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"経験知"を"専門知"に Vol.2 患者専門家

2014年12月17日(水)

“エキスパートペイシェント”
日本語に訳すと「患者専門家」
「疾患のことは、その患者さん自身の立場でないとわからないことがある。」
そうした患者さんの経験“知”を尊重して、医療に役立てていこうというプログラムが、2002年からイギリスで行われています。当時のブレア政権が「患者中心の医療」を重視し、保健省の主導でスタートしました。これまでに、プログラムには7万人が参加し、今後全国展開が計画されているそうです。

対象は慢性疾患の患者さんです。病気と長くつき合っていく中で、その対応方法は患者さんでなければわからないことも多くあります。そのスキルを集め、同じ疾患の患者さんどうしで共有することで、ともにQOL(=生活の質)を上げていこうというのがプログラムの目的です。イギリスの公益法人の調査では、1人当たり年平均1,800ポンド(2010年。当時のレートで約23万円)の節約につながったと推計されています。

病院では、「医療者」と「患者」という関係の中で、患者さんは、医学の専門知識のない「素人」であるとみなされがちです。しかし、その症状とのつきあい方に関しては、患者さんが「専門家」。その経験を、自分の、または同じ症状の仲間の医療に活かし、前向きに生きていく力に変えようというプログラムなのです。


例えば、プログラムに参加したうつ病の患者さんからは「どのように気持ちをコントロールすればよいか参考になった」、糖尿病の患者さんからは「食生活が改善でき、病院に行かなくなった」という声が出ているそうです。

実際にイギリスに行き、このプログラムの担当者から話を聞いた、みずほ情報総研主席研究員の藤森克彦さんは、「患者さんの声が医療を変えている、という実感がありました。日本ではこれから後期高齢者が増えるにつれ、慢性疾患の患者さんも増えていくだろうと予想されています。患者さんの持つ生活上のスキルをもっと重要視して、日本にもスキルを学び合う機会を制度化してはどうか」と話しています。

日本では、いくつかの病院が同様のシステムを独自に取り入れていますが、まだまだ“点”の状態です。しかし最近では、ある学会で患者会から医療関係者が学ぶというシンポジウムが開かれました。徐々にですが、医療者と患者が垣根を越えて、医療について互いに考え合う場を作ろうという気運が生まれています。



自分で自分の状態を発信するということは、病気だけでなく、自分の生活そのものを見つめ直すきっかけにもなるのではないでしょうか。どうすれば伝わるのか、言葉や表現を見つけ、伝わったとき、医療者にも、病気を理解してもらう新たな見方を提供することができます。

さらに、患者さん自身、辛かった経験でも、同じような悩みや苦しみを抱える他の患者さんにも役立つという思いがあれば、自分の症状を少しでも肯定的に捉えるきっかけになるのではないでしょうか。まさに“「患者専門家」が患者を救う”。他の患者さんに「苦しんでいるのは自分だけではない」という思いを抱かせ、孤立から救うことにもつながるかも知れません。