いてきました。体の痛みとたたかいながらの就業でしたが、トップクラスの営業成績を誇る熱血社員だったと言います。あまりの痛みに耐えられないときは、その日車の運転がないことを確かめ、出社前に、ひそかにカンチューハイをあおって会社に向かうこともありました。営業の最前線で働くMRとして、病院回りの日々も経験し、医薬品の効能や副作用に習熟し、医療機関にも精通しました。それでも病気の手がかりは、長年得られませんでした。

しかし、2004年、発症から17年経った34歳のときに、東京医科歯科大学・神経内科の水澤英洋医師の診察を受け、ついに病名を告げられることになります。「アイザックス症候群で間違いありません」。根本的な治療法のない希少難病であることを知らされましたが、「俺の病気にも病名があったんだ・・・・」と、正直ほっとした気持ちになったと言います。ネットで検索すると、SNS上に「アイザックス症候群」のコミュニティーがあることもわかり、一人ぼっちの日々に終わりを告げました。

香取さんは、診断が下るまでの17年間、当事者として、医者にさえ症状を理解されない孤独感、病名が決まらないための不便さや苦しさを味わってきました。そして製薬会社の第一線で働いていたことで、病院や製薬会社の表も裏も知ることとなり、行政の医療制度についても精通することになりました。自分たち難病患者を取り巻く社会環境にはどんな課題があるのか、その課題を解決するには何をなすべきなのか、徐々に全体像が見えてきたと言います。

2013年、香取さんはそれまで勤めていた大手製薬会社を思い切って退社し、希少難病者のためのNPO法人「希少難病ネットつながる」を設立しました。そして、患者や家族同士がつながるとともに、患者と病院のミスマッチを防ぐデータベース構築のための難病・障害当事者専用SNS「RD-Oasis」を立ち上げました。香取さんは、かつて「神経内科」を受診すべきところを「整形外科」を受診して、遠回りをしてしまった経験から、同じ病名や病態の患者が、どの病院の何科を受診しているのかを知る重要性を痛感しています。そこで、さまざまな難病患者の書き込みが増えれば増えるほど有効性が高まるデータベースを思いつきました。


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NPO法人「希少難病ネットつながる」のロゴマーク。違った彩りの輪がいくつもつながってダイナミックにうねっていくイメージを表しています。


「自分もそうですが、何十か所も病院を回って、“わからない”“見たことがない”“気のせいでは”をやり続けられると、“どうでもいいや”という気になってくるんです。的外れな治療で病気が悪化したことに気づくと、みじめで死にたくなったりします。でも、孤立してはダメなのです。そして同じ病気の仲間で集まっているだけでも十分ではないのです。違いを超えてつながる。それが未来に希望をもって生きるための手立てになるのだと思います」

難病治療の現場にもっとも欠けているのは「患者に関する情報」だと言います。医療の現場にも、治療薬の開発の現場にも、当事者が発する声を流通させていくことが、何よりも重要だと香取さんは訴えます。


【前半ブログはこちらから】難病の診断が適切にできるネットワークを構築したい 前編
 

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 海外の患者と手をつなぎ、希少難病に立ち向かう 前編
 海外の患者と手をつなぎ、希少難病に立ち向かう 後篇
 日本の「難病対策」どうなっている?~前編・医療費助成~
 どうなっている?難病対策~後編・福祉政策~
 

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 2014年  2月10日 シリーズ 難病と向き合う 第1回 どう支える 難病医療
 2014年  2月11日 シリーズ 難病と向き合う 第2回 難病でも 働きたい
 2014年11月27日 WEB連動企画“チエノバ” ―今日は「難病」を中心に―

コメント

私も2年間手足の痺れに悩んだのち、昨日アイザックス症にほぼ間違いないとの診断を受けました。他の大学病院で時間を使いましたが、やっと病名がわかりスッキリしました。

投稿:Momo 2017年11月30日(木曜日) 13時56分

アイザックス病を診察できる医師がいるかは不明ですが
東京の医科歯科大学 医学部病院は
受診してみる価値があると思います。

御存知だとは思いますが、糖尿病には1型と2型があります。
ステロイドや、バセドウ病などによって2次的に発症する2型の糖尿病もありますね。
しかし、その他にも様々な発症要因があります。
脳のミトコンドリアの異常を起因として発症する糖尿病や、原因が不明なものの場合もあるのです。

私は1型と、それに伴う高次脳機能障害に準ずる後遺症と、眼球使用困難症(視神経の異常。眼科では判明しない。視神経の判断、明暗が激痛と共に切り替わり、痛みと共に絶えず継続。)などを患っている人間です。

1型患者の仲間で、ミトコンドリアが原因の患者さんは 何件も病院を回り、誤った治療を受けて悪化した末に、医科歯科大学病院でようやく原因となるミトコンドリアの異常が見つかりました。

また、もう1人の難しい1型患者の仲間は北海道にいます。
病院は旭川だったかな…。
その人は原因が不明というか…
本当にインスリンが効かない、焼け石に水の状態の…それが保たれる辛い状況の人です。
原因はわかりませんが、手を尽くしても入院中でもアシドーシスの状況が頻発・継続しますから、入院しながら手当てを受けています。

首都圏にお住まいなら、ミトコンドリア脳症の判明や、この記事の冒頭の女性の診断もついた、お茶の水の医科歯科大学病院を試すのは手かもしれません。

北海道の患者さんの入院する旭川は
原因は不明なままですが
受け入れと対処は行えるようですね。
(しかし・・ 効果がないので、これを対応能力があるとみて良いのかどうかはわかりませんが、酷い病院だと栄養点滴さえ断ったりしますから、まぁ… 認めにくいですが、対処はできると、受け入れるという点で及第点でしょうか・・・・。)

投稿:スマトリプタン 2017年11月06日(月曜日) 07時06分

初めまして。
私は東京都江戸川区在住で、糖尿病の治療をしている医療機関の糖尿病の主治医及びその医療機関の神経内科の医師達と、かかりつけのクリニック2箇所の医師にアイザックス症候群を疑われています。
テグレトール、芍薬甘草湯、ミオナールで手足を動かしやすくなること、発汗過多、四肢の痛みという症状から、間違いはないとの事です。

そして、その医療機関では診断と治療の実績がない為、実績のある医療機関(香取さんが診断をうけた医療機関)で診断をして貰う為に紹介されましたが、薬を食後から食前に変えたら痙攣が3回のみになり、先生に見せる事も撮影もできません。
結局、その紹介先の医師からも精神疾患をうたがわれ、逆紹介されてしまいました。
精神科は一昨年と去年に2度受診しており、精神疾患は否定されているのに。

その、糖尿病の治療をしている医療機関の神経内科では『そこで痙攣はおきない』と言っても『決まりだから』と、痙攣がおこらない場所に筋電図を刺され、診断がつくとは思いません。


勿論、リンゴの会のサイトを拝見もしましたが、Facebookに登録しなければ皆様とチャットをする事は不可能でした。

進行する時の血糖値の変動、たまにくるトラムセットやアセトアミノフェンでもなんともならない激しい腕の痛み、1/5倍速でしか歩けない事、携帯電話を1分34秒しか片手で持てない事は社会生活でとても困るので、東京都内に5名いらっしゃるアイザックス症候群の患者の方々が診断を受けた医療機関を知りたいのですが、リンゴの会登録以外で何かいい方法はありませんか?

本当に困っているので、ご回答を宜しくお願いいたします。

投稿:チカ 2017年10月03日(火曜日) 07時33分