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【大会7日目】アルペン元オリンピック日本代表・皆川賢太郎さんに聞く。

2014年03月15日(土)

大会7日目の放送を終え、
解説いただいた皆川賢太郎さんにお話を伺いました。

20140313_minagawa.jpg鈴木猛史選手の“世界で唯一”という逆手の技術、皆川さんからご覧になっていかがですか?
やっぱりもう見た目で技術の違いがまず分かりますね。あとは1番見てて分かるのはライン取りですね。スキーっていうのは制限されたゲートの中をいかにくぐるかなので、真っ直ぐ滑るのが1番早いんですよね。それに対して「曲がる」という動作はすべて抵抗になるんですよね。その中のライン取りによってタイムっていうのは自ずと変わってくるんですが、彼が通っているラインっていうのは我々アルペン選手でもトップクラスの技術で、自分から視角に対して見積もっているライン取りを通れているんだろうなっていうのをすごく感じました。


鈴木選手のチェアスキーに小さなカメラをつけて撮った映像があるんですが、曲がっているのに真っ直ぐ滑っているように見えるんですよ。あれは驚きでした。
そうですね。やっぱりチェアスキーでも遠心力をすごく非常にうまく使っているのと、やっぱり遠心力を使うだけだと小さな弧は描けないので、遠心力から始まったターンをゲートが当たるまでにいかにその外側に対して重心位置を変えてその動きをため込むか、みたいな事はすごく専門的ですけれど、僕ら健常の人間がやっている事を、自分の身体と道具(アウトリガー)で、すごく雪面との距離がある中であの技術を出来るっていうのは非常にすごい。僕は見ていて想像つかなかったです。本当に素晴らしくて障害じゃなくて1つのスポーツというように見えました。


あの体幹を維持する、曲がっていく時のバランスですよね。
ソチは特に天候が途中で雨に変わり、雪に変わり、最初は気温が高いので霧が結構かかっていたと思うのですが、その中で自分の視点がチェアだと目線が低い中で、あの雪面の掘れようっていうのはもっと我々よりも大きく見えるものなんですね。そこに対して鈴木選手は、あれだけのラインが取れるっていうのは勇気がどうしても必要なんですよね。我々が滑る時ですら、番号が後ろになればなるほど荒れてくるので。自分の脳もコントロールをどんどんかけてしまうので、トライした事がもうすべての結果だったと思います。技術は当然あるんですけれど、トライをしたっていうのがすごく僕はアスリートとして素晴らしいと思いました。


それは裏打ちされた、何百本、何千本、何万本の、練習ですね。
それこそ狩野選手だったり森井選手とかから上がって来る情報で、「猛史だったら行けるよ!」と。仮に僕ら競技者から見てあそこの箇所が荒れているよ、というのは情報であげるけれど、彼の技量を分かった上でのインフォメーションだったと思うんですよ。単純に僕が見たら結構荒れているし、だからそこの同じ量、同じ練習をみんなでチームで繰り返した事で情報戦も合致している気がして。本当に素晴らしいなと思いました。


皆川さんが競技されていた時は木村公宣さんとかがいた時代ですよね。そういう時のやりとりはどうでした?
もちろんあります。中間からどれぐらいの部分であの落ち込みのところが荒れているよとか、そういうようなのを情報としてあげるんですけれど。やっぱりソチの、あれだけ荒れたバーンが上から下まであるとアドバイスのしようがなかなか難しいし、コントロールしろって多分彼の技術じゃなければ言うと思うんですよね。だけど彼が選んだ道っていうのは攻めるというライン取りだったから。あれは何と言うかチーム力も感じたし、彼がそこに対して取り組む勇気っていうのはすごかったなと思います。


ある種、森井選手にしても狩野選手にしても鈴木選手の技術を信じて。
そうですよね。普通だったらもうちょっとアウトからだと思うんですよ。例えば狩野選手も森井選手も、もう1本アウトから出ていて、アウトで滑っているので。それで鈴木選手はもう山の頭からインをつくように選択していたんですよね。そうするとやっぱりタイムとしても圧倒的な差が出ますし、それをクリアできると信じたんでしょうね。


そういう自信っていうのはなかなかないですよね。いくら滑ってもこの4年に1度の大舞台という所では・・・。
僕がすごいなと思ったのは、あれをスタート台に立った時にあれをどんな選手であれ、仮に僕でもひるむものって沢山あるんです。自分への戦いがアルペンスキーにはあって。それに対して自分でけじめをつけてスタートしなきゃいけないんですよ。そこへの短いストーリーっていうんですかね、それに打ち勝った事が1アスリートとして素晴らしいと思いますね。


けじめの付け方っていうのは人それぞれなんですか?
鈴木選手は緊張しましたかっていう質問の中で、違う事を考えましたって言ったんですけれど、多分スタートは1分前2分前3分前ぐらいで違う事を考えるのって実はすごく難しいんですよね。彼はお茶目にそこを言ってましたけれど。多分いくつものことを乗り越えて、「ああだったらどうかな」って不安をかき消してはずっと塗り替えて、塗り替えて、スタート台に立っていると思うんですよ。そしてあれだけ荒れている所を、スタート台に立った時に本当に見るんですね。頭の中で荒れているとは思っていたんですけれど。スタート台に立った瞬間に本当に荒れている所を見て自分で「よし、俺は攻めるぞ」という選択をする。それで結果をつかむという。それが僕は1番感動しましたね。そこは本当に感動しました。


20140313_minagawa002_R.JPG
左から、山田アナ、為末大さん、皆川賢太郎さん、
NHKソチパラリンピックアイススレッジホッケー解説者・須藤悟さん



昨年度はワールドカップの総合チャンピオン、回転では2年連続のチャンピオンで、下馬評では鈴木選手に勝てる人は絶対にいないだろうっていう中で、日本でもメダルを期待されて、彼も自分を奮い立たせるために「3度目の正直」って言ってましたけれど、そこを実現したっていう所の素晴らしさっていうのは?
クロアチアの選手は1本目で1番になったんですけれど、実は僕はトリノオリンピックで、1本目を60%から70%で滑っているんですよ。やっぱり自分の立ち位置っていうのは1本目からもちろん現状では僕が出れば1本目からアタックをかけないといけないんですけれど、優勝を手に出来るかもしれないっていう選手は割と1本目って引きで見ているんですよね。それがすでにできていたので、あれは素晴らしいですよね。


自分の強さとの駆け引きではありますよね。
やっぱりその日の状況に応じてそこは2本目にどういう環境になるのかって分かってきますからね。雪質で。だから自分がどれぐらいコントロールすると、どれぐらいの位置なんだろうっていうのは後どれぐらいガスをあげなきゃいけない、エンジンを上げなきゃいけないのかっていうのは多分1本目でよく分かったと思うんですね。あれはすごかったです、感動しました。


本当にありがとうございました。
いえこちらこそ、ありがとうございました。皆さんにおめでとうと伝えてください。


 

◆シリーズ ソチパラリンピック
3/20(木)夜8時、熱戦の舞台裏を生放送!


 

過去放送
(1)目指せ!“ぶっちぎりの速さ” ―アルペンスキー 狩野亮―
(2)攻めてつかめ!まだ見ぬ“金” ―アルペンスキー 鈴木猛史―
(3)究極の走りへ!最強ロシアに挑む ―ノルディックスキー 久保恒造―
(4)ただひたむきに 前へ ―ノルディックスキー 出来島桃子―

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