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【福祉の『ヤバい』テクノロジー!】"さわれる検索"取材 そして、点字の教科書見たことありますか?

2015年03月02日(月)

こんにちは、大野です。

大手インターネット企業のヤフーさんの名前を聞くと、検索サイトというイメージを持たれてる方が多いのではないでしょうか?

インターネットを始めたばかりのころは、ブラウザを開いた画面がヤフーで、そこらからネットサーフィン(死語)をしていたものです。いろいろな分野のサイトが一覧になっているディレクトリ検索から、自動車やF1、グルメなどの情報を好き勝手に見に行っていたものです。遠い目。

最近では、IoT(モノのインターネット)分野への進出表明や、カーナビアプリの展開など、現実世界への事業拡大も見られる会社さんですが、最近始められたプロダクトに「さわれる検索」というものがあります。インターネットを見る・聞くから「さわれる」ようになったらどんな未来になるだろう?という発想から生まれたものです。

今は東京にある筑波大学附属視覚特別支援学校に設置されており、視力が弱い学生と、現実に存在するあらゆる物を繋ぐ接点を持つ役割を担っています。


僕自身、インターネットがなければ生きてこれなかっただろうと思えるほど、インターネットが好きですし、その未来の形を示してくれる「さわれる検索」に興味を持ち、実際どういうものなのか取材してきました。


さわれる検索で雪の結晶を作ってみる

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今回お話を聞かせてもらった筑波大学附属視覚特別支援学校の星副校長先生と「さわれる検索」の筐体(きょうたい)です。


星先生:さわれる検索は、子供達がリクエストしたものを作ることが多いです。子供達にとっては、実際に触れないものや見たことないものを作ることが多いですね。

大野:(作れるもの一覧を見ながら)ツチノコとかあるんですね。ツチノコ僕見たことないです。

星先生:誰も見たことないと思いますよ。

大野:そっか、そうですね。

星先生:話やニュースで聞くことはあるけど、子供達は知らないもの、例えば竜巻とかロケットとかは私達も触ったことがないですけど、そういったものや、イプシロンの打ち上げのニュースを聞いて、ロケットってどんなもの?という疑問から作られることがあります。

大野:タツノオトシゴって触ったことないですね。これ作ってみていいですか?

星先生:いいですよ。この赤いボタンを押しながら作りたいキーワードを話しかけます。


さわれる検索:タツノオトシゴはカンセイまでナナジュップンかかります。
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大野:時間かかりますね。別のものにしていいですか?

星先生:そうですね。別のものにしましょう。今子供たちの間で人気なのが「雪の結晶」なんですよ。今の時期だと雪が降ってるニュースが多いので、子供たちが雪の結晶ってなんなの?っていう質問から作ることが多いです。


さわれる検索:雪の結晶のカンセイまでゴフンかかります。

大野:けっこう早いですね。これって市販されてるMakerBot(3Dプリンター)ですか?

星先生:そうです。全部市販されているもので構成されていて、画面はiPadです。外側だけ別注で作ったものですね。インターネットに接続するタブレットと3Dプリンターと「さわれる検索」の仕組みがあれば、ご家庭でもできます。

大野:毎日子供達が作りに来る感じですか?

星先生:そうですね。毎日波はあるんですけど、今日は5人くらい来てるので順番待ちになってます。日によっては幼児部の子が「さわれる検索」の前にイスを置いて、出来上がるまでずっと待ってる子もいます。


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完成した雪の結晶


ヤフー広報さん:そもそもこのプロダクトの始まりは「インターネット広告の未来」をコンセプトに作りはじめたもので、2013年の7月頃にスタートしました。その時に星先生達と一緒にやらせてもらってたんです。インターネット検索の結果は「見る・聞く」しかなかったんですが、触覚を使って「さわれ」たらどうなるかなというところから始まりました。
検索結果が「さわれ」たら広告に活用できるんじゃないかという考えと、さわれたらどのような人に役立ってもらえるだろうと考えた時に、目の不自由な方じゃないかという仮説の元、筑波大学へ連絡してみたところ、ぜひ一緒にやりましょうという話になったんです。

