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"縁"~孤立死から考える~

2015年03月12日(木)

先日、「おみおくりの作法」という、世界の数々の映画祭で賞に輝いたイギリス映画を見ました。“死”を扱ったこの映画で最も印象に残ったのは、“人のつながりとは何か”でした。


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(c) Exponential (Still Life) Limited 2012 主人公ジョン・メイ。孤独死の人を弔うのが仕事だが、彼もいつも一人だった

ロンドン市の公務員、ジョン・メイ。家で一人きりで亡くなった人の葬儀を執り行うのが彼の仕事。一人で旅立った(孤立死した)人の家族や知人を見つけるために奔走します。また葬儀のために、その人が好んだ音楽を選び、遺留品から人生を想像して、温かい言葉で弔辞を書きます。亡くなった人々の魂が、品位ある方法で眠りにつくのをきちんと見届けるのが彼の作法でした。


ある日、真向かいのアパートで、アルコール依存症の男性の遺体が見つかります。メイは部屋から古いアルバムを発見。そこには、満面の笑みで笑う少女の写真が収められていました。メイは写真を手掛かりにイギリス中を回り、男性の人生が“復元”されていきます…。

メイは、そうした一人一人の人生に向かい合い、縁をやさしく縫い合わせ、一本の人生に紡ぎ直そうと奔走します。葬礼に一人で参列することも。孤独のうちに旅立った人にとって、一人でもいい、自分がこの世にいたことが誰かの心に残り、死を悼んでくれたのならどんなにうれしいことか。

人間の尊厳とは何か、“縁”とは何か。
その問いが心に迫る映画のエンディングに、涙が止まりませんでした。


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女性を探し出し、父が亡くなったことを伝えるメイ


「孤立死」について、国レベルでまとまったデータはありません。しかし、東京23区のデータがあり、65歳以上の一人暮らしの人が自宅で死亡したケースは2,878人(平成25年 東京都監察医務院)。1日に8人という数です。第一発見者は家族が最も多いのですが、次に多いのが「保健所または福祉事務所の職員」です。連絡が取れず不審に思い、死後長く経過した上で発見されるケースも多いと言います。


今、日本は“無縁社会”とも言われますが、人はもともと“親と子”という縁があって、世に誕生します。それから成長する過程で、近所の友だち、学校の仲間や先生、職場の同僚といった人との出会いや別れを繰り返しながら、最期を迎えます。映画の主人公メイが、亡くなった人の写真を集めたアルバムには、笑顔の被写体が数多くありました。その写真は、かつて縁があった誰かが写したに違いないのです。孤独で死を迎えたとしても、それまで無縁だった訳ではありません。様々な理由で、地域や家族、会社といった縁が失われてしまったのです。

国立社会保障・人口問題研究所によると、65歳以上の一人暮らしの人は、全国で2015年には約600万人ですが、2025年には約700万人、2035年には760万人と増え続けることが予想されています(平成26年4月推計)。

「一人暮らし=孤立」という式は必ずしも成立しません。家族や地域の人などと連絡が取れる。または頻繁に連絡を取り合えないとしても、「ひとりではない、誰かとつながっている」感覚があることが、その人の“生”を支える一助になるはずです。地域のつながり、見守りが大事であることは言うまでもありません。

ただ、「地域でつながって」といっても、近所とのトラブルがある人や、その土地に引っ越してきてばかりの人にとっては、なかなか地域のつながりができにくいものです。そこで、“地縁に頼らないつながり”を作り、孤立死を防いでいこうという取り組みも求められます。


高齢化率が全国平均よりも高い愛知県愛西市の地域包括支援センターでは、日頃、介護支援専門員や、新聞や牛乳、乳酸菌飲料の販売店などに、高齢者の一人住まいの家で不審な様子があれば連絡してもらう「見守りネットワーク」を作っています。しかし、そうしたサービスを受けていないために、見守りからこぼれてしまう高齢者も少なくありません。

そこで、そうした一人住まいの家を、養成し登録された“傾聴ボランティア”が定期的に訪ねる活動を3年前から行っています。安否確認が一番の目的ですが、体調不良の人を病院につなげたり、話を聞く中で悪質商法にひっかからずに済んだりしたことも。1回の訪問は1時間以内。訪問頻度は高齢者とボランティアで決めます。これも“縁”ではないでしょうか。


地域の資源を使い、様々なアプローチで縁を生み出し、孤立死を防ぐ。
先送りできない、日本社会の喫緊の課題であると感じています。
 

コメント

孤独死。
若い人にも増えているようですね。
私も2歳の子供と二人暮らしで無職、持病でいつ急死するかわからない不安感の中生活しています。
誰しも孤立して生きたくない。けれども現状では誰にも頼れず行政のシステムにも限界があるため孤独死は増えているのではないかと考えます。

投稿:ひろこ 2015年03月25日(水曜日) 21時12分

お疲れ様です。孤独死、切ない言葉ですね、何事にも自由になった社会の悪い影響の現れだと思います。個人情報を守るための考えを見直していかないとと思います。私達の自治会の防災訓練で、つね日頃隣り近所と仲良く助け会うことが一番大事だと結論づけています。隣りは何をする人ぞでは、世の中上手くいかないと思いますが、この番組をとうして、少しでも明るく楽しい世の中で有ります様に願っております。

投稿:清満 2015年03月15日(日曜日) 08時01分