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吉永小百合さんが慕い続ける詩人・塔和子さん

2015年03月01日(日)

WebライターのKです。

2月21日、東京の練馬文化センターで、ハンセン病の回復者で詩人の塔和子さんに関するドキュメンタリー映画「風の舞 ~闇を拓く光の詩~」の上映会がありました。この映画の中で塔さんの詩を朗読した女優の吉永小百合さんが急遽駆けつけ、監督の宮崎信恵さんとともに上映前に挨拶をしました。そして、夫婦のきずなを描いた「怒りの効用」と「晩秋」、詩人としての決意を綴った「今日という木」を朗読しました。

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実は、「風の舞」は12年前の2003年に発表、全国で上映された作品で、新作の映画ではありません。しかし、「この映画を見て、いろいろなことを考えてほしい。そして、何よりも塔さんの詩のすばらしさを知ってほしい」という思いが、吉永さんの中で失われることはなく、今回会場に足を運んだと言います。
 


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宮崎監督は、「ハンセン病患者を人間として生きる価値がないと決めつける法律を国家が作ったという驚きと、そのことを知らなかった自分の贖罪の気持ちが、この映画を作る動機となった」と語りました。吉永さんは、宮崎監督から手紙で朗読を依頼されて、塔さんの詩に初めて触れたとき、「詩が心に飛び込んできて、強烈な印象を与えられた」と当時を振り返ります。その後、2008年に塔さんの病室を訪ね、2013年に亡くなるまで交流を続けました。療養所がある島のフェリー乗り場まで、病身の塔さんが見送りにきてくれたエピソードを紹介しながら、吉永さんは「一生忘れられない人」だと言葉を添えました。


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この映画のタイトルである「風の舞」とは、瀬戸内海に浮かぶ周囲7.2キロメートルの小島にある国立のハンセン病療養所・大島青松園で亡くなった患者たちのモニュメントの名称です。ハンセン病患者は親類縁者に地元での埋葬を拒絶され、たとえ遺骨になってもふるさとに戻ることを許されませんでした。「せめて死後の魂は風に乗って島を離れ自由に解き放たれますように」、そんな思いがこの言葉には込められています。「らい予防法」の廃止から20年近くが経った今も、大島でなくなった入所者の遺骨の多くがふるさとの地を踏むことができずにいます。


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詩人の塔和子さんが、ハンセン病療養所の大島青松園に入所したのは1943年、14歳のときでした。両親は塔さんの兄弟に、「お前たちの姉さんは養女としてもらわれていった」と嘘をつき、後に生まれた子どもたちには、存在そのものを隠していました。隔離生活とともに家族のだんらんから塔さんの話題は消えたのです。23歳のときには、特効薬のプロミンの効果で病気は完治しましたが、70年近く瀬戸内の小さな島の療養所が塔さんの宇宙でした。  


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歌人だった夫の赤澤正美さんから創作の手ほどきを受け、29歳のときにNHKラジオ第2の「療養文芸」に詩を投稿し、取り上げられました。そのことを励みに、詩を書き、投稿を続けました。その頃、たまたま文通をしていた女子高生の父親が、塔さんの詩のたぐいまれなる価値に気づき、詩集の出版を手助けし、32歳のときに第一詩集「はだか木」が世に出ました。その後、生涯にわたって19冊の詩集を発表し、「記憶の川で」は、1999年に高見順賞を受賞しました。



ハンセン病患者は差別を避けるために本名を使うことを避け、偽名を使うように指導されました。“和子”は偽名で、塔和子は偽名を使ったペンネームです。亡くなったのは2013年8月28日。幸いなことに、塔さんの遺骨の一部は、本人の希望を家族が受け入れ、ふるさとの愛媛県西予市明浜町田之浜にある両親の墓に本名の“ヤツ子”の名前で納められました。

宮崎監督は、この作品はすでにDVDになっているので、現在上映会はずっと少なくなったと言います。しかし、「この映画は若い人に見てもらいたい。とくにいじめを受けているような子どもたちにはぜひ見てほしい」と願いを語ります。塔さんが詩集に綴った人間の尊厳や命の大切さを若い人に伝え、引き継いでいくことが塔さんの追悼になると考えています。


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今回の上映会を企画したのは、練馬区の「地域をつくる上映会INねりま実行委員会」。誰もが暮らしやすい開かれた街をつくりたいと考える地域の若者たちが中心となった市民グループです。介護福祉士として働く、実行委員長の菅原英倫さんは、「ハンセン病患者のように隔離などされていなくても、貧困や障害などの理由で地域とのかかわりが絶たれてしまう人もいる。そんな孤独な人をつくらないために、こういう映画を上映する価値があるのではないか」と語りました。

映画「風の舞」の中には、塔さんの詩に魅せられた人々がたくさん登場します。香川医科大学医学部看護学科(現・香川大学医学部看護学科)の学生たちは、塔さんの詩を授業で正式に学びます。生命の大切さを学ぶ上で、これほどふさわしいテキストはないという理由からです。追悼集には、香川県善通寺市立東中学校のボランティア部の部員たちの感想も掲載されていました。「いつ読んでも、どこかに、そのとき自分の必要な言葉がある」。


「人間でありたい」という極限の思いに裏打ちされた希望の詩句は、絶望の淵にある人の心にさえ潤いを与える奥深さをそなえています。ハンセン病の問題にとどまらず、次の世代の人々も塔さんの詩から多くを学び始めています。


ハートネットTV、ハンセン病関連の情報はこちらのブログでお読みいただけます。

コメント

Kさんありがとうございました。多くの方に読んでいただけるようシェアさせていたたーきます。

投稿:ノブ 2015年03月01日(日曜日) 23時16分