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Road to Rio vol.117 ブラジル・豆だより!「世界の"目"、マルクス・レーム選手」

2016年09月17日(土)

ドイツのパラリンピアン、マルクス・レーム選手 。彼は「ブレード・ジャンパー」の愛称で世界的にも知られる義足の走り幅跳び選手です。昨年秋にドーハで行われた世界選手権で世界記録となる8m40の大ジャンプを見せました。この記録は2012年ロンドンオリンピックの金メダリストの記録8m38を上回る記録でした。

レーム選手はオリンピックに出ることを夢見て来ました。世界トップレベルの選手たちと同じ舞台に立ってパフォーマンスを見せたい、そしてパラリンピックは決してオリンピックに劣るものはないということを一人の陸上選手として体現したい、彼はそんな思いを持っています。



001_IMG_4563.jpg国際陸上競技連盟の規定によるとレーム選手がオリンピックに出場するためには義足が競技において有利にならないことを証明しなければならないことになっています。今年春、ドイツ、アメリカそして日本の研究者たちを巻き込んで、レーム選手の幅跳びの科学的検証が行われました。

その結果は「義足を使う跳び方は健足の選手の跳び方とは異なるため、義足が有利になるともならないとも言えない」というものでした。国際陸上競技連盟はレーム選手のリオオリンピックへの出場を認めませんでした。

8月、オリンピックが開催。男子走り幅跳びで金メダルを取ったのは、なんとレーム選手の跳び方を検証する科学実験に参加したアメリカのオリンピック選手、ジェフ・ヘンダーソン選手でした。彼の記録は8m38でした。

そして今、パラリンピックが行われています。レーム選手はオリンピックに出られなかったことを残念に思いながらも、自分の舞台であるパラリンピックで最高のパフォーマンスを見せようとしています。そんな彼に今の気持ちを伺いました。



Q:リオには1日に着かれたそうですがトレーニングは順調ですか?
はい、とても順調です。モチベーションも高くなっています。オリンピック期間中に食事やホテルについて色々な噂がたちましたが、実際来てみるとご飯も美味しいですし、むしろ食べ過ぎに注意しなければいけないくらいです。リオの人たちはとても親切で様々なサポートを笑顔でしてくれます。ですから競技においても最後に必要なエネルギーは会場に立った時に観客の皆さんの応援から得られると思っています。

Q:今大会に向けてはどんな準備をしてきましたか?
助走距離を少し長くしました。スピードを速めるために新しいことをやってみようとしています。ドーハの時は助走の出だしからフルスピードで行っていましたが、助走距離を長くして最初の2歩は遅めのスタートが出来るようにしました。こうすることによって助走の自信あがったように感じます。より良いリズムを見つけ、スピードを上げて踏み切れるようにしています。歩数が多いと踏切に合わせる時のミスの確率も上がりますが、練習を重ねてきたので本番でもうまくいくと信じています。



Q:この大会で何を成し遂げたいと思っていますか?
まずはこの素晴らしい大会の一部でありたいですね。そして私たちはオリンピックの背後に隠れたりしなくていいということを世界に示したいのです。オリンピックが終わったから今度は違う主題に移るということではありません。並列なものの中で今度は私たちが持ちうる限りのものを見せる番なのです。私たちは誇り高きパラリンピック選手です。私はここにいることをとても誇りに思います。パラリンピックは私たちパラリンピアンが素晴らしいスポーツ選手であることを全世界に見せるチャンスなのです。

Q:オリンピックはご覧になりましたか?
はい、特に走り幅跳びは興味深く見ました。今年出会った選手たちも出場していましたし、数週間後に自分がいるスタジアム、トラック、ピットなども見ておきたかったです。「もし自分がそこにいたら」という考えも浮かびました。でもそれは終わったことでそれほど悲しいという気はしません。オリンピックはこの競技を代表することのできるより大きな機会だったのかもしれませんが、今はパラリンピックという自分に与えられたチャンスを最大限に生かしたいと思っています。

Q:自分が出場していたかもしれないオリンピック、見るのは辛くなかったですか?
目を伏せることもできましたが、私は何より自分のやっている競技が大好きなんです。だから誰かがオリンピックの金メダルを取るなんていうそんな素晴らしい瞬間を見逃したくありませんでした。それは本当に素晴らしい瞬間なんです。私も金メダルが欲しいんです。だからそれを見て辛い思いを抱くよりモチベーションを得られるのです。私は今自分の与えられた瞬間に集中したいと思っています。自分の瞬間を特別なものにしたいのです。

Q:今回のオリンピックの記録を超えたいという思いはありますか?
競技の日というのはたった1日です。その1日に最高のパフォーマンスを見せた人が金メダルをとります。だからそれほど特別なわけです。もちろん8m40を跳んだこともありますし、8m38よりも跳びたい思いはありますが、コンディションなどにも左右されます。ですから出来る限りそれに近い記録を目指す、というところですね。もちろん全力は尽くしますが自分にプレッシャーをかけすぎないようにしています。



Q:現在8m以上跳べるパラリンピック選手はレーム選手しかいません。2016年リオという直接比較のできるオリンピック選手がライバルという意識はありますか?
私のライバルはあくまでパラリンピック選手です。私はパラリンピックに来たんです。まずは自分のタイトルを防衛しなければなりません。ロナルト・ヘルトフ選手(オランダ)は本気で私に挑戦を挑んで来るようです。ですから私も本気で彼の挑戦を受けて立ちますよ!

レーム選手の出場する男子T44走り幅跳びはパラリンピック最終日の18日に行われます。迫力の大ジャンプとライバルたちとの拮抗を楽しんでいただくと同時に、彼がオリンピックに出たいと願うこと、それと同時に自らを「誇り高きパラリンピアン」と呼ぶことの意味を少しだけ考えてみてください。そこには成長し続けるパラリンピックのあり方を考える重要なヒントがあるような気がしています。

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