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Road to Rio vol.67 "本気"でトップアスリートを育てたい!~奈良県スポーツ振興企画係の取り組み・パラ陸上編~

2016年02月08日(月)

地元の選手がパラリンピックに出場すれば、きっと地域が盛り上がる…


そんなアツい思いを2020年に向け抱く県の職員と、選手強化という至上命題を持つ競技連盟の専門家たちが結びつき、新たな取り組みが始まっています。


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1月23日土曜、奈良県が主催する「世界に飛び出せ!障がい者陸上タレント発掘イベント」練習会を訪ねました。


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会場は奈良県立橿原公苑陸上競技場。気合いの入った横断幕を準備中です。右が奈良県のスポーツ振興企画係の方(赤いウエア)、左の二人はパラ陸連の方。


奈良県のスポーツ振興課スポーツ振興企画係が企画する選手発掘イベントに伺うのは去年11月の水泳に続いて2回目(水泳の発掘イベントはこちら)。取り組みとしては陸上競技の方が先で、去年9月に最初のイベントを開き、その時の参加者の中から選抜されたメンバーで、今回の練習会が行われました。陸上や水泳といった、単独の競技の選手発掘を県独自で行う例は非常に珍しく、注目の取り組みです。

水泳の発掘イベントでは、指導者養成のパートの充実ぶりに驚かされましたが、今回はいかに?


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練習会冒頭のミーティング。選手の内訳は運動機能障害2人、低身長1人、知的障害7人。10代後半が多いよう。奈良県内だけでなく大阪府や滋賀県から来た人もいます。

開会のあいさつは、大阪から駆け付けた日本パラ陸上競技連盟の吉村龍彦事務局長から。(このイベントは、日本パラ陸上競技連盟の共催、日本知的障害者陸上競技連盟の協力で開かれました)

004_IMG_9180_R.JPG吉村事務局長 「2020年の東京で頑張れる自分にどうしたらなれるか?夢を持って、自分のために努力をしてください。親のため、先生のためではなく、自分のために」


005_IMG_9182_R.JPG続いて紹介されたのは5人のコーチ陣。この練習会の特徴として感じたのは、コーチ陣の充実ぶりでした!選手10人にコーチ5人という数だけではありません。後ほどご紹介していきます。


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右下に見える小さな灰色の箱がスピーカー



練習は30分間のアップから。スマホからスピーカー経由で音楽を鳴らし、リズムに乗って歩きから軽いランニングへ。

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先頭を走るのは地元奈良のあん傘ぶるAC・岡林正紀コーチ。走り高跳びでリオを目指す現役アスリートでもあります。


 

このあと、障害特性に合わせ、グループに分かれての練習が始まりました。

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コーチの指導の“ことば”を、付き添いの人がもらさず書きとめる


運動機能障害の参加者は日本パラ陸連の普及振興委員・塩家吹雪コーチが担当します。塩家さんは都内に本拠を置き、多くのアスリートを育ててきた障害者陸上のクラブチームの監督でもあります。(その活動はこちらの記事で)



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「うちのクラブにも脳性まひの選手がたくさんいますよ」と塩家コーチ。

経験に裏付けされた方法を試していく


010_IMG_9617_R.JPG走るフォームを直しながら、何度もタイムを計る。


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前屈をして、走る前と後の柔軟性の違いをチェック。何本か走った後は柔軟性がアップしていた。

 

「いいトレーニングは疲れない」「走るほど柔軟性が増したり、タイムが上がったりするのは身体が“生きている”証拠」コーチの説明は、短く、歯切れよく、そして明快。

参加者は、普段から地元のクラブ等で走っている人がほとんどでしたが、「こういう指導を受けられる機会はなかなかない」とのこと。家族や仲間と走っているだけ、というケースが多いそうです。


