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「親ががんになったとき 子どもにどう伝える?」

2016年02月24日(水)

全国で8万7千人あまり(推定値)

この数字は、“親ががんである18歳未満の子どもの数”です(去年11月 国立がん研究センターがん対策情報センター報告)。親ががんと診断された子どもの平均年齢は11.2歳。その子どもに親は自らのがんをどう伝えていくのか、そして宣告した後の親と子どもをどう支えていくのかを考えるセミナーが、今月、東京の国立がん研究センターで開かれました。(同センターのがんサバイバーシップ支援部主催)。

20160225_001.JPG当事者や家族だけでなく、病院の医療スタッフも大勢つめかけ、会場はほぼ満席。関心の高さを感じました(講演されているのは、放送大学大学院准教授で臨床心理士の小林真理子さん)。


これまで、社会の中でこの問題へのアプローチは十分ではありませんでした。
近年日本では結婚年齢や出産年齢が高くなり、がん罹患率が上がる年齢に親がさしかかるときには、まだ子どもは未成年というケースが少なくありません。

家族の一大事の中で、「子どもには迷惑をかけまい」として、親は子ども抜きで病気への対応を考える傾向にあります。一方で子どもは、真実が伝えられていなくても、親の様子(活発でなくなった、外見の変化、家庭内の緊張感など)からいつもと違うことを察し、最悪のことを想像してしまいます。親子それぞれの立場で、どう関わったらいいのか、近い関係だからこそ、「相手を傷つけまい」として本当のことを伝えたり聞いたりすることが難しいことがあるのだと思います。


子どもに見られる反応として、

・これまでと違った、その子らしくない言動を見せることがある。
・攻撃的になったり、落ち着きがなくなったりすることがある。
持ち物を忘れたり、宿題をやらずに成績が落ちたりするなど、学業に影響が出ることがある。
・「自分が悪いからお母さんががんになったのでは」と罪悪感や責任感が強くなりすぎることがある。

 

親としては、

・子どもにはかわいそうだから話せない。知らないほうが苦しまずに済む。
・子どもと一緒に闘病したいのだが、どうやって伝えればいい?
・自分の気持ちの整理もつかないので、話すとかえって混乱するかも。それが子どもに悪影響になるのでは?

 

こうした様々な事情のなか、「子どもに“親のがん”という家族に起きていることを伝え、事実や気持ちを共有していくことが大切です」と、長年この問題に関わっている、放送大学大学院准教授の小林真理子さんは話します。

親子のコミュニケーションが、家族皆でがんに立ち向かっていく力を作り出すことが数多くの事例で証明されています。親は、本来あるべき治療や子どもの世話にエネルギーをかけられるようになり、子どもは真実を伝えられ理解することで、安心を得るのと同時に、親から信頼されていると感じ、親を支える立場にもなります。

では、親は、自分のがんを子どもにどう伝えたらいいのでしょうか。
小林さんは「子どもの年齢によっても伝え方は異なる」といいます。一例として、小学校低学年の子どもに乳がんの母親がどのようにして伝えたかが紹介されました。当初、母親は手術後の傷跡を見せたくないと子どもと一緒にお風呂に入るのをやめたり、化学療法の後遺症で横になることが増えたりして、子どもは情緒が不安定になり登校できなくなってしまいました。それに気付いた看護師がカウンセラーにつなぎ、母親はカウンセリングを受けます。そして自分の心の準備をした上で、夫と一緒に絵本を使って自分が乳がんであることを子どもに伝えました。すると、子どもの方から「ママ、一緒に頑張ろう」と言われ、伝えた日から一緒にお風呂にも入り、抜け毛対策用の帽子を一緒に選び、さらに学校にも登校できるようになったそうです。

また、国立がん研究センター中央病院の緩和医療科に勤める小嶋リベカさん(ホスピタルプレイスタッフ、臨床心理士)は、「子どもに本当のことを伝えるタイミングには、遅すぎることも早すぎることもありません。仮に『今は病名を伝えない』という判断をしても、子どもに聞かれた時には嘘は言わないことが大事です」と、家族の中に内緒を増やさない環境づくりを、家族とともに考えるようにしているそうです。

 

20160225_002.JPG小さい子どもに伝えるために、絵本のほかに、内臓がわかるぬいぐるみを使って説明することも。また、交換日記を使ってコミュニケーションを取る方法が紹介されました。そのやりとりの日記が、後々“宝物”になったという人もいるそうです。


また、中には、子どもは家では親に心配かけまいとして「いい子」でいる一方、学校で問題を表出したり、いつもと違う反応を示したりする場合もあり、学校現場での理解も求められます。子どもは日中の長い時間、学校で生活をするだけに、子どもへのサポートは家族だけが背負うのではなく、学校や病院、地域など幅広く関わることが必要ではないでしょうか。

 

20160225_003.JPG教育現場で、“親ががんの子どもがいるかも知れない”というアンテナを立てること、さらに“相談を受けたときにどう対応するか”を考える必要があります。子どもはどんな気持ちなのか、その気持ちに寄り添うためにできることをまとめた冊子を、放送大学大学院の小林真理子研究室が作成しました。

子どもは、親の変化を敏感にとらえます。その中で、子どもを一人の人間として、「あなたを大事に想っている」という気持ちとともに、状況を正しく伝えることが必要だと感じます。伝えたとき、泣く子もいるでしょう。我慢してグッとこらえる子もいるでしょう。その子どもを丸ごと受け止め、コミュニケーションを重ねる中で、その先には、「がんに対して一緒に立ち向かっていく」という気持ちが子どもにも芽生えるはずです。親の姿を見て、「生きるとは何か」を考えることにもつながるのではないでしょうか。

親のがんを子どもにどう伝え、どう支えるか。
答えがない中で、経験された方の話が大いに参考になります。私は「こう伝えた」という体験談がありましたら、このブログの「コメント」欄にぜひお願いします。



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