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【変わる障害者雇用】第7回 「内部障害」 心臓病の子どもが大人になったとき

2015年03月06日(金)

WebライターのKです。

身体障害者の雇用は、知的障害者や精神障害者の雇用に比べて進んでいます。しかし、その中で社会的な認知度が低い身体障害として、「内部障害」があります。外見からしても活動の様子から見ても、健常者と変わらない人が多いのですが、特有の制約があります。無理な働き方をすると体調を崩す、定期的に病院への通院が求められるなどです。内部障害に理解のない職場では、「サボり癖がある」「チャレンジ精神に乏しい」などの誤解を受けてしまうこともあると言います。


身体障害の約3割は内部障害であり、けっして少ない割合ではありません。しかし、体の内部のことなので本人が打ち明けない限りは、どのような障害なのか、どれほどの程度なのかはまったくわかりません。さらに加えて、外科手術や内科管理の向上によって増加した新しいタイプの障害だということも、人々になじみが薄い理由のひとつになっています。その内部障害者の中で、もっとも数の多いのが「先天性心疾患」の障害者です。心臓の壁に穴が開いていたり、心臓と肺をつなぐ血管の付き方が違っていたりという先天的な構造上の障害を外科手術により治療し、日常生活を送れるようになった人々です。

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「東京心友会」の運営メンバー。「心友会」とは、「全国心臓病の子どもを守る会」の内部組織で、先天性心疾患のある15歳以上の会員によって組織されています


先天性心疾患の発生確率は1%で、日本では毎年1万人を超える子どもが心臓に何らかの障害をもって生まれてきます。数十年前まではその多くが成長過程で命を落とすことになりました。しかし、人工心肺ができて、1953年に人類初の心臓の開心手術が行われ、その後段階的に手術の成功率が向上し、日本でも1980年代頃から先天性心疾患の子どもの9割近くが青年期に達することができるようになりました。それにともない、先天性心疾患の成人は急速に増加し、現在では約40万人になっています。

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昨年静岡で開催された「心友会」の全国交流会。当日は分科会や講演会を設けて自分たちが抱える課題について話し合います


子どもの頃に病院で過ごした子どもたちが、いまや社会に大きく羽ばたき、職場で活躍しています。実は医療にしても、成人の先天性心疾患の急増に対応しきれておらず、専門医の育成は始まったばかりです。大人になっても小児病院などに通い続ける人が多く、加齢によって生じる新たな疾病や女性の妊娠出産などにも対応できる総合的な医療体制はまだ確立されていません。ここ数年「成人先天性心疾患」を専門とする外来が全国に広がりつつありますが、各県に配置されるまでには至っていません。

心臓病の子どもや家族を守るために1963年に発足した「全国心臓病の子どもを守る会」は、昨年10月に開催した全国大会で、「心臓病のこどもが大人になったとき」というシンポジウムを開き、社会保障制度、医療費助成制度、そして就労の問題などについて話し合いました。団体の名称は「子どもを守る会」ですが、すでに当事者会員の4割近くは20歳を超えていて、成人への支援と理解を得るための情報発信も、会の大きな役割のひとつになっています。

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「全国心臓病の子どもを守る会」第52回全国大会のパネルディスカッション。2014年10月



今回取材させていただいた「東京心友会」の成人メンバーが危惧しているのも、先天性心疾患に対する社会の認知度が低いことです。そのために職場で誤解されたり、無理解な対応に戸惑ったりすることがあると言います。
「職場でパイプ椅子を重ねて運んでいるときに、私は重い荷物を持つのは無理なので見ていたのです。私の心臓が弱いことはみんな知っていたのですけど、中には“なぜ運ばないの!”と非難がましいまなざしを向けてくる人もいました」
「年1回の経過観察なので、有給休暇をもらって病院にいこうとしたら、上司に“そんなに体が悪いなら働くのは止めたら”と言われて、年1回の通院も許されないのかと驚いたことがあります」
「体調さえ悪くなければ、私たちは健常者と変わらないのです。だから、やれと言われれば、普段からいろいろなことをやってしまう。でも、今日は控えた方が無難だなと思って、無理をしないようにしていると、サボっていると思われる。そこで、誤解されたくないので、いつも通りがんばると結局つぶれてしまう」


そんな成人会員の悩みを聞いて、「全国心臓病の子どもを守る会」の代表理事・神永芳子さんが企業や社会に求めるのは、ともかく先天性心疾患という障害があるという現実を知ってほしいということです。

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「全国心臓病の子どもを守る会」の代表理事の神永芳子さん。娘が当事者会員

「人によって程度は異なりますが、先天性心疾患の人は、血液による酸素の供給量が少ないので、疲れやすく、疲労が回復しにくいのです。心臓病の人が無理をしないようにしているのは、サボっているのでもなく、挑戦意欲が低いわけでもないのです。働き方を調整しているだけなのです。一緒に働く上司や同僚から誤解を受けないように、人事担当者だけではなく、社内全体で先天性心疾患に対する理解を広げてもらいたいと思います。残業や休日出勤を繰り返すような無茶な働き方を誇りとするのではなく、雇う側も、雇われる側も互いに十分に話し合って、継続的に働き続けられる健全な労働環境を“価値あるもの”と考えるようになってほしいと思います」
 


内部障害という見えない障害に対して、私たちはどんな支援ができるでしょうか。手話を覚える、点字の名刺をつくるというような目に見える支援は難しいかもしれません。しかし、そういう人がいるという事実を知り、それがどんな障害であるかを理解することも間接的な支援と言えるのではないでしょうか。「自分は子どもの頃に心臓の手術をしています」と言われたときに、それが何を意味するかに気づく。そのことから心がけたいと思います。
 

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