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Road to Rio 特別編「東京パラリンピック開幕まであと4年。2020年8月25日の私たちへ」

2016年08月31日(水)

キャスターの山田賢治です。東京パラリンピックまで、あと4年。

去年は「5年後の私たちへ」と題して、開幕の日を迎えた“未来の私たち”へ、「手紙」を送ってみました。今年も、この1年に起きた変化の報告など、手紙を書いてみます。


 

2020年8月25日、いよいよ東京パラリンピックの開幕ですね。どのように迎えていますか?

 

日本時間8月22日、リオデジャネイロオリンピックが終わりました。日本は金メダルが12個と大躍進。時差が12時間で夜から朝にかけての中継にも関わらず、日本中が盛り上がりました。9月8日(日本時間)に開幕するパラリンピックに向けて調整をしている選手たちからは、「オリンピックの選手の活躍で、いいイメージができました。この勢いで自分たちもいい結果を出したい」という声が。これまでの日本では、オリンピックが終わると、一気に熱が冷めてしまいましたが、今回はパラリンピック関連の情報をよく見聞きするようになりました。うれしいことです。

まずは、リオ大会を前にした日本の変化から書き留めておきます。

20160831_yamaken001.jpg今月2日、日本代表選手団壮行会で登壇した、“未来のパラリンピアン”。競技に取り組んでいる子どもたちです。リオに向かう選手たちに心のこもった言葉を届けました。子どもたちも選手たちも、この日のことを2020年でもきっと覚えているはずです。

 

2012年のロンドンパラリンピックと比べると、選手のメディアへの露出が一気に増えました。テレビ番組やCMだけでなく、街中の大型モニターやポスター、雑誌の特集記事など、見ない日はないといっても過言ではありません。まさに“東京効果”です。2020年の盛り上がりはいかがですか

さらに、東京パラリンピック開会式のちょうど4年前の8月25日から東京都が都営大江戸線の駅構内で、オリジナルムービーの放映や展示を始めました。東京大会の全22競技が、基本、一つの駅に一つずつ紹介されていて、立ち止まって見入る人の姿もありました。競技や選手を多くの人に知ってもらうことが第一歩。そこから、実際にプレーを生で見られる場にいざなうことができれば…。また、「やってみたい」と思う人が増え、実際にプレーしてみるところまでたどりつくことができれば…。パラリンピックのような大舞台で活躍する人だけでなく、スポーツに取り組む“すそ野”を広げていくことも必要だと思います。2020年、障害のある人のスポーツの人口は増えていますか?

20160831_yamaken002.jpg門前仲町駅では、陸上競技の展示。山本篤選手の動画も(写真提供:東京都オリンピック・パラリンピック準備局)


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月島駅では、ゴールボールの等身大マネキンの展示(写真提供:東京都オリンピック・パラリンピック準備局)

 

さらに、オリンピックとパラリンピックを“一緒に”盛り上げていこうという機運が高まってきました。広告でも、オリンピックの選手の中にパラリンピックの選手も登場するようになりました。しかしまだオリンピアンの割合が高いので、ぜひとも同数になってほしいと思っています。他にも、これまでオリンピックのメダリストのパレードは、パラリンピックが終わる前に終えていましたが、今年は10月7日に双方のメダリスト合同で行うことになりました。

一般の競技大会にも、パラの選手が登場!6月の陸上日本選手権には、オープン種目でパラリンピック種目が組まれました。観客からは、「車いすってあんなに速いんだ」「競技用の義足って見たことなかった。かっこいい!」という声が聞かれました。一つのレースとしての見ごたえを感じたのだと思います。

 

練習環境でも、オリンピアンの練習拠点をパラの選手も使えるようになりました。企業との契約関係にあるパラ選手が約7割を占めるなど、改善されているのは間違いありません。一方で、コーチやスタッフの約8割が企業と契約関係がなく、選手とは逆の傾向がみられることがわかりました。(日本パラリンピアンズ協会調べ)。4年後はコーチやスタッフの指導環境は改善していますか?

