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【大会4日目】NHKソチパラリンピックナビゲーター・為末大さんに聞く。

2014年03月12日(水)

大会4日目の放送を終え、
ナビゲーターの為末大さんにお話を伺いました。


20140312_tamesue001.JPG開会式のあと競技はいくつかご覧になられたのですか?
バイアスロンですね。スタンディング(立位)とシッティング(座位)と。

久保さんですね。為末さんは陸上で競技をされていた経験がおありですが、実際に銅メダル獲得の瞬間を間近でご覧になられていかがでしたか?
冬は初めてなんですよね。オリンピックも観た事が無かったです。バイアスロンって競技がよく出来ているなと思うのは、心拍数を途中で下げなければいけない競技ってあんまり無いですよね。「静」と「動」が両方入っているような競技っていう意味でも、見ててよく出来ていておもしろい。あとは用具が発展途上みたいな所もあるなと思っていて、だからそこのおもしろさがあると。あとは選手の身体能力ですね。相当に高いレベルになっているんだなっていうのがすごい。分かってはいたんですけれど、改めて実感しました。


よく出来ている、というのはどういうことでしょう?
バイアスロンですか。要は逆転の可能性が出ちゃうんです。
例えばマラソンであれば、先頭集団と数百メートル離れたらだいたい勝負ありかなって分かりますけれど、いくらトップでもバイアスロンは射撃を外してしまうとペナルティの1周があるじゃないですか。あれを数えていると20秒とか30秒ぐらいぐるっと回って。しかもその間走らなきゃいけないので、スタミナもロスするっていう事で、トップを走っていても安全じゃないんですよね。むしろトップを走っている時の心境ほど「外さなければ勝てる」っていう事は、逆に「外してしまったら危ない」っていう、その嫌なプレッシャーを抱えながら走るんだと思うんです。
早く撃ちたいんだけれど、早く撃つと心拍数が高くて。狙いがはずれちゃうし。待ちたいんだけれど、待っている間に次の人たちが入って来たりする局面もあるしというので、人間の焦りといろんなものがうまく合わさっていて、ゆっくりやって当てる事が1番大事だけれど、でも出来るだけ早く撃ちたいっていう、そういうジレンマが見えて。すごくおもしろかったです。


心理面と肉体面と技術面と。
それがやっぱり久保選手はゆっくり撃つんですよね。もうちょっと早く撃ってくれってこっちとしては見るのですが、でも結果として全発命中させて。そして後から来た選手がはずしてしまって。それが結局3位と4位の差を分けていたと思うので、何かすごく日本人らしい勝ち方っていうか、堅実に積み重ねていって勝ったなっていう印象でした。
あとは腕を使ってこいでいく競技なのに、腕で撃たせるっていう事の酷さが。あれはオリンピックのバイアスロンなら、足と腕だからまだ分かりますが、腕のみでずっとやってきたら感覚的にはぷるぷるする感じもあるだろうし、そこで撃たせるっていうのも・・・。もしかしたらバイアスロンに関してはオリンピックよりパラリンピックの方がかなり酷な競技に仕上がっているのかなという感じがしました。

選手とはどんな話をされましたか?
久保選手と話をしました。
「どんな感じでしたか」、と聞いたら、スタートして100メートルぐらいだけちょっとふわっとしていたんだけれど、あとは地に足がついて、やるだけやろうと思って淡々とやった、とのことでした。
結構落ち着いて出来たという事に満足感を持っていらっしゃったって感じですかね。


あとはシットスキーの用具の話が出ましたけれど、
宮崎さんからの情報によると、F1チームまで入って来ているみたいな話が。

そうそう。イタリアのチームにはイタリアの自動車メーカーが入ってきていて、座る所を作っていたりとか、あとはドイツチームは日本のメーカーのドイツの支社がドイツ人用に作っていたりっていうのもあったり・・。
多分ああいう競争がこれから始まるんだろうなっていう感じはします。


