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障害のある子どもたちに"遊びの環境"を!~「遊びのテーマパーク×仮装大作戦」取材記・後編

2015年01月19日(月)

WebライターのKです。

後編では、会場で運営委員の皆さんにお話しいただいた「活動の意義」についてご紹介します。
パテスの代表理事の高塩純一さんは、今回、会場に用意された障害のある子どもたちのための電動車いすの開発者のひとりです。子どもの主体的な活動によって運動発達を促す方法を探求し、その成果を国内外の学会などで発表してきました。

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海外の事情にも詳しい高塩さんは、「このような遊びを柱としたリハビリや療育は、日本では異色の活動のように見られますが、欧米では、これが主流になろうとしています」と熱く語ります。

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リハビリ科学が専門のカナダの小児科医、ピーター・ローゼンバウムは、障害のある子どもには「F」のつく言葉が重要だと言っているそうです。Family(家族)、Friend(友達)、Function(体の機能)、Fitness(健康)、Fun(戯れ)、Future(未来)。子どもの場合は、大人の障害者と違って、障害の克服だけではなく、心身のトータルな発達を促す環境づくりが大切になります。高塩さんは、日本でも、遊びを通じた家族や友達との交流を障害児医療やリハビリ科学の中心に据えたいと考えています。

 

車いすの子どもと保護者を集めて、輪になって車いすダンスを踊り、イベントを盛り上げていたのは、こども教育宝仙大学教授の松原豊さん。障害児保育が専門です。
松原さんは、子どもの支援に携わる人たちが、専門領域に分かれすぎていて、視野が狭くなっていると感じています。
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「自分は下肢の麻痺を直す、自分は手作業の訓練をする、自分は勉強を教える、自分は心のケアをすると、みんな役割分担を決めてしまって、自分の専門性の窓から子どもの障害を見ているだけです。そして、遊びの重要性はわかっていても、それを与えるのは自分の職務ではないというわけです。専門性にこだわりすぎて、子どもにとって大切なことが何なのかを忘れているのではないでしょうか」
車いすのダンスにも、教育的な視点や機能回復の視点はありますが、「来てよかった、楽しかった、面白かった」という子どもたちや保護者のざわめきこそを大切にしたいと、松原さんは語ります。
 


障害のある子どもたちが会場で安心して遊ぶためには「医療チーム」も欠かせません。そのチームを支えていたのは、重症心身障害児者施設「つばさ静岡」に勤める小児科医の浅野一恵さんです。
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「保護者の方も支援者の方たちも、子どもの安全にはいつも気を配っておられると思います。医療的には万全を期す必要があります。でも、そのことを気にし過ぎるあまり、子どもたちの自由な活動に過度な制約を加えてはならないと思います。“人生のための医療”が、“医療のための人生”になってしまったら、本末転倒です。私たちはあくまでも、いざという時のために控えているだけです」

浅野さんは、現在食事に難のある子どもたちのために、調理師とともにペースト状の「まとまり食」を開発しています。今回の会場でも、牛タンシチューやスモークサーモンのカルパッチョなど、フランス料理のクリスマスランチを用意しました。

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「食事は日々の貴重な楽しみです。しかし、何を食べているかもわからないような流動食だけでは、食事の喜びは生まれてきません。料理としてのまとまりのある形状で、それでいて口の中でばらけることがなく安全で、見た目だけではなく、味もおいしい。こういう日々の細やかなときめきを大切にすることが生きる力を育むことになるのだと思います」



今回、この3人以外にも、特別支援学校の先生から貴重なお話をうかがいました。しかし、顔やお名前を出すことは許可いただけませんでした。理由を聞くと、こうした活動が療育の主流ではないので、立場上表に立つわけにはいかないというのです。

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その先生は学校では、「訓練する暇があったら遊ばせろ。今のままでも、できることはたくさんある。もっと楽しませることを考えよう」と挑発的な発言をして、他の先生方とぶつかることがよくあると言います。
その先生が強調されていたのは、子どもたちの“夢”を育むことです。自立するための目標を大人が定めて、それに従わせるのではなく、“友達と楽しく遊びたい、家族で旅行に出かけられるようになりたい”、そういう気持ちをふくらませてあげることこそが大切だと言います。

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現在、「遊具」については福祉機器として補助金の支給を認めている自治体もあります。しかし、原則的には、福祉機器とされるのは、障害児が将来、社会人として独立自活するための素地を育成助長することを目的とするものに限られ、福祉機器でなければ補助を受けることができないのです。医療、リハビリ、教育の現場では、遊びはまだまだ脇役の地位しか与えられていないようです。パテスのメンバーは、障害の克服だけではなく、子どものトータルな発達を視野に入れた“発達保障”という考え方を重視しています。こうした活動が広がれば、障害のあるなしにかかわらず、子どもの生きる喜び一杯の笑顔が、子ども支援の目標になるような気がしました。


障害のある子どもたちに"遊びの環境"を!~「遊びのテーマパーク×仮装大作戦」取材記・前編、はこちらから。
 

コメント

すばらしい取り組みだと思います。パテスの考え方も活動も大賛成です。障害という制約を持った状況のなかでいかに安心して自由を与えて、子ども自身の当たり前の欲求を思う存分自分の体を通して実現していけるかは精神的、身体的、人格的な発達に大きくプラスの影響を与えると僕も考えます。今後も応援していきたいと思います。そして、こういうことが、当たり前に教育や福祉の現場で取り入れられ、身近に子どもたちが体験できる環境が整っていってほしいと思います。学校では様々な軋轢があると思います。柔軟な発想で子どもたちにとってよいと思われる可能性は全て追求していく姿勢を特別支援学校の多くの先生方にももってほしいと思います。何がいい悪いではないと思います。主義主張でもありません。子どもたちにとっていいか悪いかは子ども本人が決めていくことだと思います。
つばさ静岡のまとまり食もすばらしいですね。見た目も食欲をそそられるもので、しかもその形態が子ども自身にとって楽に安心して喉を通すことができるもの、さらにおいしいものであるというのは大革命です。食事も人を育てていくものだと思います。1日3回の食事がどれだけ彼らの楽しみで励みになるものかを考えると、食事の革命は彼らの人生の喜びを大きくさせることになると思います。ぜひ、もっと多くの方々に知って頂きたいですし、それを伝えて頂ければと思います。今度特集を組んで頂ければ有り難いです。
地道なこういう活動が電波を通してより多くの人々に認知され、少しでも多くの人々が関心を持ち、専門家が知恵を出し合い、特別なことが当たり前になりさらにいいものが生まれていくことを願ってやみません。
これからも心から応援しています。

投稿:さっちゃん 2015年01月24日(土曜日) 00時54分