 

まもなく開幕するリオパラリンピックは、スポンサー収入やチケットの売り上げ、国や市の支援金でまかなう運営予算が大幅に不足。そのため、会場運営や選手輸送のコストを減らすため、競技会場の変更、さらにはボランティアやバスドライバーの削減などで予算を削減するとのこと…。

さらに、大会直前にはこんなニュースも。国家主導のドーピングを理由に、ロンドン大会で大躍進を遂げたロシア選手団が出場できなくなりました。IPC(国際パラリンピック委員会)は、ドーピングの追放の意思を強く表明したのです。

 

2020年の東京では、同様のこと、起きていないですよね?

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東京大会開幕まであと4年を祝うカウントダウンイベント。都民広場では、子どもたちがパネルを動かして東京大会のエンブレムを完成させました。

 

東京パラリンピックに、病気や障害のある子どもたちにも参加してもらいたいと今から3年前に動き出したプロジェクトがあります。名付けて、「ハンドスタンプアートプロジェクト」。子どもたちの手形を世界中から集めて大きな絵を完成させ、東京大会の会場に掲示してもらうことが目標です。

重度の障害のある子どもたちのお母さん3人でスタート。障害のために手のひらが難しい場合は、グーの手でも指1本でも足形でもほっぺでもO.K。自分が好きな色で押したスタンプからは、力強く生きている生命力を感じます。


20160831_yamaken0005.JPGワークショップで手形を押す子ども


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イベントでスタンプをした親子


 

発起人の一人、事務局の横山万里子さんの息子、潤ノ助くんは、3年前、5歳で亡くなりました。生前に取っていた潤ノ助くんのスタンプも、もちろん参加します。横山さんは「子どもたちが主役のプロジェクトです。多くの人に、様々な障害のある子どもがいることを知ってほしい。また、この企画をきっかけに、孤立していた家族が、同じ悩みを持っている家族と出会い、吐露できるつながりができてほしい。いろんな思いが込められたプロジェクトなんです」と、熱く思いを語ってくれました。子どもにとって、さらにその家族にとって、自分たちもパラリンピックに参加しているという気持ちが、生きる力につながるのではないでしょうか。

目標は、2018年までに10万枚。今、全部で約6000枚集まりました。

2020年の会場に、掲げられていますよね?


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東京オリンピック・パラリンピック選手村予定地(東京・晴海)。まだまだ、ですが、建設に向けての動きが出てきました。

 

外国の方たちを受け入れる態勢についていくつか心配なことがあります。

今年8月の東京は、去年ほど猛暑日はありませんが、37度7分を記録するなど暑い日が続きました。2020年、東京に集まる選手や観客は大丈夫かな!?と思うのは自然なことです。

そこで東京都も立ち上がりました。去年10月、「2020年に向けた『暑さ対策』推進会議」を発足。ヒートアイランド対策として、遮熱性や保水性の高い道路の舗装やミストの設置、また、日陰となる樹木の保護、熱中症の予防などをさらに加速させようと動いています。

さらに、外国の選手や観客が、多く日本を訪れることが見込まれています。その対応として、▼どのようにして熱中症予防への情報を提供するか、▼仮に病院に運ばれた場合の受け入れについて(言語や医療費の問題など)など、項目に挙げられています。

 

「暑さ」以外にも、台風や地震などの自然災害にどう対応するのか、パニックをどう最小限に抑えるのか。障害のある当事者の声を入れ、様々なシミュレーションをして備えることが求められます。2020年、実際どこまで実現できていますか?

 

先日は、痛ましい事故が起きました。都内の地下鉄で、盲導犬と歩いていた視覚障害のある男性がホーム下に転落して、電車にひかれて亡くなりました。転落したホームは、柱とホームの端までが60cmのところもありました。2020年は海外からも補助犬を連れた選手や観客が来日すると考えられ、ホームドアの設置など対応が必要です。実際には、進んでいますか?また、そうした方たちを見たときに周りの人が声かけするような社会はできていますか?

 

課題も含め、またこの1年で大きな動きがありました。

パラリンピアンという立場で「発信しよう」とする、頼もしい選手たちも増えてきました。一方でまだまだ競技団体や選手の間での、練習環境や経済的なバックアップなど格差があるのも事実です。一つ一つの事象に、「関心を持つ、持ち続ける」ことが大事だと考えされられた1年でもありました。

 

では、また来年。いい報告ができることを願って。


山田 賢治

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