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【変わる障害者雇用】第6回  特別支援学校のキャリア教育の現場~就労支援アドバイザー・箕輪優子さん~【前編】

2014年12月26日(金)

WebライターのKです。

障害のある子どもの通う特別支援学校では、子どもたちにどのような「キャリア教育」をしているのでしょうか?東京都教育委員会の就労支援アドバイザーの箕輪優子さんの特別支援学校の視察に同行させていただきました。


20141226_001_R.JPG箕輪優子さんは、勤務する大手計器メーカーで、かつて特例子会社を立ち上げ、知的障害者のキャリアアップで大きな成果を上げました。厚生労働省の専門官を務めたこともあり、現在は東京都教育委員会から委嘱を受け、企業人の立場から特別支援学校のキャリア教育に関する授業改善のアドバイスを行っています。
進学よりも、就職が大多数を占める特別支援学校では、昔から職業教育には力を入れてきました。しかし、製造業の求人が減少し、事務やサービス業などのソフトな職種へと職業領域が広がる中で、特別支援学校の卒業生に対しても、コミュニケーション能力や課題解決能力などがより一層求められるようになってきました。現在特別支援学校は、小中高の連続する教育を“キャリア”という視点から見直し、社会への参加意識や職業意識の高い子どもに育てようと考えています。そのような教育改善の一環として、東京都教育委員会では4年前から企業人による「就労支援アドバイザー」の制度をスタートさせました。

同行取材で最初に訪れたのは、東京都立府中けやきの森学園。肢体不自由教育部門と知的障害教育部門が併設された特別支援学校で、今回は知的障害教育部門高等部の作業学習の授業にお邪魔しました。
 


【朝礼】

20141226_002_R.JPG学校に到着したのは、8時50分。視察は、朝礼から始まりました。生徒たちは会社員がやるように職場での挨拶を大きな声で復唱します。号令をかける進行役も生徒です。「生徒がやれることは、生徒自身がやる」。障害のあるなしに関わらず、社会性を育てるための基本的な考え方です。

「作業学習」と呼ばれるキャリア教育の授業は想定される職業系列に応じて、7つの班に分かれます。今回はそのうちの4つの班の授業を参観しました。


【事務サービス班】
20141226_0003_R.JPGクラスの代表2人が各業務の担当をホワイトボードの表を使って、割り振ります。そして、数名ずつに分かれて、書類の押印、使用済みカードの裁断、製本作業などを始めました。

箕輪さんは、たんに作業を割り振るだけではなく、その作業でどんな力を伸ばすことができるのか、「集中力」「スピード」「正確さ」などのポイントを示し、生徒たちに指針を与えてはどうかと担任の先生に提案しました。指示された作業をこなすだけではなく、つねに目標をもって、作業を改善していく姿勢は、どのような職業にも共通すると言います。


【食品加工班】
20141226_005_R.JPGこの日、生徒たちが作っていたのはメロンパン。粉の計量から焼成まで、本物のパン屋さんでも通用するように衛生面に気を配りながら、レシピ通りに作り上げていきます。「食品関係は就職希望が多い人気の職種で、生徒たちは食べもの作りが大好きです。でも、自分たちが作業を楽しむだけではなく、お客様に満足いただけるように均質に仕上げることを心がけています」と担当の先生は語ります。


【製紙班】
20141226_006_R.JPGミキサーでどろどろに溶かした牛乳パックを型で漉いて、便箋や一筆箋などの再生紙に仕上げます。
箕輪さんは、生徒たちが限られた器具を融通し合いながら、手を休めることなく作業を進めていることに着目しました。「個人の作業の効率アップだけではなく、チームとしての作業の効率アップも企業にとっては重要です」と話します。


【ハンドワーク班】
20141226_007_R.JPGここでは、香料の入ったにおい袋を作成していました。授業がスタートした春の段階では、椅子に座って落ち着いて作業するのが難しい生徒もいましたが、いまでは縫製や裁断の作業などに集中できるようになりました。仕事の流れや作業のルールを明確にし、作業しやすいように環境を整えることで、障害が重い生徒にもできることが増えて、自主性や意欲が出てきました。
箕輪さんは、このクラスでは、何か困ったことがあった時に、困ったままにしないで、すぐに周囲に相談することを生徒たちの習慣にしてほしいと話しました。



20141226_008_R.JPG一般に、教員は企業での就労を経験したことのある場合は少なく、就労先で求められる技能や態度を具体的にイメージするのは難しい面があります。しかし、企業の人間に直接アドバイスを受けることで、育成のポイントが明確になり、教育現場から企業現場への移行がよりスムーズになります。「企業の方には、“作業時間内の達成目標を掲げる”“検品により製品の質を確認する”“分業により個々の責任を明確にする”“顧客サービスを意識する”など、学校にはない発想があります。企業の方に来ていただくと、教員が具体的なノウハウやスキルを学ぶことができるので助かります」と、山口真佐子校長は語ります。

学校時代と違って、就職してからは、周囲の支援の手はずっと少なくなります。その落差が大きいために就労を継続できない子どもたちが少なからずいます。「多くの特別支援学校では、まだまだ先生たちのサポートが手厚すぎると感じています。時には意図的に生徒が戸惑うようなシチュエーションを作って、それを主体的に乗り越えさせるようなこともあっていいと思います。将来職場で起こりうることを想定した教育をしていただくことが、求められます」と箕輪さんは話します。


東京都の知的障害特別支援学校高等部の就職率は全国のトップ。卒業生の43.3%が一般就労します(全国平均31.1%)。それは障害者への理解や共感の広がりだけではなく、特別支援学校のキャリア教育の質の向上により達成されている数字です。私たちは、知的障害のある子どもたちの障害の部分にだけ目が行きがちですが、彼らが特別支援学校できちんとした教育を受けて社会に送り出されている有用な人材であることを、もっと知るべきだと感じました。

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