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「特別養子縁組」で子どもたちにあたたかい家庭を 中編

2015年04月20日(月)

「特別養子縁組」で子どもたちにあたたかい家庭を 前編はこちらから

4月4日の「養子の日」の啓発キャンペーンの一環として、翌日の5日には、東京都千代田区の日本財団ビル・大会議室で、養親となることを希望している夫婦のための説明会が開催されました。「特別養子縁組へのはじめの一歩~あなたを必要しているいのちがある~」というタイトルで、関係機関のスタッフや養子あっせんを行っている団体から、「特別養子縁組」と、その前提となる「家庭養護」の重要性についての詳しい話が伝えられました。

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4月4日のトークショーで、女優のサヘル・ローズさんは孤児院の生活では「満足できない寂しさ」があったという話をしました。保健福祉士の矢満田篤二さんに、そのイベントの終了後に話をうかがったときに、矢満田さんはその寂しさを「えこひいきのない寂しさ」と表現しました。乳児院や児童養護施設で献身的にがんばっている職員の方たちがいることは、今回の啓発キャンペーンを推進する人々も理解しています。その上で、なぜ施設養護ではなく、家庭養護なのでしょうか。
 

 


原則6歳未満の幼児が対象の「特別養子縁組」では、施設を経ないか、短期間で養親家庭に行くことが多いので、施設養護と家庭養護の差はあまりわかりませんが、里親の場合は施設養護から家庭養護へとはっきり環境が変わりますので、その違いは子どもに如実に表れます。

5日の説明会で講演を行ったNPO法人キーアセットの渡邊守さんは、養育里親を支援する団体の代表です。施設養護と家庭養護の違いが象徴的にわかる、こんな事例を紹介しました。

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施設から里親家庭に預けられた子どもが、うれしかったこととして挙げたのが、「今日の夕飯、何が食べたい?」「今晩テレビ、何を見ようか?」とたずねられたことだそうです。

施設では、食事のメニューはみんな共通です。テレビの番組も、自分の見たいものを優先するわけにはいきません。でも、里親は自分にどうしたいかを聞いてくれます。ふつうの家庭で育った人では意識できないような当たり前のことが、施設で育った子どもにはうれしかったりするというのです。

肉じゃがを作るときに、かならず二日分作る里親のお母さんがいます。子どもの好物なので、前日と同じメニューの方が喜ぶことを知っているからです。「朝ごはん、いらない」と言って出ていこうとする子どものポケットに、一口で食べられる小さなおにぎりを差し入れて、「好きな時にお食べ」という里親のお母さんもいます。そんなふうに、“自分に向けられた愛が、つねに当たり前にあること”が、子どもを笑顔に変えるのだと、渡邊さんは言います。


国連の子どもの権利条約では、幼児の社会的養護は家庭養護を優先することを基本と定めています。国連がその考え方の根拠としているものに、「愛着の絆」という児童精神医学の概念があります。イギリスのジョン・ボウルビィという児童精神医学者が、1950年にWHO(世界保健機構)からの要請により行った「孤児たちの精神衛生を向上させるための研究」を通じて理論化した概念です。「幼児は発達の過程で、他の大人とは区別して特定の養育者を意識し、愛着の対象とする。そしてその精神的なつながりは乳幼児期に消え去るのではなく、人間の一生を通して存続し、人格形成を支える核になる」というものです。

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ボウルビィは、「愛着の絆」の形成は新生児には見られず、生後6か月くらいから始まるとしています。後天的に作られるものですから、愛着の対象は、場合によっては実の親である必要はありませんが、養育者が何度も入れ替わるのはよくないと考えられています。また、ボウルビィは、「愛着の絆」は幼児の一方的な求めによって作られるものではなく、相互作用によって生まれるとしています。幼児がある養育者を特別と感じ、愛着を示すとともに、その養育者もその幼児を特別なものと感じ、愛着を示すことで関係が安定するとしています。

特定の愛着の対象がいること。そして幼児のうちにすみやかにその環境を整えられること。さらに恒久的に親子関係を維持できること。「特別養子縁組」が子どもの利益を最優先した養護制度だと、児童福祉の関係者に評価されるのは、そのような点からです。
 

2009年12月の国連総会では「児童の代替的養護に関する指針」が採択され、そこには「安定した家庭を児童に保障すること、及び養護者に対する安全かつ継続的な愛着心という児童の基本的なニーズを満たすことの重要性を十分に尊重すべきであり、一般的に永続性が主要な目標となる」と記されています。また、施設養護に関しては「小規模で可能な限り家庭や少人数グループに近い環境にすべきである。当該施設の目標は通常、一時的な養護を提供すること、及び児童の家庭への復帰に積極的に貢献すること」としています。

日本の厚生労働省も、2011年に公表した「社会的養護の課題と将来像」の中で、施設を小規模で家庭的な環境にすること、施設は家庭に送り出すための一時的なものとすること、そして特別養子縁組のような制度を進めることなど、国際社会と共通の目標を掲げています。いずれにしても、大人数の施設で子どもを長期に育てることは好ましくないことが、世界の共通理解になっています。日本社会には血のつながりのない親子を特別視する傾向がなくなっていません。しかし、子どもの発達の権利を保障するためにも、里親家族や養子家族が当たり前のものとして受け入れられていくことを期待したいと思います。
 

4月4日のイベントで、女優のサヘル・ローズさんは、養子家族の写真や会場に来られていた養子家族の皆さんを見ながら、「みなさん、お気づきですか。血のつながりがないのに顔が似ていると思いませんか。私も母親とよく、本当の親子じゃないのって間違われます。これって、素敵なことではないですか」と会場の参加者たちに笑顔で賛同を求めていました。

後編では「養育の困難な親を支援する意義」についてなど、「特別養子縁組」に関してさらに詳しくご報告します。
 

NHKでは、この4月から5月にかけて“赤ちゃん縁組”に関する3本の番組を放送する予定です。

4月25日(土)放送『ETV特集』「小さき命のバトン(仮)」
夜11時~11時59分まで【Eテレ:全国放送】

★5月6日(木)放送『NEXT未来へのために』
「命のバトンをあなたへ~“赤ちゃん縁組”の現場から~(仮)」
深夜0時10分~0時39分まで【総合テレビ:全国放送】

5月下旬放送予定『ハートネットTV』
「”赤ちゃん縁組”を知ってますか?(仮)」
夜8時~8時29分まで【Eテレ:全国放送】



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