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【変わる障害者雇用】第3回:140人の精神障害者が働く大手生活雑貨専門店 後編

2014年12月05日(金)

【変わる障害者雇用】140人の精神障害者が働く大手生活雑貨店 前編、はこちらから。


ステレオタイプの障害特性ではなく、本人の特性を重視

ハートフルプロジェクトでは、採用前に「プロフィール表」と名付けられた、仕事に関係する本人の特性が詳細に書かれた書類を支援機関に依頼して提出してもらいます。支援機関とは、地域障害者職業センターや障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所などで、直前まで本人の就労サポートを行っていたジョブコーチやカウンセラーなどが、配慮すべき事柄、作業指示のポイント、本人の短所・長所などを具体的に書いてきます。そこに書かれた内容に基づいて、入社後の環境整備や合理的配慮を行います。このプロフィール表は特定社会保険労務士の成澤岐代子さんの発案で始められました。

成澤さんは、障害特性をステレオタイプに理解するだけでは、満足のいくサポートはできないと言います。
 


「同じ障害であっても、配慮すべきことがまったく違うことがありますから、本人自身の特性をきちんと把握することが大切だと考えています。その点でプロフィール表は貴重です。例えば、“男性の上司は苦手にしている”“仕事の優先順位を付けるのが不得手”“暗算はミスが多い”“決まりごとは的確にこなす”“キーボード入力は集中して行える”“接客がセールスポイント”など、短所にしろ長所にしろ、障害名を聞いただけではわからない本人の特性が書かれています」


職場環境を少し整えることで、高い業務能力を発揮

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店舗では、品出し、おたたみ、清掃、商品メンテナンス、賞味期限チェック、梱包、値替え、荷受けなど、さまざまな業務をこなさなければなりません。しかし、どうしても接客はできないという人の場合は、倉庫業務だけを任せることもあります。レジ打ちがストレスになるという社員にはレジ打ちの作業をなくすような配慮もします。
写真:店舗での雇用を初めて試みた東京有楽町の大型店

例えば、お客さまからの難しい問い合わせの対応に時間がかかってしまうことから、お客さまを戸惑わせてしまうなど、店内で予期せぬ事態が起きた場合は、全員が連絡を取り合うためのインカムを付けていますので、すぐにサポートに駆け付けられるようになっています。
また、仕事のペース管理が苦手なために無理をして体調をくずし、欠勤や遅刻が増えたりした場合は、早めに十分な休息を取るように指導しています。症状が悪化し、長期に休まれるよりも、早め早めに休息を取ってもらって、穴をあけないで仕事を続けてもらう方が、雇う側にとっても安心できるからです。

精神障害者の中には、職場環境を少し整えただけで、高い業務能力を発揮する人たちがいます。とくに接客の仕事を過去に経験した人は貴重です。模範的な仕事ぶりの社員のことは、店長会議などで話題に上がりました。“短時間で効率よく仕事をしてくれる”“黙々と仕事に打ち込んでいる”“障害者と言っても、ハンディを感じさせない”。そんな話を聞くと、「だったら、うちでも雇ってみようか」ということになり、ハートフルモデル店舗に名乗りを上げる店長が増えていきました。


働くことで症状が軽くなるケースも

「採用して、一番驚いたのは、入社してきた時よりも、表情がよくなっていく人が現れたことです。精神障害のある方は、入社時はみんなこわばった表情をしていますが、それが月日が経つと柔らかくなっていくのです。働くことで症状が軽くなった、薬の量も減ってきたという報告もあります」
成澤さんは、精神障害のある人については働くことで無理が生じて体調を崩すことを主に心配していて、仕事を通じて症状が軽くなったり、体調がよくなることを予想していなかっただけに、驚いたと話します。

また、支援機関から、「昼休みは一人にさせておいて、無理にチームの輪の中に入れるようなことはしないでください」と言われていた社員が、いつの間にか昼ごはんの輪の中に加わり、くつろいでいるようなこともあると言います。障害特性からすると難しいとされている行為でも、働く環境によっては可能になるケースもありました。


6年目を迎えるハートフルプロジェクトは順調に成果を上げて、現在の雇用率は3.8%を達成しています。2015年には5%の雇用率の達成を目標にしています。今後の課題としては、ハートフル社員のステップアップをどう展開していくのかを検討しています。店長になりたいという社員や、インテリアアドバイザーのような専門職になりたいという社員の希望にどう応えていくのか。「障害があることで制約があることは確かなのですが、何とか道筋をつける方法があれば」と成澤さんは考えています。

この会社が精神障害者の雇用に成功したポイントは大きくは3つあります。ひとつは、全社をあげて障害者雇用に取り組んだこと。とくに経営トップがトップダウンで号令をかけたことで、全社的なプロジェクトになり、障害者雇用を推進することへの躊躇がなくなりました。社内コンセンサスがはかられているので、人事の人間は気兼ねなく、プロジェクトにまい進できるようになりました。

2つ目は、現場の責任者である店長を採用の場面から関わらせたことです。現場の責任者が一緒に働きたいと思える人材を選び、仲間に迎えることで、支え合いや相互理解の態勢が実現しました。

3つ目は、本人重視で、ステレオタイプの障害特性にこだわらないということです。アスペルガーにはこのような配慮を、統合失調症にはこのような配慮をというような一般的な対処法にこだわるのではなく、一人ひとりに応じた、ケースバイケースの配慮をしたことが、働きやすい職場環境づくりへとつながりました。
 


