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「国立ハンセン病資料館」を訪ねて

2015年01月27日(火)

WebライターのKです。

「世界ハンセン病の日」である1月25日に、東京の東村山市にある「国立ハンセン病資料館」を訪ねました。展示室のある2階に続く階段わきの1階フロアに、唐突に大きな映写機と消防機具が置いてありました。なぜ総合展示を見せる前に、こんなものが置いてあるのでしょうか?

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前書きのプレートには、「療養所には、専門業者が持つような本格的な設備がある。それらが存在する理由は、入所者がここを出る難しさと深く結びついている」と書いてありました。


展示品の説明によれば、映画はテレビのなかった時代の“娯楽の王様”で、一生外部に出ることができない患者たちの不安を鎮めるためのものでした。消防機具は火事になっても病気を恐れて消防署が駆けつけてくれないので、自分たちで消火するためのものでした。多くの療養所では、自前の消防車ももっていたそうです。


このさりげない2つの展示は、国が過去に行ってきた「絶対隔離(患者の命が尽きるまで隔離し続ける)」政策を象徴的に表していました。療養所は医療や福祉の機能をもっていましたが、その本質は社会との接触を許さない「隔離施設」でした。療養所の周囲には逃亡を阻止するための堀や土塁がめぐらされていました。逃亡を試みる患者を監禁するための監禁室もありました。そして、患者を社会から遠ざけるために、本格的な娯楽を与え、暮らしを守るための労働も支え合いも、患者自身にゆだねていたのです。前書きのプレートの最後には、「病院施設には似つかわしくないこうした展示資料は、社会でのハンセン病の扱い方をよく示している」と表現してありました。施設の表
向きのありようと、その本質のずれを、これらの展示は示唆しているのだと理解しました。


その日、来館していた30代の男女数人に話を聞きました。皆さん「学校の教科書を読んで、ハンセン病はすでに治療法が確立され、感染力の弱い病であることは知っている」と述べていました。しかし、その一方で療養所の生活や患者の皆さんの苦労や、回復者の皆さんがいまだに差別に苦しんでいることは、十分認識できていなかったと語っておられました。
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東京の昭島市から来ていた37歳の会社員の女性は、「もう昔の出来事かと思っていました。歴史的な資料を見るつもりで来たのですが、隔離のための法律が廃止されたのが、1996年だと知って、え~!って気持ちです。そういえば、10年くらい前に熊本の温泉で患者の宿泊を拒否したという事件がありましたよね。この資料館も2007年にリニューアルされたということで、新しいですし、ハンセン病問題は、今の出来事なのだと改めて感じました」と新たな関心をかきたてられていました。


ハンセン病の治療薬「プロミン」は、戦争中の1943年にすでに発見されていました。そして、ハンセン病は、療養所で働く職員で感染した人は、1世紀近く一人もいないというほど感染力の弱い病気です。しかし、戦後70年の間、高度成長期、バブル期にも忘れられたように隔離されていた人々がいたのです。そして、今でも全国の国立療養所には、平均年齢が80歳を超えた患者や回復者が約1800人入所を続けています。


療養所の子どもたちの作文の中に、「みんなで鯉のぼりをたてました。うれしいような悲しいようなへんな気持ちになりました」という一節がありました。
この資料館のある療養所(多磨全生園:敷地面積約36万㎡)には、かつて生活や医療の施設だけではなく、農場や家畜小屋、学校や図書館、劇場や娯楽室、野球場やテニスコート、神社や礼拝堂があり、患者や職員から「我が村」と呼ばれていました。しかし、その周囲から隔絶した村では、運動会があっても、お祭りがあっても、上映会があっても、スポーツ大会があっても、つねにうれしいような悲しいような気持から逃れられなかったような気がします。いまの出来事が喜ばしければ、それだけ失ったものへの悲しみが深まり、ふたつの感情が交錯する。それが、療養所の隔離生活だったのではないかと、展示を見ながら感じました。


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資料館がある多磨全生園内の「望郷の丘」。療養所から出ることのできなかった患者たちが、高さ約10メートルの手作りの小山から外の世界を眺め、かつての暮らしや故郷をしのび、涙したと言います

 

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療養所の中には学校もあって、子どもたちは教育を受けることもできました。子どもの中には、本人はハンセン病に感染していないのに親が感染しているために一緒に入所させられた「未感染児童」もいました

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