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【変わる障害者雇用】第3回:140人の精神障害者が働く大手生活雑貨専門店 前編

2014年12月05日(金)

ハートネットTVです。

これまで企業での採用が難しいと言われていた精神障害者の雇用は、現在前年度比24.7%の伸び率を示しています。「精神障害者の法定雇用率への換算が可能になったこと」「発達障害などが組み入れるようになり、精神障害者の対象が増えたこと」「うつ病者の増加および社会復帰の促進」「精神障害者の雇用・就業対策の整備」などが背景にあると考えられています。このような状況を踏まえて、2018年4月には精神障害者の雇用が事業主に義務づけられることになりました。

しかし、精神障害者の雇用が伸びていると言っても、障害者の雇用者全体に精神障害者の占める割合は、身体障害者73%(31万人)、知的障害者21%(9万人)に対して、5%(3万人)に過ぎません<2014年6月1日現在>。全国に精神障害者は約320万人いますが、就労しているのは1%にも満たない人数です。
 

精神障害者の雇用に対する企業現場の戸惑いは大きいと言われています。医療との連携もない民間企業で精神障害者を雇用するのは難しいのではないか、好不調の波があるのに業務を安定的にこなすことは可能なのか、他の社員に負担はかからないのか、企業側にはそのようなさまざまな懸念が生じています。それに精神障害者に対する社会の偏見は根深く、顧客や取引先など周囲の理解を得られるのかという漠然とした不安もあります。当事者も偏見にさらされることを恐れて、自分が精神障害者であることを隠して就職するケースも少なくありません。
現在、精神障害者として雇われている人の多くは、もともとその企業で働いていてうつ病になった社員のリワーク(職場復帰)であり、新規に精神障害者を雇用する企業は限られています。


ハートフル社員と呼ばれる障害者

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そんな中、今回取材した大手生活雑貨専門店では、リワークではなく、新規の精神障害者を140人雇用しています。うつ病をはじめさまざまな精神障害のある140人の社員が、全国に270近くある直営店舗で働いています。この会社では、障害者の社員のことをハートフル社員と呼び、その社員が働く店舗をハートフルモデル店舗と名づけています。
 
この大手生活雑貨専門店の東京池袋にある本社を訪ねました。この企業でハートフル社員のサポートを担当するのは成澤岐代子さん。総務人事課の特定社会保険労務士です。
「うちは身体障害者も21人、知的障害者も30人採用しています。とくに意図的に精神障害者を多く採用しようとしたのではなく、結果としてそうなっただけです。うちは障害名自体を聞かないこともあるぐらいですから、障害種別へのこだわりは何もないのです。精神障害者を受け入れている企業が少ないことから、たまたま優秀な人材が埋もれていて、うちの会社で成果を上げることができたということかもしれません」

写真:東京池袋の本社ビル。同社には残業はなく、社員は原則18時で退社する。


店長も採用選考に加わり、支え合う人間関係づくり

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この大手生活雑貨専門店が障害者を積極的に雇用するためのプロジェクトを立ち上げたのは2009年。パート社員の増加により社員の母体数が増えて、法定雇用率が1.4%と伸び悩んでいたことから、雇用率を向上させるための改革を行いました。
これまで人事が中心になって担っていた障害者雇用を、全社を挙げて進めることになり、会長をリーダー、社長をサブリーダーとして、障害者雇用率の達成をめざすことになりました。プロジェクト名は、“ハートフルプロジェクト”。これまで、本社や一部の事業所で集中的に障害者を雇用していた体制を変えて、全国の店舗にも障害者を配属することになりました。
全国の店舗で障害者を雇用しようと考えたのは、本社や一部の事業所だけでは、雇用できる人数に限りがあり、法定雇用率を達成することは難しいことと、店舗には多様な仕事があるので、障害者の業務の選択の幅が大きく、パート社員のように短時間勤務も可能であるため、障害者雇用に向いていると考えたからです。
 

プロジェクトをスタートするに当たっては、まず採用の仕方を変えました。それまでは、身体障害者を中心に採用していたので、漢字テストやパソコン技能などの試験の後に、面接を行っていました。しかし、ハートフルプロジェクトでは、障害種別にかかわりなく採用を行うということから、事前の試験を止めて、採用選考は面接だけに絞ることにしました。そして、その面接には人事担当者だけではなく、採用後に一緒に働くことになる店長も同席させ、採用の段階から選考に加わるようにしました。

採用の最も重要なポイントは、履歴書に書かれているような、学歴や職歴ではなく、現在の本人の状態や意思だと、成澤さんは言います。
「過去は関係ありません。障害が現れてから、いまの時点で何ができて、何ができないのか、どんな配慮が必要なのか。そして、働きたいという強い意思をもっているかどうかを確認しています。
それと雇う側の店長の判断も重要になります。ぜひこの人と働きたいと思ってもらえるかどうか。支え合う関係を作るためには、人と人との相性も大切な条件になります」


「お客様相手の仕事は難しいのではないか」という声は当初から社内で挙がっていたと言います。そこでまずは大型店舗で実験的に試してみることになりました。有楽町店と吉祥寺店で最初の採用が行われました。2、3カ月もすると、すぐに店長からオーケーのサインが出たので、他の店舗にも徐々に広げていくことになりました。



【変わる障害者雇用】140人の精神障害者が働く大手生活雑貨専門店 後編に続きます。

コメント

うつ病のなかには、障害者認定を受けるまでもいかないレベルの病気があり、されど休職を余儀なくされる人達が大半です。
うつ病でリワークしている人達をひとくくりに「精神障害者」と呼ぶのは、いかがなものか?職場復帰している人に偏見を増やしかねない。

投稿:thwork 2016年01月09日(土曜日) 11時13分