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"血液の流れ"から見える"被災地の今"

2014年07月03日(木)

震災から3年が過ぎ、仮設住宅に住む皆さんの身体に変化はあるのか。6月中旬、宮城県石巻市と岩手県宮古市で行われた、エコノミークラス症候群や生活不活発病の予防検診に同行しました。
被災地の状況を、今後ますます注視していかなくてはならない。それを痛感した2日間でした。

私が見た、仮設住宅の現状を伝えます。

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宮古市田老地区の仮設住宅入口。「三年」をどう感じるか。「時」は振り返ることなく進んでいく


運動せずに長時間同じ状態でいると、血管に血栓(けっせん)(血の塊)ができる場合があります。いわゆる「エコノミークラス症候群」です。検診では、血栓が生じていないか静脈をエコーで調べます。


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検診の前にアンケート。今の生活を丁寧に聞き取る


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脚のふくらはぎのエコー検査。強く押して、静脈が血栓で詰まっていないか、拡張していないか、などを診る


血栓がふくらはぎで発見されたら、それが大きく移動して肺まで到達し、血管が詰まって肺塞栓症など大きな病気につながることがあります。そして震災をきっかけに外出が減り、動かなくなると全身の機能が低下する「生活不活発病」や認知症を招いてしまう危険性も。そうしたことにならないよう、動脈の硬さや血圧を同時に測る検査など、様々な角度から「病気の芽」を見逃さない検査を複数行っていました。もし異常が見つかれば、病院などで診察を受けてもらうよう紹介状を書いて案内していました。


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血栓陽性率は宮古で13%。驚いたのは、見た目元気そうでも陽性だった方がいたこと。“自分で大丈夫”と思っても、実は…というケースも。検査の大事さを痛感


さらに、検診会場に来た人たちに向けて、▼気軽に身体を動かせる体操を教えたり、▼食事で塩分を摂り過ぎていないか確認したり、▼血流を改善する「弾性ストッキング」を配布して、正しい着用方法を教えたりと、病気の予防となるようなメニューも同時に行っていました。

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石巻市の事業。南境仮設団地の集会所。気軽に身体を動かせる体操を皆で。


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石巻赤十字病院の植田医師による講話。わかりやすくおもしろく、会場は笑いに包まれた


検診だけでなく、予防につながる指導もセットで、被災した人の健康につなげようというプロジェクト。「健康維持に役立っている」「今後もこのような検診を受けたい」との声が寄せられ、満足度の高い検診となっています。



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宮古市田老地区で活動したメンバーのみなさん。医師の他に看護師、臨床検査技師など様々な職種の人が参加。盛岡市立病院が指揮を執り、新潟、石川、福井からも駆けつけている



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中東のカタールの基金による支援でプロジェクトが実施されている



震災直後からこの検診に関わっている医師は、検診の結果から、血液の流れだけでなく、被災した人たちの生活や住んでいる地域のコミュニティが見えるといいます。

医師によると、仮設団地によって、血栓の陽性率に差があると話していました。コミュニティができている仮設団地の血栓陽性率は比較的低いのだそうです。家から外に出て、同じ仮設の仲間と交流したり身体を動かしたりする機会があるからだと話していました。一方、交流が少ないコミュニティでは、外出するなど日常的に動く機会が少なく、血栓ができやすい状況につながるのだそうです。


さらに、今、血栓陽性率が上昇する傾向が出てきています。震災直後、陽性率は急激に上がりましたが、その後低下。しかし、今、再び緩やかに上昇傾向になってきたのです。なぜなのか。

被災地のコミュニティに変化が出てきたからです。
最近、復興公営住宅が徐々に出来はじめ、仮設から転居する人が増えてきました。今、仮設住宅は所々空室になり、櫛の歯が欠けたようになっています。その結果、人が減り、さらには日頃交流していた人がいなくなるなどで、仮設に生まれていたコミュニティが崩れているそうです。家から出ることが少なくなることが血栓陽性率の上昇につながるのでは、と医療チームは危惧しています。


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一人一人の心に寄り添う


医療チームはさらに、今後、復興公営住宅に転居した人もケアしていく必要があると強調しています。集合住宅で密閉度が高い空間になることやコミュニティがまだできていないことで、入居者がより孤立しやすい生活環境になっていると言います。
「こうした陽性率の変化の傾向は想定できる」と、検診プロジェクトに参加する新潟大学の榛沢和彦教授は話します。復旧・復興の流れと血栓陽性率の関連が、新潟県中越地震や岩手・宮城内陸地震と同様だそうです。「だからこそ、過去の経験を踏まえた対策が必要」だと話し、予防に力を入れていくために、これからも定期的に長期的に被災地を訪れようと考えています。


被災した人たちの血の流れを丹念に診る活動は、人の命を救い、孤立を防ぎ、さらに“地域を診る”ことにもつながる。検査の結果を、健康や街作りにフィードバックできる地域の連携体制が必要だと感じました。


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私が石巻を訪れた日の地元紙朝刊。一面は、「東松島市の災害公営住宅(復興住宅)で初の自治会設立」との見出しでした。コミュニティを作ろうと、立ち上がった住民。自助だけでは限界がある。互助も共助も公助もすべて必要。支え合って生きていくために。





◆関連情報
ハートネットTV「被災地の福祉は今」
2011年3月11日に起きた東日本大震災。いま被災地の福祉の現場は、深刻な状況に直面しています。こうした現状は、少子高齢化が進む日本の未来の縮図でもあります。被災地の現場から、今後の「福祉」のあるべき姿を探ります。

「被災地の福祉は今」ブログ

コメント

NHK内にも真に庶民と向き合う番組作りをしている派と政権・大企業肩入れの二極構造・・・解説委員・キャスターどちらを向いているか顔に出ているものだ。これからも良い番組作りを期待しています。

投稿:MA 2014年07月07日(月曜日) 21時13分

山田さん、お疲れ様です。ハートネットTV特に山田さんが出演している番組は、録画しています。いつも、心が痛みますが泣きなさ〜い、笑いなさ〜いと自分なりに理解しています。今回も被災地の皆様の健康のことが、一番に大切な支援活動ですから、継続して一日でも早く皆様方の笑顔が見られますように、お祈りしています。この番組の力を信じて応援しています。

投稿:清満 2014年07月05日(土曜日) 05時54分