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【変わる障害者雇用】第2回:企業内ジョブコーチが活躍する老舗百貨店(前編)

2014年11月20日(木)

ハートネットTVです。

障害者の雇用者数は、この10年間右肩上がりで増え続けています。とくに、企業での就労は難しいと言われてきた知的障害者と精神障害者の採用は、ここ数年身体障害者を大きく上回る伸び率を示しています(2013年度前年比 身体障害者4.4% 知的障害者11.0% 精神障害者33.8%)。その伸びを支える上で大きな役割を果たしているのが、障害者の職場への適応を支援するジョブコーチです。
そのジョブコーチの活躍によって、質の高い雇用を実現しているという横浜駅西口の老舗百貨店を訪れました。従業員は1500人以上で、神奈川県内有数の大規模百貨店です。現在、障害のある従業員は30人、重度の障害者を2人分と数えるダブルカウントを含めて法定雇用率は2.7%(2014年6月1日現在)を達成しています。


店内の後方支援をするワーキングチームを設立

20141120_001.JPG今回お会いしたジョブコーチは、大橋恵子さん。元は横浜市内で中学校の教員をしていましたが、2006年からこの百貨店で、企業内ジョブコーチとして障害者の業務遂行支援の仕事に携わっています。
ジョブコーチには、障害者職業センターに所属するジョブコーチ ②社会福祉法人等に所属するジョブコーチ ③企業に所属する企業内ジョブコーチの3種類があります。この3種類の中で最も数が少ないのが、大橋さんのような企業内ジョブコーチです。企業内ジョブコーチは、職場の外部にいて支援活動を行うジョブコーチとは異なり、社員の一人として雇用され、障害者の支援だけではなく、業務の創出や作業現場の改善など企業の生産性向上にも力を尽くします。


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ターミナル駅に隣接し、土日は10万人以上の利用がある

この百貨店では、30年以上前から障害者雇用に取り組んできましたが、2002年にその職場となっていた直営食堂を閉鎖することになりました。それをきっかけに、障害者雇用をさらに促進し、企業の社会的責任をはたすには、どのような仕組みづくりが必要なのか、社内で検討が繰り返されました。そして、2007年3月から販売の後方支援をするワーキングチームを設置することになりました。そのチームづくりの仕事を任されたのが、大橋さんでした。


売り場の不安を払拭するのもジョブコーチの役割

20141120_0003_R.JPG「知的な障害のある人ができる仕事を見つけるのは、一般的には難しいと思われています。
しかし、百貨店の店舗には、手作業でやらなければならない軽作業が山ほどあるのです。贈答用の商品のリボン作り、伝票書き、箱作り、チラシ折り、買い物袋のビニールかけ、売り場のかごの整理など、数え上げたらきりがありません。売り場には、それらの軽作業をサポートする要員のニーズが潜在的にありました。にもかかわらず、すぐに障害者の業務づくりが進まなかったのは、そのような多種多様な軽作業を取り出し、販売員以外の人にまとめて担当させるという発想がもともとなかったのと、はたして障害者に間違いのない作業ができるのか、緊急の仕事に対応できるのかというような懸念があったからだと思います。私たちジョブコーチは、障害のある社員の業務遂行のサポートをするだけではなく、そのような現場の不安を払拭するのも大切な役割のひとつと考えています」

写真上:商品チラシの折り込み作業は催事があると急増
写真下:スピーディに判子を押す写真の社員は、1日に6千枚を均一に仕上げる

 

“できる人”“任せられる人”へと、イメージを転換

ワーキングチーム発足当初は、与えられる仕事も少なく、大橋さんは営業マンのように、売り場の理解を得るために走り回りました。「メンバーの人柄や一生懸命な姿に共感してもらっても、売り場の方はいざ仕事を依頼するとなったら、ハードルをぐっと上げてきます。売り場の方たちに信頼されるには、言葉よりも実績で見せるしかありません」。大橋さんは、1週間後に納品と言われたら、それを3日間で仕上げる、見本よりも質のいいものを提供するというようなことを繰り返し、期待以上の成果を上げることに努めました。障害者に対するイメージを“できる人”“任せられる人”へと変えていったのです。

20141120_00004_R.JPG「販売員が接客の合間に軽作業を行うことで、少なからず時間を割かれることになります。例えば、リボンづくりは手間のかかる作業で、ひとつ作るのに2、3分はかかります。その数が数百、数千となると、トータルではお客様をかなりお待たせしてしまうことになります。その作業をまとめてすばやく正確に行う後方スタッフがいれば、販売員の負担は解消され、接客サービスに割り当てられる時間が増えることになります。
ワーキングチームには、自閉傾向のある人が数人いますが、みんな信じられない速さと集中力で、均一な出来栄えの成果物を見事に仕上げてくれます」

写真上:リボンづくりは、根を詰めてやる作業。夢中になると休憩を取ることも忘れる
写真下:リボンは、かわいらしく、品良く結ぶのがポイント

当初は半信半疑で見ていた売り場の人たちの評価も徐々に上がっていき、いまではこちらから仕事を頼みに行かなくても、こなしきれないほどの仕事が舞い込むようになりました。現在、ワーキングチームが受注している仕事は、150種類以上にも上ります。


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最近は、食品売り場の要員として品出しを行う機会も増えてきた


自主性を重んじ、あらかじめすべてを指示・管理はしない

多種多様な作業、納期や量の異なる仕事を毎日こなしていくためには、仕事の優先順位を見きわめたり、スケジュール管理をすることが必要になってきますが、大橋さんは、そのような仕事のマネジメントを逐一指導するようなことは、できるだけしないようにしています。障害のある社員の自主性や作業意欲を尊重しているからです。また、確認すべきことやわからないことを自分自身で周囲に問いかけられるように、コミュニケーション能力を養うことにも力を入れています。

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そもそも私たちは彼らに“何がやりたいのか”、“どうしたいのか”を尋ねてこなかったのだと思います。彼らは自分の意思を表明する機会がほとんど与えられてこなかったのではないでしょうか。“できますか?”と聞いて、“できる、やりたい”と言えば、やってもらえばいいのです。そして、どうしてもできなかったときに、初めて一緒に考えていく。あらかじめすべてを指示・管理するようなことはやるべきではないと思います。私はこの会社だけで役に立つのではなく、どこにいっても自立してやっていける、ジョブコーチがいなくても平気だという人材に育ってほしいのです」

写真:業務の内容がかかれた札を見て、その日の仕事の優先順位を決めていく



できないことよりも、できることに磨きをかける

この百貨店では、ワーキングチームが発足するまでは、障害者を業務の一環を担う人としてとらえてはいても、販売の戦力としてはあまり意識していませんでした。しかし、大量の作業を均一の質を保ちながら、スピーディにこなすワーキングチームの能力は、いまや売り場にとって欠かせないものとなっています。大橋さんの「障害者のできないことにこだわるのではなく、できること、やりたいことに磨きをかけていく」という方針が実を結んだ結果です。
百貨店では、季節ごとに大きな催事があり、緊急に大量の軽作業が発生することがあります。そんな時でも、職場に常駐している企業内ジョブコーチは、すぐに仕事を的確に配分することができます。そこで、この百貨店では、企業内ジョブコーチの重要性を認識し、業務の拡大にともない、昨年新たなジョブコーチを雇うことになりました。
現在、ワーキングチームは、知的障害者11人、精神障害者2人、身体障害者1人の総計14人のメンバーと、その社員を支える2人のジョブコーチによって構成されています。



【変わる障害者雇用】第2回:企業内ジョブコーチが活躍する老舗百貨店(後編)、に続きます。

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