本文へジャンプ

「特別養子縁組」で子どもたちにあたたかい家庭を 後編

2015年04月21日(火)

「特別養子縁組」で子どもたちにあたたかい家庭を 前編
「特別養子縁組」で子どもたちにあたたかい家庭を 中編、はこちらから。

WebライターのKです。

後編では、4月5日の養親を希望する親たちへの説明会の報告を続けます。
「特別養子縁組」が必要な理由は、子どもの虐待の予防や“予期せぬ妊娠”をした母親の救済、また、その結果生まれてくる命が直面する困難を防ぐためいう視点からも語らました。熊本県慈恵病院の元看護部長・相談役の田尻由貴子さんは、前日に続いて登壇され、子どもを手放さざるを得ない母親の実態について紹介しました。そして、行き場のない赤ちゃんを預かる「こうのとりのゆりかご」の意義と「特別養子縁組」との連携の重要性について訴えました。

20150421_001_R.JPG
 

厚生労働省の発表によれば、平成25年度の日本における子どもの虐待相談件数は年間7万3765件、平成元年から比べると7倍以上となり、いまだに増え続けています。相談件数をそのまま虐待件数と捉えることはできませんが、虐待により乳児院に入所する幼児は3割以上、児童養護施設に入所する子どもは5割以上と、入所の理由が虐待であるケースが確実に増えています。

 

虐待者の6割近くは実母です。虐待死にいたる子どもの年齢は、0歳児がもっとも多く44.0%、3歳児以下になると76.2%になります。この数字には子どもの遺棄も含まれます。乳幼児に対する虐待がもっとも多いということからは、母親たちにとって、産む前から育てられない、育てたくないと思われている赤ちゃんが大勢いることが推測されます。

「こうのとりのゆりかご」は、赤ちゃんを預かるだけではなく、24時間体制で母親たちの電話相談も受け付けています。深夜にせっぱつまった状態で電話をかけてくる女性たちも少なからずいると言います。相談の電話は、熊本県外からが9割を超えます。

20150421_002_R.JPG

「こうのとりのゆりかご」の運営がスタートしたのは2007年です。当初は「赤ちゃんポスト」という名前が独り歩きして、支持する声と同時に多くの批判の声も寄せられました。「責任感のない、だらしのない親に手を貸すことになるのでは」という倫理的な批判もありました。しかし、「こうのとりのゆりかご」の利用者や相談者の内訳を詳しく見ると、行き場がなく苦しんでいるのは、赤ちゃんだけではなく、母親たちもそうであることがわかります。


田尻さんの説明によれば、「こうのとりのゆりかご」に相談を寄せる女性の4割は20代、2割は20歳未満の若い女性です。20歳未満の女性のほとんどは学生で、中学生や高校生も含まれます。
20150421_003_R.JPG

「こうのとりのゆりかご」を利用した理由としては、「未婚」「生活困窮」「世間体・戸籍」「パートナーの問題」「不倫」などです。これらの理由を見ると、出産後に、子育てに負担感が出たので手放したのではなく、年齢が若すぎたり、経済的事情から育てるのが難しかったり、パートナーとの関係に問題があったりなど、もともと予期せぬ妊娠・出産であった事情が垣間見えます。

慈恵病院では、妊娠の段階から女性たちの相談にのることで、子どもの遺棄や虐待死を防ぐ可能性は高まると考えています。そして、そうした“罪”に手を染めることがなければ、母親たちは深い心の傷を負わずに、その後の人生をやり直すこともできるはずです。田尻さんは、相談者には「親身になって寄り添い、責めないこと」が大切だと言います。「いままで救えなかった命を救うこと」というのが、説明会に参加した養子のあっせん団体のスタッフの方たちが強調していたフレーズでしたが、困難を抱えた赤ちゃんがいるということは、その背後に困難を抱えた親がいるということです。その両方を救済する姿勢を持たない限りは、赤ちゃんそのものも救えないということかもしれません。


特別養子縁組によって赤ちゃんを引き受けようと心に決めているという、都内から会場に来ていた40代の女性は、説明会では、田尻さんの話にもっとも感動したと話していました。
「産みの親のことは、どうしても気になりますよね。でも、私たちが子どもを引き取ることで、その母親を救うことにもなるのだと思うとホッとします。田尻さんは“責めない”と言われていましたが、心に響きました。私たちの子どもを身ごもってくれた人ですから、その人にも幸せになってほしいです」


「特別養子縁組」は、1988年に施行された制度で、すでに27年経っていますが、積極的な運用がなされてこなかったこともあって、一般にはあまり知られてはいません。今回の啓発キャンペーンによって、なぜこのような制度が必要なのか、困難を抱える母親たちの事情も含めて、理解が広がっていくことが望まれます。

 

NHKでは、この4月から5月にかけて“赤ちゃん縁組”に関する3本の番組を放送する予定です。

4月25日(土)放送『ETV特集』「小さき命のバトン」
夜11時~11時59分まで【Eテレ:全国放送】

★5月6日(木)放送『NEXT未来へのために』
「命のバトンをあなたへ~“赤ちゃん縁組”の現場から~(仮)」
深夜0時10分~0時39分まで【総合テレビ:全国放送】

5月26(火)放送予定『ハートネットTV』
「”赤ちゃん縁組”を知ってますか?(仮)」
夜8時~8時29分まで【Eテレ:全国放送】



「特別養子縁組」で子どもたちにあたたかい家庭を 前編
「特別養子縁組」で子どもたちにあたたかい家庭を 中編

コメント

※コメントはありません