本文へジャンプ

Road to Rio vol.48 様々な人が関わり合う世の中へ(前編)~"切断ヴィーナス"が切り拓く未来~

2015年11月12日(木)

11月7・8日は2つのイベントがありました。
7日・土曜日は、東京体育館にて開催された「MOSHI MOSHI NIPPON FESTIVAL 2015 in TOKYO(通称:もしフェス)」に行ってきました。


日本のKAWAII、クール、そしてポップな“魅力”がつまったこのフェスティバルは、2015年にロンドン、パリ、バンコク、サンフランシスコなど世界8都市を巡回し、東京に凱旋してきました。今回はそのフェスティバルに“切断ヴィーナス”として出演されるみなさんを取材しました。


001_DSCN4357_R.JPG

2日目のオープニングは、三戸なつめさんなど人気モデルさんたちが登場。

 

003_DSCN4386_R.JPG

そしてでんぱ組.incの登場。


003_DSCN4473_R.JPG「でんぱ組姐さん…」と思わず心の中で思ってしまうほど、プロフェッショナルなステージでした。
 

004_DSCN4421_R.JPG

いわゆる“ヲタ芸”でしょうか?動きが速すぎてカメラが追いつきません。そして…
 

 

005_DSCN4581_R.JPG切断ヴィーナスのショーが始まりました。

 

切断ヴィーナスとは…
普段義足で生活している女性たちが、個性的な願いをかなえる義足や衣裳を身に付け、魅力的に“変身”している状態です。KAWAII、クール、ポップ…ここからは、従来の義足や障害者の概念を打ち壊し、溶かし、乗り越える…彼女たちの魅力を是非感じてください。


006_KOZ_0993.JPGサラ・レイナーセン選手(アメリカ)は、何度も世界記録を打ち出している世界的に著名な障害者アスリートのひとりです。右手のトーチがとても象徴的ですね。サラ選手はリオデジャネイロパラリンピックで初めて競技採用されるトライアスロンでリオ出場を目指しています。


007_DSCN4611.JPG阿部未佳さんは、2018年のピョンチャン冬季パラリンピック出場を目指すスノーボーダーです。赤獅子をイメージされているのでしょうか?


008_DSCN4665.JPG須川まきこさんはアーティスト。
ステッキ?と義足のコントラスト!まるで魔法使いのようですね!
阿部さんと須川さんはハートネットTVのブレイクスルーにもご出演いただきました。番組書き起こしをこちらからご覧いただけます。⇒ブレイクスルー File.11 義足のヴィーナスたち


009_DSCN4708.JPG村上清加さんは、以前のハートネットTVのオープニングにも出ていただいていたアスリート。ドーハの世界陸上にも出場し、リオパラリンピックを目指しています。義足をぐいっと持つ姿がカワイイですね!


010_DSCN4747_R.JPGヴィーナスたちは、思い思いのイメージでショーを楽しまれたのではないでしょうか?


011_DSCN4756_R.JPG思いっきりポップな衣裳なので、角度によっては義足が見えにくい場合もありますが…まあそれは、ご愛嬌ということで!


012_DSCN4782_R.JPG
そして、このショーの主宰・企画を行ったのは…


013_DSCN4828_R.JPGそう、カメラマンの越智貴雄さんです。ドーハの時には「今日の越智さん」という写真を毎日掲載していましたが、越智さんは2000年から国内外のパラリンピックスポーツの撮影取材に携わっており、アスリートたちの魅力を写真という形で幅広く伝えていらっしゃいます。

ショーについて、越智さんにお話しを伺いました。


切断ヴィーナスの”カワイイ”を目指して

今回のイベント、どうでした?
たくさん反応があって凄かったです!(村上)清加さんがクルクルっとした時や、しゃがむ時も「すっごくカワイイ!」みたいな反応があって。ちゃんとポップカルチャーっていうのかな、カワイイカルチャーとして受け入れられてる。だから「もしもしにっぽん」凄いですよ。この感じをちゃんと見越して出演オファーしてくれている訳ですから。

もしフェスさんから、オファーがあったんですね。
そう。一流の人達しかここには出られないぐらいなので。でんぱ組さんもそうだし、ゴールデンボンバーさんも、あちらからオファーが。

凄いですね!準備はどれぐらい前からされてたのですか?
一か月ぐらい前からですかね。衣装だけ外注しちゃったんですけど、“カワイイ”と“スポーツ”を融合させて欲しい、という感じでお願いしちゃって。ちょっと出すぎたところもあったんですけど、カワイイからまあいいかな、って(笑)。


そうですね(笑)。ちょっと義足と衣装の違いがどこからだったかわからない部分もあったんですけど、それでも本当にカワイイというものが受け入れられている感じが、凄くしました。
世界一を目指そうと思ってやりました!来年もイベントやりたいです!