本当に(クロスカントリーの)シットスキーと(アルペンの)チェアスキーではちょっと違いますけれど、チェアでF1みたいだねって言ってたのが、シットスキーでも。
シットでも起きてきて。だからある意味で応援者も応援しやすい状況っていうか。「うちではこういうのが作れるから」っていうので支援しやすいし。
一方で選手側の感性もだいぶ試されますよね。選手達の感覚で物を作っていくしかないので。
僕は個人的には試合中には聞けないと思ったけれど、だからこそ彼らの感性っていうのは、終わってみてどんな感覚で競技をしているのかっていうのはすごい興味がわきました。


20140312_tamesue002_R.JPG
左から、為末大さん、クロスカントリー元オリンピック日本代表・夏見円さん。


ところで、ロシアのソチはいかがでしたか。
1個の町を大きくぼっこんって1個作っちゃったって感じでした。暖かいんです。15度から18度ぐらいかな。もともとあった町なんですけれど、競技をやった町とか選手村っていうのは本当にぼこんと1個新しいリゾートを作ったような感じで。ロシアの威信をかけてこの大会をやってきているんだなってすごい思いました。


冬の大会で半袖で滑っている選手を初めて見ました。
みんな練習は半袖でしたよ。
だからちょっと雪のコンディションも毎日変わったみたいで難しかったでしょうね。きっと。


為末さんだと選手の方達とも接触されているので、町を見る目線っていうのは変わられたかなと思うんですけれど、ソチの町はいかがでしたか?
選手が移動する所に関しては、かなり意識してバリアフリーに出来ていたと思うんですけれど、普通の市街に行くと、やっぱり急ごしらえで作ったようなものも多くて。でもその事を結構ソチの人たちも言っていて。ただ大きく違うのが、そういう“ユニバーサルデザイン”っていう世界があるんだっていう事を初めて意識したみたいな事を言っていました。
だからここからスタートっていうか・・。東京のオリンピックの場合は多分、そこである程度の形を見せる必要があると思うんですけれど。ソチの場合はオリンピック、パラリンピックが来たからここからスタートみたいなのかなという印象でした。選手が移動している所はかなり過ごしやすくなっていましたけれども。


障害におけるバリアフリーもある一方、言葉面とかはどうでしたか。
ロシア語だったので、あんまり分からなかったです。一応開会式の時のいろんな世界観というのは素晴らしいなと思いました。でもおっしゃるように本質的な意味のバリアフリーっていうのは意識なんだと思うんです。設計、いろんなものをデザインする人とか、1つ1つ人の考えとかがどのぐらいそういうものを想定されているかっていう事はあるんだと思うんです。すごくその点では、ソチというかロシアはこれから始まったっていう感じなのかなという気がしました。


パラリンピックがあって成熟っていうケースもあるかもしれないし、逆にスタートっていう意味合いで、社会が変わっていくっていう事もあるという。
オリンピックパラリンピックは同時開催っていうのがすごく効果が大きい事なんだなと思います。日本だと両方やってそんなに当たり前って感じですけれど。
何となく雰囲気を見ていると、パラリンピックもやるの?みたいな所からスタートしたんじゃないかなと思うんです。
でもやっていざそれで町の人の意識が随分変わるとしたら、これは大きいんじゃないかなと思います。

   

◆シリーズ ソチパラリンピック
ダイジェスト番組
大会期間中、競技の結果を毎日、30分のダイジェスト番組でお伝えします。


過去放送
(1)目指せ!“ぶっちぎりの速さ” ―アルペンスキー 狩野亮―
(2)攻めてつかめ!まだ見ぬ“金” ―アルペンスキー 鈴木猛史―
(3)究極の走りへ!最強ロシアに挑む ―ノルディックスキー 久保恒造―
(4)ただひたむきに 前へ ―ノルディックスキー 出来島桃子―

 

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