私たちは、精神の障害は仕事によるストレスから発現したと思っているので、仕事から遠ざけることが回復へと向かう道だと思ってしまいがちです。しかし、仕事そのものは決して人を苦しめたり、追い込んだりするものではありません。むしろ仲間と達成感を味わったり、自分の成長を実感できたり、人から必要とされる喜びに満ちたものです。そのような働く幸せを奪うゆがんだ労働環境をなくしていくことこそが、社会の課題として突きつけられているのではないでしょうか。

今回取材した大手生活雑貨専門店だけではなく、他の精神障害者を雇用する企業にも、「仕事は精神病の回復に効果があると感じる」と話す人事担当者がいました。精神の安定は何もしない状態から生まれるのではなく、適度なハードルを乗り越え、成長しているという充実感の中から生まれるのかもしれません。
 

コメント

障害者雇用枠で働いている者です。番組を視聴したわけではないので、僕の状況がどう映るかは分からないんですが、僕の場合は『任される仕事内容に制限がかかっている』ということでしょうか。具体的に言うと現金の授受に関わるレジ業務などには携わらせてもらえない、ということでしょうか。業態にもかかわるのですが、現金業務が出来ないとステップアップが図れない仕組みになってます。人と関わらせて問題を起こされても困る、というのが店舗側の本音でしょうが、就労して2年近く経つなか、スタッフのサポート業務ばかりに関わっています。贅沢な悩みかもしれませんが、そのためスタッフにもどこか僕を仲間として受け入れていない雰囲気があります。このままの状況が続くのならば、収入的にも業務内容的にもステップアップが図れる職場への転職を本気で検討しています。

投稿:shiratama0112 2015年10月29日(木曜日) 16時48分

精神障害雇用は未だ偏見があるなか、雇用を創出していて
健常者と障害者の共存社会を実践していてすばららいいと思いました。
それが、企業イメージに留まらず障害者が生き生きして働けるように
仲間として受け入れ(普通に接して配慮以外は)出来る事を活かせるようににすればきっと能力を発揮してくれると思います。特に感性においては
ずば抜けている人もいるはずです。 
カンセラーやジョブコーチの言うことは提案の一つとして全てを鵜呑みにしないことも必要だと思います。 本人を本当に理解していない人もいるからです。 ジョブコーチ等と本にの関わりは信頼関係が必用不可欠であり、大変難しいお仕事だと思う反面、研修を受ければ主婦でもヘルパー同様ジョブコーチになれるからです。資質も問われます。 出来ること出来ないことは本人を見て下さい。人それぞれで難しいと思いますが、
出来ないからこそ影で必死に努力している人もいるからです。
モチベーション維持のためにも軽作業ばかりでなく仕事を提供して下さい。

投稿:双葉 2015年04月02日(木曜日) 11時38分

近畿在住の女性です。
精神障がい者の雇用が首都圏が充実していると毎回痛感しています。そのうえでこの記事をネットでみつけました。
本当にこんな会社があり働けるのでしょうか。
私には夢のような話です。
 私は19歳から心療内科に通ってます。
当時の私は想像できたでしょうか、現在40歳となった私を。

 障がい者が就労までの経過が難しいのは本人も医療者も就労施設も、発達段階により症状が様々に変化し(思春期・青年期・壮年期・老年期など)より就労するまでの過程が困難になると考えています。
若い時は病識も薄く、体力はなんとかあるので働いてはガス欠で辞めるという繰り返しでした。継続して働くことが大切だと若い頃から実感をもって感じたことはありませんでした。
 私自身合同面接会やハローワークの障がい者枠にも通いましたが、履歴書の書き方が重視されているように感じました。嘘でも障がい者らしい優等生さを求められている気がします。
 この記事を拝読し、私自身今の私がみえてなかったと思いました。何が得意で何が不得手で本当に考えみました。恥ずかしながら何もうかびませんでした。
 現在の私を履歴書ではなく、医療者でもなく、雇用する側が見てくれ頂けると自分も客観的に少しはなりました。
  
  

投稿:やすこ 2015年03月21日(土曜日) 14時31分

今回、紹介された企業でハートフル社員として働いてます。
会社の方々の理解もあり、優しくしてもらって本当に助かっています。
もちろん、配慮はしてくれますが、それ以外は普通の人として接してくれるのが私は嬉しいです。
今もいろいろ店長や同僚に迷惑や心配をかけることもありますが、根気よく見守ってくれるのもこの会社のいいところだと思います。
ずっと、この会社で働くことができたらいいなぁと思います。

投稿:ちょこ 2015年02月26日(木曜日) 21時09分

はじめまして
先々週に障害者就労支援センターへ1週間、適性検査・作業訓練をしました。
先週、事業所のワーカー・センターのカウンセラーとハローワークへ行きました。
雇用企業が2件しかありませんでした。時間の融通がともに効きません。

鬱で多様な症状が出る中、発達障害の息子を一人で育てて、
母子家庭で生活保護受給、親・親戚なく
問題があるたび施設や病院、学校と 仕事を離れ8年程たちます。
15歳になった息子も完璧ではありませんが進学せず、バイトをし
今の職場が半年続いてます。

やっと自分の症状に向き合い求職中です。
この紹介された企業は香川県にもありますか?
できれば、当事者理解のあるところへ長く勤めたいんです。
年齢制限があるなら、それも諦めますが

お返事を宜しくお願いします。

投稿:楚いばら 2014年12月22日(月曜日) 17時12分

素晴らしい試みですね。
民間企業の1番の目的は「利潤追求」ですが、同時に「社会貢献」という目的も大きいと思います。
人がいるから企業が成り立つ。
人がいなければ企業は成り立ちません。

同じものを購入するならば、やはりこういった積極的な採用を行っている企業で買い物をしたいですね。
それが応援(支援)することに繋がると思いますから。

投稿:ゆみ子 2014年12月06日(土曜日) 23時35分