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【インタビュー】今井 照さん「避難者は自分の気持ちと置かれている環境の間に大きなギャップがある」

2015年05月26日(火)

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5月27日放送(6月3日再放送)
原発事故・避難者アンケート
―何が福島の人々を苦しめているのか―
ご出演の今井 照さんにメッセージをいただきました。


《プロフィール》
福島大学行政政策学類 教授


――NHKでは大学と共同で、避難者1万6000人にアンケート調査を実施し、分析しました。その結果、実に4割を超える人々がPTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱えている恐れがあると判明しました。番組では、その原因や対策について考えましたが、収録を通してどのようなことを感じましたか。

番組のキーワードとしては「強いストレス」ということが挙げられると思います。それがどのような環境に置かれると生じるかということが、NHKと辻内先生の調査・分析ですごくクリアになっているので、問題や対応策も比較的考えやすい構成になっていると思いました。


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――PTSDの原因は、一回性の激しいトラウマ体験が原因となる「急性単発型」と、虐待のように繰り返しトラウマ体験にさらされる「慢性反復型」に分かれますが、辻内先生は、被災地の型はそれらが組み合わさった“福島型”だと仮説を立てていました。そのことについてはどう感じましたか。

それはつまり避難をしている人、避難をせずに残って生活している人、あるいはどこかへ移り住むと決めた人、避難していたけど地域に戻った人、みんな共通で大きなストレスを抱えているということですよね。自分の気持ちと置かれている環境との間にすごくギャップがある。それがあのような特徴的なグラフに表れているのかなと思いますね。

――高ストレスの要因として、「生活」「住まい」の不安などもありましたが、そうした現状はどうご覧になりましたか。

生活を安定させるためには、被災前と被災後、両方の地域関係を再建・構築していくといことが重要です。その選択肢のひとつとして、たとえば被災する前に仲の良かった近所同士が10件くらい集まってグループを作り、新たな場所へ住み直せるような仕組みがあってもいいのではないかと思うんですね。津波被災地にはそういう仕組みがあるんですよ。防災集団移転といって、津波被災地の近所同士が集まり、海から離れたところに土地を求めて、そこでみんなで暮らしましょうという。その際、新しい土地は行政が造成してくれます。建物は自己負担なのですが、前に持っていた土地を国や市町村が買い上げるので、そのお金で住まいを再建するわけです。原発被災地もそれと同じような政策があってもいいのではないかと思いますね。

――番組では、避難元と避難先の「二重の市民権」を得られるようにしてはどうかという提案もされていましたが、それも選択肢のひとつになるのでしょうか。

そうです。つまり、いろいろな選択肢があるということなんですよ。避難を続けるのも、元の地域に戻るのも選択肢のひとつで、その戻り方にしても、津波と同じような仕組みや二重の市民権もありじゃないかと思います。被害にあった方々なのに肩身の狭い思いをしている今の状況をなんとかしないといけないという問題意識は強く持っていますね。

――視聴者の方には、今回の番組を通してどのようなことを考えてほしいですか。

今回、番組でも「ふるさと」という言葉を使っているのですが、原発事故で避難せざるを得ない人たちは、童謡の「ふるさと」から連想されるような“郷愁”を失ったわけではないんですね。そこにあった“生活そのもの”を失ったんですよ。たとえばNHKに勤めている山田アナウンサーは、きっと生活の大部分がNHKという組織で出来上がっていると思います。そのNHKという組織が今この瞬間になくなってしまうのと同じなんです。そうすると山田さんはどうしたらいいかわからないはずですよね。そうなる可能性はどこで暮らしていてもあるんです。
ですから、その対応のモデルとなるような仕組みを考えるのは、実は災害ばかりではなく、ある日突然仕事を失ったという事例など、多くの問題に共通することなんですよ。だから、あの人たちはふるさとを失ってかわいそうというレベルをもう一段超えて、「今ここで考えることが大事なんだ」という問題意識を持ってほしいという気持ちですね。