柳田邦男さんからのメッセージ『ハート展』(5月1日、2日放送)
2013年04月30日(火)
- 投稿者:番組ディレクター
- カテゴリ:マイスタイル マイライフ 障害とともに
- コメント(8)
5/1、5/2放送の「ハート展」に出演いただいた
ノンフィクション作家の柳田邦男さんより、
メッセージをいただきました。
(以下、柳田邦男さんの言葉)
■人間が生きるとはどういうことか
私は、NHK厚生文化事業団が長年にわたって開催してきた
「NHK障害福祉賞」という、障害者自身や、
あるいは障害のある人や子どもを支えた人たちの手記を募集して、
本当に素晴らしいと思う作品に賞を差し上げる仕事に、
もう20数年関わって続けてきたんですね。
(注:柳田さんは選考委員をされています)
またその仕事を介して、障害を持って生きている人や、
それを支えて生きている人が、
いかに多様に多彩に人生を送っているかを知りました。
人間が生きるとはどういうことかについて
教えられることが多かったんですよね。
人間が障害や病気を背負うということはとてもつらいことだし、
生きるのが大変なんだけれど、しかし、そこから生まれてくるもの、
それは、人生観だったり、死生観だったり、命の考え方だったり、
いろいろですが、ものすごく豊かなんですね。
だから、そういう形で障害者との交流を長年続けてきて、
私自身がものすごく啓発されたり気づかされたりしている。
それが、作家活動としても、私自身の生き方としても、
すごい重みを持っている。
この度は、ハート展に、絵を提供するという形で参加したわけですけれど、
このハート展そのものは前から知っていて、見学したこともあるし、
そこに投稿された詩を読むと、感じるものがあって、とても刺激的なんですね。
またハート展の詩を選ぶと、その作者がどういう日常生活、
どういう人生を送っているかということをスタッフが取材をして、
短いながらもVTRのドキュメンタリーとして提供してくれるんですが、
それを見ると、詩を介して感じていたものがまだ表層的で、
もっと深いものが、詩を書いている人の人生の中に
あるっていうのが見えてくる。
障害福祉賞だったら、応募した方々が400字詰め原稿用紙20枚ぐらい、
そこに濃密に書いてこられるのと同じように、ハート展も、
その作品の裏側にもあるんだということを実感しましたね。
■61歳 駿河富子さんの詩
今回、2本の番組に出演させていただきましたが、
1本目の番組では、聴覚障害のある61歳の駿河富子さんの人生、
その中で、言葉で表現すること、本を読むこと、
特に詩を書くこと、詩を読むこと、
それらがどんな大きくて重たい意味を持っているのかということを
ものすごく理解することができた。
これは、言葉を使って表現する活動をしている僕自身にとって、
素晴らしい気づきです。
(駿河富子さんの詩「書物」に対し、柳田邦男さんが描いた絵)
人間の生き生きとした言葉とか、血肉の通った言葉というのは
どこから生まれてくるのか。それはとても大事な問題です。
たとえば、人間は戦争を体験すると戦記を書く、
空襲体験をすると空襲体験記を書く。
あるいは、病気をすると闘病記を書く。
それは、なぜ書くんだろうかということの答えでもあると思うんですね。
ハート展の、この詩を書いた方は、詩を書くことによって
どういうふうに人生を豊かにしたり、
支えたりしているのかっていうのがものすごくよくわかる。
■11歳、加藤 空くんの詩
2本目では、加藤空君という11歳の少年が登場します。
内臓に重い病気があって、そして、食事もままならない、
だけれどもお母様がものすごい意を尽くして、
あらゆる食材を見事に消化できるようにつくって、
しかも彩り豊かに食卓に並べ、一緒に食事を楽しむんですね。
象徴的なのは、お鍋を前に、空君をまるで抱くように前において、
ガスコンロの前で料理をしたり、味見したりしている。
これはすごい映像だと思いましたね。
抱きしめるっていうのは最高の愛情の表現だし、
特に子育てにおいて、スキンシップ、
そして、何か一緒にするということがとても大事なんだけど、
それを食育の中でも実践している。
そういう愛情の中から育まれた子どもの人格形成、
人間形成というのはいかに素晴らしいものになるか。
重度の障害を持ち、そして、お母様が本当に苦労しておられる中での
空君の人間形成、その豊かさは格段に素晴らしい。
一番その素晴らしさがよく表れているのは、
空君自身が、自分の言葉で、自分の心にあるものを
しっかりと表現する力を身につけたということですよね。
(加藤 空くんの詩「それから・・・」)
この詩で面白いのは、「豚を食べれば豚は僕になる」と言ってるんだけど、
