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Road to Rio vol.21 「5年後に"輝く" ~2020東京で初採用"パラテコンドー"~」

2015年03月05日(木)

ハートネットTVキャスターの山田賢治です。
 

きょう(3/5)で、東京パラリンピックまであと2000日となりました。
今回は、“Road to TOKYO”を歩み出した選手を紹介します。

東京パラリンピックで行われる22競技は、今年1月31日、IPC(国際パラリンピック委員会)の理事会で決まりました。その中には、初めて実施される競技が2つ。バドミントンテコンドーです。私自身、パラバドミントンは去年のアジアパラで取材していましたが…。正直に言います。

「テコンドーにパラ競技があったの?」

知りませんでした、「パラテコンドー」の存在を。すぐに日本に選手がいるのか調べました。すると、たった1人、去年の世界選手権に出場した選手がいたのです!
愛知県岡崎市に住む、杉田裕樹(すぎた・ひろき)選手(29)です。


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右が杉田選手。週3回、仕事帰りの21時過ぎから練習に励む

※テコンドー
「蹴る」ことに特出した韓国の国技。かかと落としや後ろまわり蹴りなどの足技で戦い、「足のボクシング」とも例えられる。パラテコンドーは、胴に蹴りが入ったら1点、そこに回転が加わると3点。現在のルールでは頭への攻撃は認められていない。パンチは得点にならない。


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左腕につける防具の装着は、道場の仲間がサポート


杉田選手は19歳のときに、友人の車の後部座席に乗っていて、交通事故に遭いました。フロントガラスにぶつかり、首から左肩にかけての神経を切断。左腕は動かせず、左手は指が内側に曲がったままの状態です。

それから3年後。杉田さんはテコンドーを始めます。中学生のときに一度だけ体験した「テコンドー」の楽しい記憶が残っていたのです。「“蹴り”だけのテコンドーならば自分にもできるのでは」。実は、かつて体験したときに指導してくれた人が、今通う道場の館長、申東準(シン・ドンジュン)さんなのです。
「みんながいるから今の自分がいる」と杉田選手。申さんをはじめとした道場の仲間や職場、家族などの“縁”に、感謝の気持ちでいっぱいだと話してくれました。


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中央:杉田選手 右:申 館長
申さんは「パラリンピック出場は、周りに勇気と希望を与える。杉田選手にはその素晴らしさを実感できるよう精進してほしい」と叱咤激励する。二人三脚で東京パラを目指す。


杉田選手「テコンドーが東京パラリンピックの競技に決まったとき、正直実感が湧きませんでした。パラリンピックなんて、テコンドーを始めたときは考えていませんでした。でも、今、たまたまチャンスをもらった。やれるチャンスがあるならば、目指したいという気持ちが強い。」

身長は168センチ。海外の選手は体が大きく、手足も長いので、相手との距離が離れると相手に有利。そこで、接近して戦うのが杉田選手のスタイルです。


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左足で相手を崩しながら、力強い右足の蹴りで倒す

またテコンドーの構えは半身ですが、杉田選手としては利き足が右なので、相手に向かって左肩を前にしたいところです。しかし、左腕が麻痺して動かないために相手の攻撃を前でガードできません。よって反対の、相手に向かって右肩が前、という構えで戦います。テコンドーはその半身の形を展開によって次々と変えていくのですが、杉田選手は片方の構えだけで戦います。
さらにテコンドーは、回転しながらの蹴りが決まると高いポイントを獲得できます。しかし、杉田選手は左腕が外側になる回転はバランスを崩しやすいため、その逆の回転がどうしても多くなります。よって、相手に攻撃が読まれやすくなってしまいます。それを克服しようと、これまでは「勢いで戦っていた」が、これからは「もっと理論的に戦いたい」と話していました。

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高さがある攻撃は有効!しかし…


そして杉田選手の最大の持ち味は、体がやわらかいこと。上段への攻撃が得意で、これまで健常者の大会で準優勝をしたこともあります。そして、去年のパラテコンドー世界選手権に向けても練習していました。しかし…。

現地のモスクワで、「危険なため頭への攻撃は認められない」というルールを知ることになります。杉田選手を始め、同行した申さんもパラの国際大会は初めて。そうしたルールの情報は、パラテコンドー途上国、日本にはまったく入ってこなかったのです。世界選手権は12-4で初戦敗退。その悔しさは、今後の国際大会で晴らしてくれるでしょう。


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去年6月の世界選手権。パラテコンドーでダントツの力を持つロシアの選手に健闘。(写真:申東準さん提供)

その国際大会、近々開催されます。「第1回アジアパラテコンドー選手権」が、4月中旬、台湾で開かれます。杉田選手も出場予定。「優勝を目指したい」と力強く話してくれました。


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右腕だけで腕立て伏せ。基礎体力も、技術と合わせて磨き上げていく


私との別れ際、杉田選手は「他のパラ競技の選手に会ったことがない」と話しました。仕事との両立はどうしているのか、など聞いてみたい、と。

選手も競技自体も、パラテコンドーは5年後の東京に向けて、今、日本でまさに産声をあげたばかりです。このブログを読んでいただいたみなさんとともに、盛り上げていければうれしいです。


リオ・ピョンチャン・そして東京へ。
すべてのパラリンピックを盛り上げるために、ハートネットTVは取材を続けていきます!

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