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右:パラ陸連の佐藤直人コーチ。ご本人の専門は砲丸投げ


投てきの指導は日本パラ陸連の強化委員会・投てきブロック長の佐藤直人コーチ。マンツーマンで指導している相手は、奈良県内の高校で野球部に所属する2年生。野球部の監督とトレーナーが同行して参加していました。彼の場合、低身長症というクラスにあたり、日本の陸上では層が非常に薄いクラスなのだそうです。

彼がこの練習会に参加することになったのは、野球部のトレーナーがある講演会でパラ陸連の強化担当の理事と出会い、パラリンピックの参加条件と、この練習会について聞いたのがきっかけだったそうです。縁ですね。

013_IMG_9493_R.JPGやり投げに挑戦。最初はやっぱり野球の投球フォームに近い感じもありましたが・・・


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しかし、佐藤コーチの指導を受けるうちに…
目測で28メートル近く投げることができたのだそうです。

本人は「難しかった」とおっしゃっていましたが、コーチは「最初からこれだけできるのはさすが」と。
ちなみに、このクラスのリオパラリンピック参加標準記録(A)は32mです。


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こちらは知的障害の部門です。

主に短距離の指導をしていたのは日本知的障害者陸上競技連盟・強化コーチの吉田徹さん(左)。岐阜県からいらしていました。


016_IMG_9822_R.JPGそして、主に長距離を指導していたのが日本知的障害者陸上競技連盟の代表監督で強化部長でもある河合正治さん。去年10月のドーハ障害者陸上世界選手権では、男子5000mで中川大輔選手が金メダルに輝いた際に取材でお世話になりました。(こちらの記事の後半参照)


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ホームストレートで指示を出す河合コーチ。…と思っていたら…


普段は愛知県の特別支援学校に勤務している河合コーチ。優しく、シンプルな言葉で指示を飛ばします。(この日は特別優しくしたとのこと)



018_IMG_9979_R.JPGバックストレートでも走り方を直します。いつの間に…

河合さんは、知的障害の選手の場合、コーチと選手の波長が合うことが大事と。どうしても合わない場合があるので、複数のコーチがいる体制が望ましいそうです。しかし、教える側の人材が足りず、個別の指導は今の段階では難しいとのこと。指導には陸上競技の知識プラス障害特性の知識が必要で、自閉症の人の指導ができるかどうかも大きな要素だそうです。
しかし、知的障害の子供たちにスポーツのニーズは高く、日本では知的障害の選手がもっと増える予想だそうです。

「まだまだ点の活動ですが、線に、面にしていきたいです」

 

パラ陸上の指導、選手育成の最前線を、ここ奈良で一気に見た気がしました・・・

 

このイベントを実現したのはこちら、奈良県スポーツ振興課スポーツ振興企画係の皆さん。

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左が係長の小暮弘道さん、右が松井匠さん、真ん中が中心となって準備してきた北森郁子さん。実は北森さん自身も元アスリートなのだそうです!(現場で初めて聞きました)

この発掘イベント自体は県の「トップアスリート育成事業」の一環。パラスポーツの関係者に会って話を聞くうちに、「まずは選手を見つけてくるところから始めないと」ということに気づかされたとのこと。


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競技場の入り口で見つけたせんとくん

 

なぜこれだけ、充実させられたのですか?と尋ねると、担当者が凝り性だから、という返答。係長以下、「これくらいでいいんちゃう」とは決して口にせず、「もうちょいできるんちゃう?」を積み重ねてきたそうです。

地元奈良からパラリンピックの日本代表を!そのシンプルな思いが、競技連盟のコーチ陣にも伝わっている・・・。スポーツ振興企画係の皆さんの本気が、競技連盟のさらなる本気を引き寄せている感じがしました。



「自治体と競技連盟が早い段階から連携することが大切。連盟だけも自治体だけでも足りない。人材は眠っている」知的障害の選手を受け持った河合コーチのことばです。

2020年の東京パラリンピックは、東京だけでなく、日本全体のもの。大会期間はたった12日間ですが、その12日間を“軸”にして何をどう変えていくのか?

それを本気で考えるには、残り4年は短いのか、長いのか・・・皆さんはどう考えますか?


◆関連情報
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