越智さん、ちょっと興奮気味でした!

そしてもうひとり。切断を魅力的に“支える”義足を作っていらっしゃる、臼井二美男さんです。以前ハートネットTVにもご出演いただいた臼井さんは義足ディレクターとしてこちらのイベントをプロデュースされました。

013_DSCN4846.JPG手前が臼井さんです。言葉のひとつひとつがどこか哲学的でつい、正面の写真を撮ることを忘れてしまいました…


垣根を、魔法のように飛び越えていく

今日のイベントはどうでしたか?
思ったよりファッションが凄くて、良かった。近くで見ると凄いなあと。やっぱり客席から見ると凄く映えてて良いですね。あれぐらい、クールジャパンというか……なかなか、日本人の感覚というのも少し変わってきている感じがして、とても面白いかな。

日本人の感覚…どのように変わったと感じられました?
障害を隠すためのファッションショーとかじゃなく、障害というのを感じさせないで、なおかつ、モデルさんの個性に「もっと花を盛った」、みたいな。
今まで無かった発想が、花開いている。多分世界的に無いかな、この感覚は。世界になかった感覚を日本から発信できるのは良いことですよね。若い人が入ってきやすいというか、いろんな意味で、同時に色んなものを受け入れちゃう。「足のない障害」とか、美しさとか可愛さとか頑張りとか、全部MIXで気がついたら自分が認めてる、というのは凄いことです。垣根を魔法のように飛び越えていく、そんな発想。

今までの切断ヴィーナスのファッションショーですと、「切断ヴィーナスのファッションショーです」という中でやっていたと思うのですが、今回は「もしフェス」の中で、お客さんの雰囲気とか感じられ方が違うと思います。その辺りはどのように感じられましたか?
今の日本の、世界から注目される日本のかわいらしさというか。今の日本人が持っている、文化も入っていると思うんですよ。そこにちゃんとマッチングしているから、“切断ヴィーナス”が負けてないというか。新しいファッションの在り方が生まれたような。
障害がある、というのをこんな形で、美しさとか可愛さを表現できるのを、現実に今日見ることができた。デザイナーさんとか、モデルさんの心意気まで、そういうもの“全て”の密度が濃くて、凝縮されていて、その思いも良かったですね。

ただ「障害を認めてくれ」じゃなくて、気がついたら「認めさせちゃってやるぜ」っていう、それの嫌味もなくてね。多分今までない、魔法の感覚がします。

014_DSCN4884_R.JPGのサムネイル画像村上さんの義足をメンテナンスしている臼井さん。でも、なにか素敵な日常を過ごすことができる魔法をかけているようにも見えます。

 


今度はどんな魔法を作り出したいと思います?
この「もしフェス」に来ているのは東京の限られた人だったり、ここへ来ることができる人だったり。刺激を受ける人はいるけれど、全国、日本全体を考えると、まだまだこういう感覚を知らない人もいるでしょうし、圧倒的に「知らない」と思うんです、実際はね。こういう感覚、こういうイベント、働きかけ、思いっていうのを、いろんな場所で、発信できるようにもっとやっていいと思います。東京だからできたっていうのは、今はそうだけど…もっともっと、色んな人に“感じて”もらう……わかってもらうじゃなくて良いと思うんだけど、感じてもらう、体験してもらいたい。
多分…まあ大人の人もそうですけど、若い人には“その感覚”がすごく糧(かて)になると思うので。若い人のエネルギーの、文句の言えない楽しさ、ってあるんじゃないですかね?そういうのが、全部セットになっているのが、すごく良いことだと思います。

ありがとうございます。最後に。1年後はリオパラリンピックが終わっていて、次は東京です。そこに向かっていくときに、どういうイベントを仕掛けていきたいですか?
車いす・義足の人ばっかりじゃなくて、いろんな障害の人、あとお年寄り、子ども…高齢者の人も、一緒にやっちゃうのが良くない?やっぱり、日本もどんどん高齢化しでるでしょ。“この感覚”って多分思いやりの結晶みたいな気もするんですよ。なんというか、いろんな人がいて、そういう“思いやり”を理解する、ひとつのアピールですね。
ひとつの形だけど、それは多分いずれ、自分の家族とか、親戚とか、隣人とか、お年寄り?と自分も含めて家族も含めて、そういう“人を思う気持ち”みたいなものがつながるのではないかな。来年とか再来年とか…いろいろやってみたい。やったら面白いんじゃないかな。