大野:だから、博報堂さんも関わってるんですね。

広報さん:そうです。弊社の人間と広告代理店・博報堂のクリエイターの方達と一緒に進めていたんですね。


大野:ところで、雪の結晶が今人気なんですね。

星先生:そうなんです。これなんだと思う?って全盲の2年生の子に聞いたら、雪の結晶だと思うっていう答えが返ってきたんで、びっくりしました。どうして分かったの?と聞いてみたら、六角形でギザギザになっていて、以前親から聞いたことがあるから結晶だと思うという答えが来たんですね。
説明を聞いていても普通は雪の結晶と一致することは少ないんですが、一致したのがびっくりしましたね。

大野:視覚障害を持つ人が、頭の中でイメージするものがどういった形になるか、掴めていないところがあるんですが…。

星先生:視覚障害の子たちは、例えばこの学校の建物を何も持たないで移動できます。それは、自分の頭の中で建物全体のイメージを持っているからなんですね。
私達だとまず「見ること」で全体像が理解できます。でも、視覚に障害のある子どもたちは、ことばによる説明で頭の中にイメージを作り、実際に歩き回って、そのイメージを修正したり、再構築したりします。そして、また歩いて、イメージできる空間を拡げていくといった繰り返しの中で、イメージを確かなものにしていきます。

さわれる検索は児童の探究心をそそるんですね。今は270くらいのデータが存在するのでそれを作ることができますが、自分のリクエストしたものがない場合は、さわれる検索チームや民間の方がデータを提供してくれて、それが社会とのつながりを感じさせてくれたりしますね。

高校生くらいの子になると、自分でデータを作ろうかなという子も多いので、好奇心、探究心をそそるんです。


点字の教科書は絵だけで終わるページがあるんです

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大野:こちらの学校ではどのように授業が進むものなんですか?

星先生:普通の一般的な学校と同じように、朝から夕方頃まで教科書に沿って授業が進んでいきますね。もちろん教科書は、一般的なものを点字にしたものが使われています。

大野:点字の教科書だと読むスピードは遅くなったりするものなんですか?

星先生:1年生の段階ではすらすら読めませんが、速い子になると健常者が目で読むより速く読めるようになりますね。両面になっているので、凸になっているのを指でなぞって読んでいきます。普通の教科書と違い、点字の教科書は絵だけで終わってるページがあります。このように星座の絵が分かるようになっています。


大野:視覚障害の方がイメージしにくい物って他にどういったものがあるんでしょうか?

星先生:自然現象で言ったら、空や雲です。私が授業して思っていたのが街並みとか雑踏ですね。東京タワーやスカイツリーに登ると、バーッと街が見渡せるじゃないですか。子供達にとっては自分がいる場所、周りだけなので、ビル街がイメージできにくいようですね。

あとは山。私達は山をいろんな角度から見ることができますが、子供達は登ってることでしか山を感じられないんですね。富士山の模型を持ちながら「今五合目くらいにいるんだよ」って説明をしたりします。そうしないと自分の居場所が確認できないんですね。

大野:なるほどなるほど。さわれる検索によってコミュニケーションが難しくなった例はあったりしますか?

星先生:そういう意味ではないです。普段私は子供達に説明して本当にこれで伝わっているんだろうか?と不安になることがあるんですが、「さわれる検索」があると、触覚で確認できるものが作れるので、説明が楽になりましたね。

子供達は色の情報に興味を持つ子が多いですね。一人一人色の情報は持っているので、カニって赤いんだよね!とかピンクってかわいいんだよね。とか色々な情報を持っています。

大野:なるほど、考えさせられますね。今日はありがとうございました。



今回の取材で感じたのは、触覚と視覚について、テクノロジーが寄与できることってまだまだあるんじゃないかなということでした。

スマートフォンは普及してきましたが、視覚障害の人が使える形にはなっていません。スマートフォンのタッチスクリーン画面が点字となり、表示する情報によって凹凸する画面が開発されたら、もっと便利になるでしょうね。点字対応スマホです。


また、頭の中にイメージしたものを現実世界へ放出させるのは誰でも同じ事だと思いますが、視覚障害がある人は、現実に生きていながら、一般の人とは違う世界も持っているという点はとても面白いことではないかと感じました。僕の中では、社会に存在するものは全て誰かが考え出したものだと思っているからです。それと同時に、そういった人と交わる機会がないことは自分の視野を狭めてるだけだなとも感じた取材でした。

それではまた!!


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