これは、豚肉をそのままでは硬くて胃腸が受けつけないから、
お母様がミキサーにかけたりとか、細かく刻んだりして、
しかも、おいしくつくってくれるわけね。
そういうものが自分の中に栄養剤として全身に溶け込んで、
自分の体を維持して、そして同時に、
お母様の愛情も全身に染みてくるわけですよね。
それが、「豚肉を食べると豚は僕になる」ということなんですよ。
ものすごく深いんです、あの言葉は。
また、取材のインタビューに答えて、いろんな管につながれたり、
胃ろうをしていたりするのは不自由じゃないか、つらくないかって聞くと、
全然そんなことない。これがあるから今の僕がある、と。
そういうことを11歳の子が、自分で言葉で表現するんですよ。
そういうことを、この番組が伝えてくれる。
これを総合テレビのゴールデンの時間にやらないんだって
思うぐらいなんですね。
こういう大事なメッセージをEテレでやっているんだってね。
こういう番組こそ選択して見るべきだな、見てほしいって思うな。
番組の中でも話したんですけど、
人間っていうのは、いろんな苦しみや悲しみがあってこそ、
心が耕されて、そして、本当の意味での豊かさ、成熟、成長が
もたらされるんですよね。
それをこの番組が教えてくれる。
僕は出演を頼まれて、感想を述べたり、コメントしたりしましたけれど、
実は、学ばされたと言ったほうがいいのかな。
またひとつ、自分は人生で学びを得た。そんな感じですね。
■自分をもう一人の自分が見つめる
駿河富子さんは、詩を書くことによって、
詩を介して自分をもう一度見つめ直しているわけですね。
加藤空君の場合は、いろんな医療器具や、
お母様の心のこもった料理を介して、
自分の命をしっかりと見つめているんですね。
自分を何かの形で、もう一人の自分が見つめるということ。
ですから、こういう番組を見た時には、見た感想なり、印象を、
あるいは、そこで描かれた障害のある人の生き方や考え方、
そういうものを自分自身に重ね合わせて、自分の人生を見つめ直して、
自分はどうなんだろうか。同じことはできないにしても、
できたらいいなと思ってみたりとか、
もう少し自分を、もう一人の自分という目で見つめ直してみようと。
そう思うだけでもとてもいいと思うんですね。
こういう番組を見ると、拒否感を持つ人もいる。
特殊な話だよとか、自分に関係ないとか。
けれども、もうちょっと自分の心を虚しくして、
空っぽにして、素直な気持ちで、
こういう番組やこういう人たちのことを見つめてはいかがかなと思うんです。
あらかじめ自分の価値観で選択してしまわない。
これは宗教的な信仰にも通じるんだけど、
自分自身が成長したり、成熟したりする上でとても大事なことは、
心をいっぺん虚しくすることなんですよね。
時に心を虚しくして、そして、何かいい話に耳を傾ける。
そういうことって大事なことなんだっていうことに、
気付いていただけたらいいなと思うんですね。
■NHKハート展 「書物」に
2013年5月1日(水) 20時00分から20時29分 Eテレ
[再放送] 5月8日(水) 13時10分から13時39分 Eテレ
■NHKハート展 それから・・・
2013年5月2日(木) 20時00分から20時29分 Eテレ
[再放送] 5月9日(水) 13時10分から13時39分 Eテレ
コメント
先生の著書(主として航空機の事故と安全に関する著書)の愛読者です。
大韓航空機007便「撃墜(上・中・下)」を何度も読ませて頂きましたたが、私の現役時代の三回の旧東独出張時のアンカレッジでのトランジットの際の経験と某社?発行のマニア向け「ジャンボジェットの操縦法?」での記載内容から、当該機のコース逸脱飛行の原因として、上巻P-40のマクドナルド議員・P・42のクルーや客室乗務員の乗込み方等の点などと、INSへのデータ入れ方等から機体振動がまだ収まっておらず、これがジャイロに影響を与えた・・・とは考えられませんでしょうか?今度の11月で私も後期高齢者⇒痴呆状態になるのも間近くなるのも否定できず、長年思って居たことを何としてもお伝え致したく、お許しください。
投稿:敏典 2017年05月23日(火曜日) 11時13分
私は現在大学で障害者支援について勉強しています。
初めてこの放送を見たとき、空くんの「これがあってこそ空だからね」という言葉に思わず涙が出ました。その穏やかな口調と表情に、こんなにも小さいのに、自分の障害について理解し、当たり前のように受け入れることができているのだな、と。それはやはり、お母さんがめいっぱい空くんを愛し、生きることの素晴らしさを伝えているからなのだと思います。
素敵な笑顔をありがとう。これからもお母さんと二人三脚で歩いていってくださいね!