そうですね。思いやりってなかなか形にすることは難しいんですけど、こういうイベントで、いろんな人が同時に体感できるっていうのは本当に大切なことだと思うので、ぜひ。
いろんな興味の持ち方があるじゃないですか。きっかけづくりみたいな。“この感覚”はきっかけにすごく、良いように作用すると思うんです。だから今まであんまり興味を持たなかった若い女の子とかに、すっと、「こういう(障害がある)人がいる、こういう(障害があっても楽しく過ごす)ことができる」というのを。
人間って、一回体験したり見たりすると“受け入れる”ことができるようになるから。そういう意味ではすごく…興味持ってもらいやすい。いろんな活動、音楽も含めてね。いいと思うんです。


 

014_IMG_3080_R.JPG今年の8月、パラリンピック選手発掘事業にいらした臼井さん(一番右)。


切断ヴィーナスの取材にいらしていた日テレ(真相報道バンキシャ!)の竹内花奈ディレクターにもお話を聞いてみました。

015_DSCN4837_R.JPG中央が竹内ディレクター。後ろの音声さんもこちらを見ていたのですね!

伝えたい思いとは?

今回、どういうところに注目されていましたか?
“切断ヴィーナス”の方々にいろいろ話を聞くと、「普段街中では気づかないかもしれないけれど、障害者の方もいるんだよと伝えたい」という本人達の思いがあったので、是非伝えたいと思いました。

ショーはどんなふうに感じられましたか?
私も実際に、そんなに元々気にしたことは無かったんですけれども、「普通に接してほしい」という声が多くて、直接「いろいろ聞いてください!」って言ってくれて。最初、彼女たちに聞きづらい部分があったんですけど、そうやって言っていただけると直接すぐ聞けて。無意識に壁を置いていたんだな、というのを凄く感じました。

カワイイ文化と“障害”の部分が混ざり合ってると、接しやすいですか?
そうですね。カワイイっていう部分と、ファッションと、障害と、で接しやすいです。

ちょっと難しい質問かもしれませんが…もしご自分が、義足とか義手をつける、となったら、どんなものを使ってみたいと思いますか?
でもやっぱり、今日みたいに、凄いかわいくアレンジができるんだな、と思ったので……ちょっとなってみないと分からないですけど、かっこいいモノをつけたいな、とすごく感じました。

ありがとうございます。最後に、今回のショーをメディアとして伝えられると思うのですが、どういった思いを一番に伝えますか?
彼女たちが障害者であっても、“普通”の人と同じでありたいという部分を、思いを、同じ年代の方とかに伝えていきたい、というところですね。



最後は、ショーに出ていた村上清加さんに伺いました!

016_DSCN4891_R.JPGミュージカルの「CATS」のようなメイクで、最初誰だかわからないくらい…女性にとってのお化粧は本当に“魔法”ですね。

私たちは、楽しく生きている。

どうでしたか?感想は。
感想は…すごい着込んだので、すごい暑かったんですけど、それを熱気に変えて。かなり盛り上がりました、自分の中でも。

お客さんの反応はどうでしたか?
結構お客さん見えたんですけど、「いいぞー!」みたい親指立ててくれる外国の方とかいて、あと「おーい」って手振ってくれたりもしたので、反応してくれてすごくうれしかったです。

今までの切断ヴィーナスのショーですと、「切断ヴィーナスのショーがある」とわかって集まってくれたお客さんで、今回は「もしフェス」というイベント目的で、お客さんの層が違っていたと思いますが、そのあたりはどんなふうに感じられましたか?
楽屋でもアイドルの方が横にいたりして、そういう部分でも前と違った感じがありました。私たちがステージに上がる前も「ワー!」「キャー!」となっていたので、それをトーンダウンさせないように。私たちがみんなで盛り上げれば、お客さんもそのまま盛り上がったまま見てくれて次にもつながるかな、って思ったので、精一杯自分たちが出来ることをやりたいと思っていました。私は最後だったので、みんなの出番を大画面で見ていたんですけど、もう全然、多分クールダウンしてないかなりの盛り上がりで、かっこよかったので…私も頑張っていくぞ!っていう気持になりました。