投稿:真木 2013年11月14日(木曜日) 21時15分
富子さん笑顔があんまり綺麗で桜に溶け込んでいますよ。
早速あなたの詩、「私」をノートに書き込んで、あなたの後に続きたい。だって、あまりにもぴったりの子供時代だったから・・・。いや、私はまだ続いてるかな。あなたの偉いとこは、御両親が彼岸にいくまで我慢していたことです。私はパッチワークはまだできないから、歌を歌って、光をみいだしたいです。ありがとう!!ソウルメイトへ7・11の放送を見て60歳 無職
投稿:korota 2013年07月21日(日曜日) 12時35分
「言葉で自分を表現するっていうのは
自分の心を閉じ込めるんではなくて 鏡に映し出すんですね。
鏡に映すと自分の心が見えてくるんです はっきりと。」
「・・・表現するという事は 新しい自分 新しい人生を
生き直すというところに たどりつける訳です。」
柳田邦男先生の穏やかに、そして、とてもご丁寧にお話をくださるお言葉は、
ほんとうにどのお言葉もとてもすてきでノートに記して置きたいような、
そんな思いとともにテレビ画面からのお言葉を拝見いたしていました。
「言葉を介して生きなおしている」
「その枯れ木がもう一度春がきて新緑の淡い緑をつけていく・・・」
「その根っこにある 何か生命力というのかな・・・」
(ああ 柳田邦男先生は、「書物に」をこんなにも深く読み取られていらしたんだ)て。
自分の詩ながらも素直にとてもうれしいものを覚えてまいりました。
深く魂に響く、大変にすてきなお話を本当にありがとうございました。
五月の風にもキラキラ「スダジィ」の葉っぱたちが歌ってまいります。
テレビをご覧下さった多くの方々のお心にも・・・きっと。
(この場をお借りして一言お礼をさせていただきました。感謝)
投稿:Tomiko 2013年05月11日(土曜日) 15時58分
加藤空君とお母様素晴らしかったです。
まっすぐに自分を受け入れている空君の以前の入選作も拝見しました。
涙があふれてきました。
ご自宅でも点滴や胃瘻からの管理はお母様がされているのでしょうか?
そういったところももっと拝見したかったです。
お食事もかわいらしくとても愛情を感じました。
柳田さんがおっしゃるようにお友達にも囲まれて、傷害など感じさせい力強さがありました。
お友達にとっても空君は空君のままでいいのでしょうね・・・
サッカーの丸山選手もこういった活動をされていたのですね。
見方が少し変わりました。
自分に少し優しくなれそうです。すばらしい番組をありがとうございました。
投稿:こうめ 2013年05月07日(火曜日) 08時22分
84歳で、長らくパーキンソン病の母。今年、胃瘻となりましたが、言語聴覚士さんの定期訪問指導を受けながら毎回、口からの食事を試みた結果、摂食が相当に回復し顔に表情が戻ってきました。
そんな母の介護の傍で偶然に放送を見させていただきました。空さんと、お母さま、言葉に置き換えられない位、考えさせられ、また教えられもいたしました。この番組を見れたことに心より感謝いたします。
投稿:あさひ 2013年05月03日(金曜日) 05時03分
偶然に見た番組でした。空君の”詩”を読み、空君の生きる目の輝きと姿勢に感動しました。夫が2年前に心臓血管の大手術を受けてから私の生活も一変しました。”生きる”ことに毎日向きあっています。理由のない葛藤に毎日しばられていました。お母さんの愛情にも感動しました。・・・・・私には、何が足りなかったか少しわかったように思います。お二人に会えて良かったです。心のつかえが取れました。
投稿:abityan3155 2013年05月02日(木曜日) 21時23分
昨日はNHKGを見たと思うのです。
今日はハートネットを見ました。
空君は病気の中で得るものがあったと思うのです。
幸福の中で見過ごされた小さな幸せが、人を成長させるのだと思います。
今の子どもも大人も、物質的には幸せのはずなのです。それが幸福感がないのです。
そこにあるのは他人の幸福を妬む気持ちや人の心が思うようにならないジレンマが隠されています。
空君にはそれが有りません。お母さんも同じだと思うのです。
人は誰かに喜んでもらえることが幸せではないかと思うのです。
お金は必要ですが、稼ぐ過程で誰かを泣かしていないかとかいう想像力が必要です。
空君には、そうした妬みの心もないし、他人の心をどうにかしようという気もないのではありませんか?
そんな気がしました。
投稿:猫好き 2013年05月02日(木曜日) 20時44分