カッコよかったです本当に。私がいた位置がちょっと遠くで…衣装なのか義足なのかちょっとよくわからなくなったりしたんですけど。笑
そうそうそうそう!そうですよね、ある意味、いつも義足がメインっていう感じだったんですけど、でも「あれ何を…何だっけ、この人たち義足だっけ?」っていうのを今回感じたと思うんですね。まあその感覚を日常生活でも、別に義足であろうが障害があろうが、“いち人間”なんだっていうのと、みんなと同じように楽しいことが好きで、楽しく人生を送ってるんだっていうのをこのショーを通じてなんかちょっとでも感じてもらえればなと。義足…義足、私たちは義足があって生きているわけじゃなくて、なんていうんですかね、義足があるから生きていられるわけではなくて、やっぱり“いち人間”である、と。まあでも義足だから楽しい思いをさせてもらってるので(笑)、うふふ。


人と違う楽しみ方というのがそれぞれあっていいという考え方を凄く感じました。最後に、今回こういうイベントを通じて、そしてあと一年後、リオパラリンピックが終わった一年後にこういうイベントをやるとしたら、どういう人にどんな形で伝えたいと思いますか?
もうどんな人ってわけではなくもう、4年後に東京にオリンピック・パラリンピックが来るっていう、みんな多分必然的に意識を持つと思うので、その中でオリンピックはもう以前から盛り上がっていますけど、パラリンピックも負けないように、盛り上げたいです。

パラリンピックはもう「障害者のスポーツ」ではなくて、「オリンピックの次にある、障害を持った人だけど同じようなスポーツの祭典」っていう。同じスポーツをするアスリートとして見てもらいたいので、その辺は逆に、来年ちょっとでも変わっていればという期待もして…同じようなことをやってみたいです!
そして、今回こういう形でショーに出たのは、「障害を持ってることを恥ずかしい、隠したい、と思う人がたくさんいる」と聞いたからなんです。私たちのまわりにはもうそうじゃない人が多いので。だんだん自分も麻痺してきてしまってるんですけど、東京から離れると隠す傾向にあるとも聞きますし。見せることが“正解”ではないんですけど、ただ、障害があろうがなかろうが、楽しく生きることには…なんていうんですかね…「楽しく生きちゃいけない」わけじゃない、「同じようにこうやって楽しく生きてるんだよ」っていうのをちょっとでも見てもらえたらって思います。


11月28日(土)午後7時からNHK-BS1で、世界選手権に挑んだアスリートたちの戦いを描くドキュメンタリーを100分間にわたって放送する予定です。ドーハでの村上選手のインタビューもあります。お楽しみに!


最後に。
実は、私は興奮だけではない、ちょっと違う思いがありました。
取材カメラの位置がアリーナの後ろだったこともあり、お客さんは思い思い踊っていたり、場所取りをしていたり…そして“目当てのアイドル”のステージが終わると帰って行く人は、少なからずいました。また、切断ヴィーナスのショーに盛り上がっていた人のところへインタビューに行こうと思ったら、その方は“アイドル待ち”でライブが始まるとより激しく踊り始めたので…邪魔しちゃいけないな、と。
ここにいる人に、もっと彼女たちを見てほしかったのに。

村上さんがおっしゃっていた 「自分も麻痺している」という言葉を改めて感じましたが、同時にまだまだ可能性があると気づきました。
それは、彼女たちが新たな場に出たことで「面白い」と思ってくれる人とつながることができているからです。そして次はその人たちも交えてイベントを新たな形で行い、つながる、創る、つながる、創る…と、どんどん新しい発想を織り交ぜて大きな化学反応を起こしていけば、きっと何かを溶かすような素敵で強力な“魔法”が生まれると思います。
今は、「頑張る」ことが多くなっているかもしれませんが、その未来を信じて。



018_DSCN4466.JPG

“でんぱ組姐さん”もきっと、いろんなことを乗り越えて今ここにいるのですよね?



そんなことを思いながら、大分の車いすマラソンへ向かいました。
後編に続く⇒様々な人が関わり合う世の中へ(後編)~"大分車いすマラソン"が切り拓いてきた道~

 

コメント

このショーについて、企画意図には全面的に賛成で大拡散したいのですが、一方で知れば知るほどショックが大きくなります。
臼井さんがおっしゃっていたのですが、高齢者、子ども。。。

越智さんのおっしゃるような『一流しか出られない』イベントというのは、『義足者だって一流になれる』という意義は大きいと思いますが、これが一般化すれば、今度は『一流になれなかった』人は”障がい者である上に二流三流でしかない”との二重の屈辱を受けるようになるのではと心配になります。でもそれをあの熱気の中では・・・

投稿:マーボナス 2016年05月10日(火曜日) 14時23分